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ICT教育について無料塾代表・取材者の立場から整理

今日、某新聞社からICT教育についての取材を受けたので少し考えを整理しておきます。教育のオンライン化については、無料塾代表の立場からも、あるいはこのテーマで何度か取材してきた者としても、いろいろ考えることが多いのですが、自分の頭の中であまり整理されていない状態に気がつきました。

今日お話をした記者さんは、なんでもかんでもICTというのは違うのではないか、GIGAスクール構想が進み1人1台端末が配られたとして、家庭の経済状況(Wi-Fiが契約できないなど)によってさらに格差が開くのではないかという疑問をお持ちでした。

まず、教育のオンライン化が必要かどうかですが、これは確実に必要です。昨年の一斉休校のときに学びの場がいっさい失われてしまった子が出てきたのは事実で、あのときすでにオンライン授業などのノウハウが学校にあったならば、子どもたちは学びを止めずに済みました。
あの当時、導入がすぐになされなかった要因にはさまざまなものがありました。学校側にノウハウがなかったこと、教育委員会や校長・教頭など管理側にオンライン教育に関する情報や熱意がなかったこと。学校のサイト上から授業動画を配信しようとしたら、サーバ容量が足りなくて15秒くらいしか載せられなかった(サーバ容量を増やす予算も足りていなかった)という学校もありました。それから、やはり格差の問題。パソコンが家にない子はどうするんだ、ネットがつながらない子はどうするんだ。横並びじゃないと物事が進まない学校において、「格差が生まれるからやらない」というのはいい口実になりました。自治体側も、「端末がない子に行き届くよう準備する」とアナウンスをしていたところがありましたが、遅々として進まない。この理由を議員などに聞いてみると、「業者の選定に時間がかかっている」といった理由が主だったようです。そうこうしているうちに休校期間が終わり、教育ICT環境を進めようという話はうやむやになった印象です。

ここでひとつ言いたいのは、「お金がない家のせいにしないでほしい」ということです。「そういう家庭があるから、そもそもやれない」ではなく、まず導入してインフラ化してから、あるいは導入を進めながら、「ない家庭があるのはまずい」からそこはサポートしていこうという順序であってほしいです。
新型コロナワクチンだって、効かない人がいるから全員やらない、なんてことにはなりません。
そりゃあ、無料塾に通っている子の場合、家庭にIT環境が整っていない子の割合は高く、そういう子が遅れをとらないようにしてほしいとは思いますが、それは行政が真剣に教育に予算を割こうと思えばカバーできる話で、「だからやらない」というふうに、責任を押しつけないでいただきたい。

今週金曜に発売される日刊ゲンダイに、このあたりの話を取材した記事が出るので、時間があればまたご紹介しますが、とにかくICT化は進めるべきです。うまくいっている公立の学校ももちろんあります。

それから、なんでもICT化すればいいのかというと、それはまた別の話です。
私も無料塾でオンラインでの指導を経験しましたが、今まで通り紙の問題集を使って対面で教えるのと、オンライン上で教えるのとでは、かなり理解度に差が出るのを感じました。
たとえばZoomなどを使った双方向のやりとりにしても、どんな表情をして聞いているか、どのように手を動かしているか、問題を解きながらどこで苦労しているか、どういう姿勢で座っているか、細かい情報が伝わってくるかどうかで教える側もいろいろな調整ができますが、そこがうまく読み取れないことで、「本当に理解しきったかどうかわからないけど、前に進めざるを得ない」場面がよく出てきました。
かなり手広く、それこそ世界にまたがってオンラインで学習支援をしている団体の代表さんと話していても、「教育には人と人とのコミュニケーションが必要で、対面を完全になくしていいとは思わない」ということをおっしゃっていました。

課題をオンライン上で出して管理するといったことに関しては、確かにすぐに届けられることは便利ではありましたが、それによって生徒のモチベーションが変化することはなく、かつ教材によって合う・合わないがあったり、質もさまざま……これは紙の教材と同じような状況でした。パソコンを使ってやっていた子に関しては、「普段あまり使っていないパソコンのところまで行って、電源を入れる」と腰を上げることに、ひとつハードルがある子もいました。
オンライン教材は、英語なら単語をポチッとやれば発音がすぐわかるものとか、ゲーム感覚で暗記ができるものとか、いいなと思うものもたくさんあるのですが、大人がいいなと思っても、子どもにとって勉強する意欲がわくかどうかはまた別の話のようにも思いました。
もともと紙だろうが何だろうが、やる子はやるし、やらない子はやらない。ここは経済状況には関係ない部分もあるように感じます。

パソコンとかインターネットというのは、あくまでもツールなので、それを取り入れたらみんな学力がみるみる上がるとか、そういうものではありません。成績管理とかはさすがにIT化したほうが断然ラクで、教育の現場ではもっと先生たちがITを取り入れていったら、業務はめちゃくちゃラクになるはずだろうなとは思います。生徒が自分の成績の上下をグラフで簡単に見られたらモチベーションアップにもつながるのでは!と言う人もいましたが、成績のグラフはすでに各学校、先生がひとりひとりに作ってくれていて、紙で配られて見ることができます。それでやる気がわく子はもともと勉強ができている子です。ただ、先生がこれをデータでぴろろ〜んと送ることができたなら、プリントアウトしてファイルに綴じて…という時間や紙資源のムダは省けるから、やるべきです。先生たちはもっと仕事をラクにするべきです。その分、子どもたちを丁寧に見る時間を作ってほしいので。

なんだか、ICT教育というと、教科書も何もかも電子化して、ノートや鉛筆もなくして……みたいに極端に全部機械化することを考える人もいるみたいなんですが、それはさすがに非現実的だと思います。
ツールとして、取り入れたほうが効率的に学べる・効果が高い場合には、取り入れればいいという話であって、そうでない部分ももちろんたくさんあります。単語を覚えるのも、アプリでゲームして覚えることももちろんできますが、手を動かして鉛筆で紙に何度も書くよりそっちのほうが覚えられるのかというと、そういうエビデンスはないのではないかなと(あるんですか?)。
実際、うちの無料塾の生徒たちにも、英単語をアプリで覚えさせようと何人かの人が何度か試みましたが、それで覚えたという子はまだ一人もいません。大人にとっては「ゲーム感覚だからやりやすいだろう」と思えても、もっと楽しいゲームを知ってる子どもたちからしたら特に面白いものではありませんし、「スマホで家でやってみてね」と言って、一生懸命やってきた子など一人もいません。勉強をやろうという気のある子はそもそも大人に教えられなくても自分で探してやっていますし、誘惑に対してそれほど強くない子の場合、「学習アプリやろうかな」とスマホを手にした瞬間、YouTubeとかLINEとかインスタとか、もっと面白いゲームのアイコンが目に入ってしまって、そっちをタップしているのが現状です。別にこれがけしからんとも思いません。子どもってそうじゃないですか?
スマホで勉強させれば効率的だ!というのは別にそんなことはなくて、ノートと鉛筆を渡して、スマホをしまわせておいたほうが、「今からは勉強モード、集中せねば」と意識を切り替えることができる子も多いわけです。

でもそれでも、教育のICT化は絶対に進めてほしいです。
それは、昨年のように休校になったときに「何にもしない」「登校日以外は学校と接点がない」状態になってしまうのは避けたいからというのがひとつ。
それと、紙のプリントを作って配って回収するみたいな時間のロスを削減して、その分、一方的に先生が話して暗記させるのではなく、頭を使って考えさせたり、話し合いながら答えを導いていったり、実験したり、といった学びの時間を増やしてほしいというのもあります。オンラインをうまく使えば、他の地域、他の国の子たちとディスカッションしながら学びを深めていったり、さまざまな情報を得たり、いろんな価値観を知ったりということもできるでしょう。ツールをどのように使うかで、学びの幅はグンと広がるはずです。
あともうひとつは、当然ですがこれからの社会はITに触れずに働くことはほとんどできなくなっていくと思いますので、小さい頃から触り慣れておくというのは重要かと思います。ですから、先生たちにも当たり前のように業務をIT化しておいてほしいですし、Googleカレンダーなにそれ、Zoomってなんかこわい……とか言っててほしくないです。社会人として。


(私も新しいものを取り入れることに対して億劫に感じることがあるので、気持ちはよくわかります。しかも年々「今までどおりがいいんだ!」みたいについ思ってしまう度合いが高まってきてる気もして、これが思考停止という老化現象かと思うと恐怖です)

で、学びを効率的にするために適切なICT化を進めるのは(何でもかんでもIT万能だぜイェーイではなく)絶対だとして、そこで格差を言い訳に進めないなんてことはやめていただきたい。何をモタモタやってるんだよ!とも思う。教育現場のみなさんにはもっと価値観と働き方を変えていただきたい(若い先生方をはじめ、ICT必須だろと思ってる先生たちがたくさんいらっしゃるのも取材してきたので知ってる、それを阻むボスたちの存在がつらい)。
もちろん格差は当然埋め合わせるべく国や自治体が動くべきで、教育(すべての子どもが平等に教育を受けられる環境作り)に対する予算をちゃんととることはマスト。
教育に予算をとるなんてけしからん!という考えの有権者がいたとしても、それはこれからの日本をよくしようという気がない人なので、議員さんたちはそういう有権者は気にせず、教育予算を充実させるようにどんどん訴えていってください。

つらつら書いてたら4000字いってた。
考えはある程度整理できたような気がしました。お付き合い、ありがとうございました。

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大西桃子(ライター・無料塾代表)
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