さいたま市の学習支援の件から……私が行政と一線を画したいのにはワケがある。
今、無料塾業界で話題騒然となっているのがこの件。
有料記事で申し訳ないんですけど、さいたま市がこれまで数年NPOに委託していた学習支援事業が、今回入札制度に変わって、大手学習塾にとって変わられることになり、引き継ぎ期間もほとんどないままに4月に突入、そして教室開始に間に合わなかったというお話です。
何がどうなってこうなった?というのは、フランスのむーんたんが議会のやりとりを追いながら最終的に妄想をもとにまとめていますのでご確認あれ。
この件に関する議事録を見られるだけでもとても参考になります。
この話、新聞の記事にはショックで涙する子もいたということが書かれていて、私が最初に思ったのは「こうなっちゃったとき、どうしたらショックを受けた子どもたちを何とかできるのか」ということでした。もしもお金がなくても動ける完全ボランティア事業に切り替えられるのだったら、こんなことにはならず、受託終了となっても自分たちのところで生徒たちを引き取ればいいだけなのになぁ、とか。NPOと連携をとっているような、同志的な民間の無料塾がいくつか地域にあったら、そういうところで協力し合って引き受けることにして、信頼関係を結んでいた講師たちがじっくり時間をかけて引き継ぎするっていう手もあったかもしれないよねとか。
でも、8000万円以上のお金で動かしていたものが、その額が急になくなったときに動けるかというとやっぱり難しいわけですよね。
これはさいたまユースサポートネットさんのやり方を否定しているわけではなくて、昨年度261人というたくさんの生徒たちを1団体で支援するには大変なご苦労があったと思うし、「有償ボランティア」とか「ボランティアじゃなくきちんと雇用する」ことにもメリットや意義はあると思うのですけど。さっき他の無料塾の運営者さんと「もしかしたら、若者の就業支援としても機能していたのかもしれないよね」とも話してたんですが、そうだったとしたらそれはさらに、とても素敵な事業です。
この記事について、ご心配頂く声もありました。もし私の無料塾がそういう目に遭ったら、署名でもなんでも、出来ることは何でもしますとお声がけくださった方がいたのです。
でも安心してください。私たち、行政からの受託事業はやってないし、やるつもりもないし、あと助成金も受けてません。完全に民間のご寄付でやってます。
これには理由があるんです。立ち上げ当初からたびたび質問されて説明していることなんですけど、受託事業や行政などの助成金に頼ってしまうと、
●お金を自由に使えなくなる(学習指導のためにもらったお金で、子どもたちを遊びに連れて行ったり、食事に連れて行ったり、プレゼントしたりが難しくなる)
●受託を受けるために作らなきゃいけないルールとかで、がんじがらめになる(子どもをどこまで支援するかとかで、自由にできないことが増える)
●書類仕事に追われる(ただでさえ私は日々〆切に追われております。その時間あるなら子どもたちとの時間を増やすわ!)
これに加えて、今回の、
●打ち切られたときどうすんじゃ!(だいたい数年で打ち切られるし)
というのがあります。
そんなわけで、何ならNPOにするのも上記のような理由で避け、「民間のサークル」と言い張って活動をしております。生徒も、大学生も社会人も、このサークルの一員ということになります。
行政から事業を委託すれば、世帯収入などのデータをもとに、経済的に厳しいご家庭すべてに案内を送ることができるなど、たしかにメリットもあります。小さな団体がチラシを配ってSNSやってアピールしても、情報が届かない家庭は、やっぱりあります。情報が届くかどうかというのは、とても重要なポイントなのです。
その先に、情報が届いてもなかなか支援にまで到達しないケースへの対策というのがありますが、それ以前のところで、情報がまわることが大事。ただ、私がいる区では、実は民間の無料塾と子ども食堂の団体がネットワークをつくって、各団体の案内をリーフレットにまとめて、社協さんが各施設、各学校に配ってくれるという素晴らしい連携プレーが行われております。これによって、学校の先生や生徒たち、いろんな公共施設に訪れた人たちに存在を知ってもらえるので、ありがたいです。
みたいなね、民間側で団体がいくつかあって、それぞれに活動を継続できていて、しかもネットワークができてて、いろんなタイプの団体の中から子どもたちも選べて、というふうになっていたら、受託事業の打ち切りで放り出されたり、行政の都合でそれまで築いた信頼関係をぶった切られたりするようなことはないよねぇと思うのです。そもそも受託事業、ホントに必要なのかなとも思います。
でも、行政は何もしてくれるなと言ってるわけではありません。むしろ、そっちじゃなくて違うことやってくれ、と思うわけです。
この件に関しては、八王子つばめ塾の小宮代表がうまいこと言っていて、私も全面同意なのでぜひお読みください。ホントに、学校とか今持ってる仕組みをさらに充実する方向でやってほしい。塾じゃないだろ。
私ももちろんさいたまユースサポートネットさんを批判するつもりはありませんし、他にも受託事業を手広くやられている学習支援団体さんはいくつかあって、そういうところが広くやることで「こんな支援があるんだ」と世間に広まるということもあるしありがたいんです。広く運営しようと思ったら、やっぱり専属のスタッフが必要で給料も出すべきでしょう。
うちのような小さな団体は、大きな団体がメディアで取り上げられることでついでに知ってもらえたりするという恩恵も受けています。
そんな中で今回の件を見てあらためて思ったのは「私は手広くやらないし、受託事業も受けないし、完全に寄付で回してってやるわ」ということです。
学習支援は本当に、子どもやご家族との信頼関係をいかに築くかということがとても大切なんです。勉強する以前のところで、心や環境を整えるということが必要な子たちも多いです。学習支援を受けてから、やっと勉強というものにちょっとずつ向き合えるようになって、人と人との関わりの中でちょっとした心理的な変化が起こって、それによって「頑張ってみる」ということができるようになって、結果が出て、さらに頑張って、学力が上がる。ただ勉強を教えてれば学力が上がるわけじゃないんです。勉強に向かう気持ちを整えて、さらに「できるようになりたい」という欲を出させるところが、学習支援においては最も重要なポイントです。
そのために時間を割いて、言葉を重ね、思いを伝えてきた人たちが、急に子どもたちと切り離されたというのが、今回のさいたま市の出来事。今ちょうど気持ちの変化の時期だった子どももいるかもしれません。受験に向けてこの人と頑張ろうって思ってた子もいたと思います。友達からその場所のことを聞いていて、自分も行こうって思ってた子もいるかもしれない。そういうの、打ち切っちゃいけないんですよ。
受託事業は、打ち切られたときのリスクがあまりにも高すぎますね。
ボランティアじゃなくお給料を出すシステムにすると、資金が枯渇したときに一気に運営がストップしますね。
だから、自分がなんとか出せる、あるいは知り合いや友人たちから集められるお金の中でやって、「学習支援団体はめちゃめちゃ低料金でつくれて運営できて、しかもめっちゃ楽しくて、お金に代えがたい価値がもらえるんだよ!」というのを示していきたいなと思うのです。
そういうのを示していって、同じような形で民間の無料塾が増やすことができたら、結果たくさんの子どもをカバーすることができるよねぇと。
もちろんお金のこと以外にも、無料塾の継続にはいろいろな面から難しさがあるとは思います。でも、私が知ってる無料塾代表さんたちは、転勤になっても次の運営者にしっかり引き継ぎをして継続したり、出産妊娠をしながらもいろんな人の助けで運営を続けたり、ホントに頑張ってるんです。
無料塾同士のネットワークを利用して、ピンチのときに助け合うことも可能です。
だから、こういう完全ボランティアの民間団体を、もうちょっと増やしていけたらな。行政は行政で、やるべきことをガッツリ頑張っていただいて。私は、「無料塾運営ってめっちゃ面白いし、必要としてる子がいっぱいいるよ」というのをもっと広めていきたいと思っています。