私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #149 Satomi Side
毎回1話完結の恋愛小説。下のあらすじを読んだら、どの回からでもお楽しみいただけます。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳は社内恋愛で同棲中。琉生の後輩、志田潤はさとみに片思い。しかしさとみも志田のことが好きだということに気が付き、関係をもってしまう。琉生は知らず、さとみの両親へ挨拶を決行。さとみは琉生に別れを切り出せないまま、志田と二度目の身体の関係を持つ。今はフラワーアレンジメントの展示会が始まり、三人の日常が戻ってきた。
フラワーアレンジメントの展示会に来てくれた潤くんから、ご飯に誘われたけど、琉生の夕飯を作ってきていない。私は、受付をしながら琉生にLINEをしてみた。
「展示会に来てくれた友達に、ご飯誘われたんだけど行ってもいい?琉生のご飯、用意してないんだけど」
「いいよ。俺は適当に食べて帰るし」
LINEを待っていたかのような、即レスだった。もしかして、合流してご飯に行こうとか思ってくれてたのかな。少し心が痛むけど、いいと言ってくれた以上、詮索することをやめた。
「ごめんね。明日はご飯、作るから」
OK、というスタンプが来たので、私はそのまま潤くんにLINEをした。
「ご飯、行けます。受付は20時には終わります」
潤くんからも即レスだった。
わ~い、と万歳している犬のスタンプと
「駅前で待ってますね」
というLINEが来た。展示会場であるこのホテルまで来るとなると、またフラワーアレンジメントに通っている他の人に会ってしまうから、との配慮だろう。
20時まであと1時間ほど・・・。私はおしゃべりに興じる他の女性たちの横で、じっと時間が過ぎるのを待っていた。
***
「お疲れ様です!」
潤くんが私に駆け寄ってくる。飼い主を見つけた犬みたいだ。
「この辺のお店はあんまり知らないんですけど、ネットで見つけたとこ、予約したんで行きましょう」
「うん、ありがと」
私は潤くんに言われるがまま、店に向かった。予約してくれていたのは、駅から少し離れたところにある、小さなフレンチのお店だった。
「わ、クリスマスのコース、あるみたいですよ」
「ほんとだ。でも食べきれるかな」
「無理だったら、俺、食べるんで、頼みません?」
年末、クリスマス前ということもあってか、小さな店内は満員だった。
「素敵なお店だね」
「そうなんです。口コミ、めっちゃよかったんで。さとみさんとのデートはハズせないですし」
そういって潤くんが笑った。
デート、か。フラワーアレンジメント教室の作品も仕上がり、そろそろいろんな言い訳が出来なくなってきた。琉生とのこと、潤くんのこと。はっきりさせたい気持ちと、させるのが怖いと思ってしまう気持ちがある。
ぼんやりとそんなことを考えてると、店員さんが、細いグラスを運んできた。
「食前酒のシャンパンです」
「あ、さとみさん、大丈夫ですか?」
「うん、食事と一緒に、一杯くらいなら・・・」
乾杯をして、グラスをうちにい運ぶ。口当たりのいい、飲みやすいシャンパンだ。さっきまで乾燥したロビーで、受付をしていたので、勢いよく飲んでしまいそうになる。
「作品作り、どうでした?大変でした?」
潤くんが、フラワーアレンジメントの作品作りについて振ってきた。
「うん・・・正直大変だった。もっと楽しいかなと思ってたんだけど。正解がわからないし」
「そーっすねー。俺も、アレの正解はわかんないです」
「でもたまに“ゾーンに入る”っていうのかな。無心になって作業出来る時もあって、それはちょっと気持ちイイ感じがした」
「へえ。お花の世界にも、そういうのあるんですね」
「あとは・・・いろいろ自分のことを見つめ直す時間になったかも」
私は思わずぽろっとそう言ってしまい、慌てて口をつぐんだ。
「それって・・・レンアイとかですか?」
恋愛・・・。それもある。けど、もう少し大きなことで。
「私、何かを主体的にやってきた経験があんまりないんだよね。いつも、親や先生が喜びそうなほうを無意識で選んできたような。だから、自分で何かを選んだり、始めるっていうことが、苦手だったの」
潤くんは、運ばれてきた前菜を食べながら、黙って聞いてくれている。
「だから、作品でも好きにしていい、って言われても、本当に困っちゃって。少しずつ、自分の好きな花や色、形を選びながら、これって、もしかしたら人生に似てるかもなあ、って考えたりしてたの。・・・って大げさだよね、例えが。ははっ」
私は話していたが恥ずかしくなり、最後は笑ってごまかした。
「いや、でもそれ、わかります。俺、お花のことは全然わかんないけど、さとみさんの作品は、なんか“さとみさんっぽい”っていうか、こーゆーの全部好きそうだなあって思って、見てたんで」
「そっか、ありがとう」
自分のひとりよがりかと思っていたけど、ちょっとでも自分が好きだというものが、誰かに伝わったのなら、嬉しい。
今までの人生は、誰かが花束にしてくれたものを、プレゼントされた花瓶にそのまま活けているようなものだった。別にそれが自分にフィットしていたら、それでいいのだ。だけど、少しずつ、違う、と気づいて、まして自分で選べる環境にあるなら、選ばない理由はない。
「それでね・・・その時に考えてたこと、話していい?」
「はい。もちろんです」
「私、今まで彼氏と付き合うのも、別れるのも、全部相手の言いなりだったのね。好きって言ってくれてるんだし、付き合おうかな、とか、別れたいっていうから別れたほうがいいのかな、って」
潤くんはちょっと目を伏せた。ように感じた。
「琉生ともそうだったし・・・このまま潤くんと付き合ったら、また同じで」
「いやそれは違うくないですか?俺が有利になることを言うわけじゃないですけど。琉生さんとだって、ホントにホントに絶対嫌だったら付き合わないじゃないですか」
「うん・・・でも振り返ったら、琉生とも根負けして付き合ったようなもので、好きになったのかとか、わかんないの」
「じゃあ、俺とは・・・」
私は、頭の中で、一生懸命言葉を選んだけど、適切な言葉が浮かばなかった。何を言っても、傷付けてしまうのは、同じことだ。
「潤くんと一緒にいたら、楽しいし、LINE来たら嬉しいと思う。けど」
私はそこで一旦、言葉を切った。
「琉生の時もそうだったから」
そこからしばらく、私も潤くんも黙っていた。
あたたかいスープが運ばれてくる。スプーンで一口すすると、お腹の中がほわっと温かくなるのをかんじた。
「琉生と別れたら、しばらくは“彼氏”は作らずに、1人の時間を持ちたいなって考えてる」
潤くんは無言だった。
「お花はもっと突き詰めて勉強していきたいし、今、潤くんや琉生も昇進試験で勉強してる姿を見て、私ももっと仕事も一生懸命やりたいなって思い始めたの」
「・・・別に、俺が勝手に待ってるのは、いいですよね?」
「いつ、付き合えるとかは約束できないよ」
「はい」
優しいな、潤くんは。私は、潤くんに対して、すごく酷いこと言ってるのに。
自分の年齢を考えたら、結婚しようと言ってくれている人を振るのも、好きだと言ってくれている人を振るのも、どうかと思う。
花だって、仕事の勉強だって、恋愛や結婚をしたからといって、出来なくなるわけではない。だけど、私は不器用なのだ。いくつものことが同時にできない。フラワーアレンジメントをやってみて、もっと突き詰めたいと思ったのも事実。琉生とも潤くんとも少し距離を置いて、琉生と付き合う前の、ぼんやり一人暮らしをしていた時の自分とは違う、もっと主体的に生きるということがしてみたくなったのだ。
「こちら、メインのお料理です」
潤くんには、お肉のプレートが。私の前には白身魚のプレートが置かれた。
「私ね、こういう時でも、相手と違う物、頼めない人だったの」
「えええ?」
「びっくりするでしょ」
「え、だってそんなの好きなほう頼めばいいじゃないですか」
「それが、なんか、出来なかったんだよねえ」
「えー・・・信じられない」
そう。レストランのメニューでも、家で飲む、飲み物さえも。相手というか、琉生に合わせてた。
「じゃあ、ちょっと成長したってことですね!年上に成長とか言って、失礼ですけど」
潤くんは、いつもの笑顔で言う。
「俺、ずっと待つって言ったじゃないですか。だから勝手に待ってますよ」
***
デザートまで食べ終わるころには、すっかりいつもの感じに戻っていた。潤くんといたら、楽しい。だけど、琉生と付き合い始めたときも、そう思っていたのを思い出したのだ。
私は、今なら変われそうな気がする。ここで琉生と結婚しても、潤くんと付き合うことにしたとしても、一生後悔しそうだと思った。
あとは、琉生に話すだけだ。
店を出て、潤くんは自然に私の手を取った。私もそれを振り払うほどのことはしたくなかったので、そのままでいた。
「琉生さんにはいつ話すんですか」
私も迷っていた。あと少しでクリスマスだ。クリスマス前でも後でも嫌なタイミングだ。でも年内には言いたいと思っている。
「今、考えてるところ・・・」
そう言った瞬間、後ろから、聞き覚えのある声がした。
「さとみ?」
***続きは明日に書きます***
雨宮よりあとがき:今回も足掛け3日くらいで書いていたら、終われなくなってきたので、明日続き書きます!
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