私たちはまだ恋をする準備ができていない #33 Ryusei Side
アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。社内には内緒で同棲開始。
※毎回1話完結のため、どこから読んでもお楽しみいただけます。伏線などに気づきたい方、登場人物を把握したい方は1話目からからどうぞ!
やっと明日使う資料が完成した。時計は午前2時を回ったところだ。
俺はダイニングテーブルでそっとノートPCを閉じ、寝室に向かう。
先に寝ているさとみを起こさないように、ベッドに潜り込む。新しいシーツはまだパリッとしている。
さとみのぬくもりがあるので、1人の時のようなシーツのヒヤッとするかんじはない。
「う・・・ん・・・」
さとみがくるっと寝返りを打って、こちらを向く。起こしちゃったかな。
そのまま体勢を固定してじっとする。
さとみは俺の腕にぴたっとくっつくと、そのまままた静かな寝息を立て始めた。
これまでもほぼ毎週どちらかの家に泊まっていたが、その時に感じていた幸せとは違う、安らぎというかほっとする感じがあった。
半年くらいアプローチしてやっと付き合うことが出来たさとみと、今一緒に住んでいるのが不思議だ。
***
「ごめんなさい、本当に、無理です」
無理矢理誘った食事の後、付き合ってほしいということを言った俺に、さとみが言った言葉。
食事中からずっと手を変え品を変え、口説いていたものの、さとみも頑なだった。
「理由って本当に年齢だけですか?」
さとみは黙った。
「7つ下の男じゃ、相手にならん、と・・・」
俺は焦っていたのか、イライラしているのかわからないけど、ちゃんとした答えがわからないままフラれるのも腑に落ちないと思い、尋ね続けた。
ただなんとなく、年の差だけではない気がしたので、本当の理由を聞きたかったのだ。
「そういうわけじゃないです」
「やっぱり」
俺は思わずそう言った。さとみも何か言いたげに見えたが、それ以上言葉を続けなかった。
「JRまで歩きます?地下鉄に乗ったら一駅ですけど」
「あ、はい」
まだじっとりと汗ばむ8月。会社からひと駅離れたところにあるレストランから、俺たちはターミナルになっているJRの駅まで歩くことにした。
「じゃあ、やっぱり他に理由があるんだ」
さとみは黙ったままだった。
「彼氏はいないって言ってましたよね?他に好きな人がいるんですか」
「・・・・・・・・」
さとみは答えない。うつむいたまま、歩いている。長い時間黙ったあと、意を決したかのように、さとみが口を開いた。
「好きな人は、居ます。好きな人っていうか、忘れられない人っていうか」
「誰ですか?会社の人?」
全然、想定内の回答だった。
「違います、大学生の時から付き合っていた元カレです」
「いつ別れた・・・んですか?最近?」
タイミングによっては、もう少し間を置いたほうがいいのかもしれないと思い、聞いてみた。さとみは意を決したように口を開いた。
「2・・・年前」
それを聞いて俺は思わず叫んだ。
「うわ、すっげぇ前」
さとみに睨まれて、口に手を当てた。
「す・・・いません、デリカシーないこといって」
一応謝ったが、俺には信じられなかった。俺が2年前に別れた彼女なんて、顔も名前も思い出せないくらいだ。だが、そうでない人もいるだろうし。
「大丈夫です、友達にもまだ引きずってるの?って言われますから」
さとみは困ったような顔で笑う。
「その人のことって忘れたいんですか?」
俺は単刀直入に聞いた。だって元カレを引きずってたって、いいことなんか何にもない。さっさと振り切って、次に行ったほうがいいのに。
「うーん、忘れたい気もするし、忘れたくない気もします」
「じゃあ、その人のことこと思い出すとどんな気持ち?」
「楽しかったこともあるし、でもなんで別れちゃったんだろうとも思うし、やっぱり寂しいかな」
俺はどうしても聞きたくなって、タブーかも知れない質問をした。
「聞いたらダメかもしれないんですが、なんで別れたんですか?」
「向こうに別な彼女が出来て」
「ああ」
そこから少し俺はなんと言っていいかわからなくなって、無い脳みそをフル回転させて何とか励ませないか考えた。
「元カレさんのこと、忘れたら、楽しくなりませんかねぇ」
「すっきりするかもしれないけど、それはそれで寂しいかもしれない」
「どっちにしろ、寂しいのかあ」
俺は天を仰いだ。ビルの間からちらちらと星が見える。シチュエーションとしてはデートに抜群なのに、なんで俺は断られ続けているんだろう。
「でも楽しい思い出を反芻している時もあるから、楽しいのかもしれないです」
「ってことは忘れないことで、寂しさを紛らわしてるってことですよね」
「そうなるのかなあ」
「その人のことを忘れても、次に楽しいことがあったら寂しくないんじゃないかと思うんですが、どうですか?」
「んー、まあ、確かに。そうかな」
「じゃあ俺が絶対楽しませるんで付き合ってみませんか?」
「ダメです」
「なんで」
「だって横田くん、モテるでしょ。社内でも横田くんがかっこいいとかかわいいって言ってる女子多いし、楽しそうに女子と話してるのも見かけたことあるし・・・なんか噂になってた子も・・・」
「いやいやいやいや、俺、全っ然、モテないですよ!!」
さーっと背中に冷や汗が流れるのを感じたが、俺は全否定した。ここは否定で押し切るしかない。
慌てる俺を見て、さとみがくすっと笑った。
「あーーー、わかりました。じゃあ、俺、仕事に必要なこと以外、絶対会社でも女の子と口きかないんで、それが1ヶ月続けられたら付き合ってください」
「なにそれ」
さとみさんがくすくす笑っている。
「だって、私だって仕事あるのに、そんなに横田くんのこと見張ってられないよ?プライベートのこともわからないし」
「えっと・・・そこは自己申告制で・・・お願いします」
さとみはこの答えがさらにツボに入ったようで、くすくす笑い続けている。ひとしきり笑ったあとさとみはこう言った。
「うん、わかった。じゃあ1ヶ月後、申告しに来て」
さとみにそう言われて、俺は心のなかでガッツポーズをした。
***
それから心を入れ替えて、身辺を整理し、めちゃくちゃ露骨に会社の女子とも口を聞かずに1ヶ月過ごして、めでたくさとみと付き合うことになったわけだが。
さとみは相変わらず、年の差と、俺に浮気されるかも、ということを心配しているようだ。
年の差はどうしようもないけど、浮気の心配はないって断言できるのになあ。ちなみに元カレのことを今、どう思っているかは知らない。
とりあえず付き合って5ヶ月で一緒に住めたのは、大進歩だ。あとはさとみの信頼を裏切らないように日々仕事を頑張るだけだ。
俺は横で寝ているさとみの髪を撫でてから、眠りについた。
***次回は2月19日(金)15時頃の更新予定です ***
雨宮から(あとがきに代えて):さとみと琉生の付き合うエピソードはどこかで書きたいと思っていたので、わーい、という感じです。
私は年下と付き合ったことがほぼないのですが(といいながら夫は2歳下←初めての年下です)、自分が7つ年下の人にアプローチされたらこんなかんじで断るだろうなあ、と思って書いてます。
40歳を過ぎた今は「年下の彼氏ほしい!」なんてほざいてますが、実際7つ下の人にアプローチされたら、「いやいや無理です、すいません」って断っちゃうだろうなあ。
ちなみに数日前、仕事で初めて会った25歳の男の子に、オンラインで「初めまして、27歳、独身です」って自己紹介をしたら(雨宮の鉄板ギャグです)、「え、27になる年ですか?28になる年ですか」と本気にしてもらえてハッピーでした。オンラインいいですね。小ジワ、目立たないから。
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