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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #147 Jun Side

毎回1話完結の恋愛小説。下のあらすじを読んだら、どの回からでもお楽しみいただけます。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳は社内恋愛で同棲中。琉生の後輩、志田潤はさとみに片思い。しかしさとみも志田のことが好きだということに気が付き、関係を持つ。さとみと志田とは昼休みや帰りなど、短時間会うことで気持ちを抑えている。志田は、上司の斎藤に「年内で退職する」ことを告げられ、斎藤の不倫相手で志田の元セフレ、由衣のことを心配している。

斎藤部長が退職する、しかも由衣さんを連れてアメリカに行く、ということの真相を確かめるべく、由衣さんにに電話をしてみた。すると由衣さんからは、気のない返事が返ってきた。

「うん。まあ、そうらいしね。私はまだ決めてないけど」

「決めてないって・・・」

「え、だってさ、急展開すぎるじゃん。そんなの」

いや、たしかにそうだけど。そうか。本人もそう思っているのか。

「斎藤部長が退職するのは・・・知ってた・・んだよね、由衣さん」

「ちょっと前に聞いた」

「ちょっと前?!」

「志田たちも付いていけてないと思うけど・・・私のほうが、当事者だからよけいに付いていけないよ。こんなんで、この先やっていけるのかな」

確かに。由衣さんの不安な気持ちもわかる。一旦は同居したのに、今は実家に帰されてるし。奥さんとの離婚の話の詳細もわからないまま、会社でも会わない。アメリカに連れて行かれるかもしれないのに、詳細はわからないって・・・。

「やっぱ、琉生にしといたらよかったかも・・・」

「そ、それはそれで応援しますけどね、俺」

どのみち、俺とさとみさんが正式に付き合うことになる、イコール琉生さんはフリーになるってことだから。正直、今の状態を聞く限り、同年代の琉生さんにアタックしたほうが、よっぽど幸せになれる気がする。

「あー!!もうなんで私、いっつもこういう選択、間違えるんだろ!!」

落ち込んでいた由衣さんが、今度は電話口でキレ始めた。

「じゃあ、今からでも別れてやり直したらいいじゃないですか」

俺は努めて優しく言ってみた。

「だって、あの時、好きって気づいちゃったんだもん、しょーがないじゃん!」

由衣さんのテンションのアップダウンがすごい。

「呑んでるでしょ、由衣さん」

「うん」

ですよね。酔っぱらいの相手は適当に流すしかない。特に由衣さんは。

「しょうがないっすよー。運命のままに行くしか」

「そーだよねー。結婚してなきゃ、表向きの条件ってめちゃくちゃ良いし」

「うんうん。俺みたいな冴えないサラリーマンより、稼ぐ男だし、イケメンだし、いいじゃないですか」

「だよね。うん」

あ、機嫌直ってきた。俺はちょっと胸をなでおろす。

「ごめんね。最近情緒不安定でさ。朝とかも会社行く前になると、気持ち悪くなったりするし」

「あー・・・俺も月曜の朝とかいっつもそうですよ」

「それは違うでしょ!!」

ぎゃはは、と電話口で由衣さんが笑ってくれたので、もう電話を切っても大丈夫かなと思った。

「親御さんとのこととか、いろいろあると思いますが、相談とか愚痴なら聞くんで、いつでも言ってください」

「うん、ありがと。じゃー、今日はもう寝るわ。飲み過ぎで気持ち悪い」

「吐いちゃだめですよ?!二日酔いもだめですよ」

「わかってるわー」

そう言って由衣さんから電話が切れた。

由衣さんが、アメリカに行ってしまったらこういうやり取りもなくなって、寂しくなるのかなあ。いや、でも俺はさとみさんと付き合うんだから、寂しくなんかなくなる・・・はず。

俺はしばらくスマホでさとみさんとのトーク画面を見ていた。フラワーアレンジメントの展示会に集中したい、ということで、もう半月くらい止まっているLINE。展示会は今日から始まっていたはずだ。

俺はさとみさんにLINEをしてみることにした。

「今日から展示会ですよね?」

23時を過ぎていたので、返信は明日かな、と思ったけど、すぐに既読がついた。

「うん。もう始まってる」

さとみさんからのレスポンスが早い。起きてたってことか。

「受付の当番の日、伝えとくね。よかったら見に来て」

当番の日は2日間が土日で、もう1日は平日だった。さとみさんは有給を取っているんだろう。

「平日、行きます。仕事の合間に」

「仕事はちゃんと、してね」

「はーい」

俺は返事と一緒に、犬がバンザイしているスタンプを送った。さとみさんもThank Youのお花のスタンプを送ってくれた。

結局、客観的にみたら、まだ琉生さんとさとみさんは恋人同士で、俺との関係性は変わっていないけど。こうやってちょっとずつ距離を縮めていけるのが、嬉しい。

***

「潤くん」

ホテルの自動ドアが開くとすぐにさとみさんが駆け寄ってきてくれた。

「な、なんか、さとみさん、めちゃくちゃキレイなんですけど・・・どうしたんですか?」

いや、さとみさんはいつもキレイだ。が、髪は巻いて半分アップにしているし、ロングのワンピースっていうかドレスっぽいの着てるし、ハイヒールだし・・・雰囲気が全然違う。

「あ・・・ここの教室・・・こういう感じっぽくて」

ぱっと顔を赤らめてうつむくさとみさんの後ろを見ると、同じかもっと派手なお姉さま方が数人固まっていた。

「あら、佐倉さんの彼氏?」

「素敵じゃない~。いいわね、若いって」

「紹介して~」

50代か、それ以上、というお姉さま方がわらわらと俺の方によってくる。いらん冗談を言うと、さとみさんのほうに迷惑がかかりそうなので、俺から名乗ることにした。

「彼氏じゃなくて、同じ会社の者です。彼氏さんは、別にいらっしゃいますよ」

「あら、そうなのぉ。じゃあ、ゆっくり見て行って!私、案内して差し上げましょうか」

「だめよお。佐倉さんのお客サンでしょう?私たちみたいなオバサンより、佐倉さんに案内してもらいたいはずよぉ」

「じゃあ、私達、少し外させてもらって休憩しましょうか。ごゆっくりどうぞ!」

そういうと、騒がしいお姉さま方は去っていった。独特の、いろんな化粧品が混ざった匂いを残して。

「すごい、パワフルだね」

「うん。お花の世界って、こういうきらびやかな人が多いみたい。お金持ちなお家の奥様が多いみたいで」

「さっきの人たちも受付ですか」

「うん、一応毎日2人ずつで組になってて。黄色いワンピースの女性が今日私と一緒の人なんだけど、毎日見に来る人もいる・・・」

二人ずつって・・・さっきのマダム、5人はいたぞ?毎日来るって、相当暇なんだな。

「あ、じゃあ、静かになったことですし、案内してもらえませんか?」

「うん、そうだね」

さとみさんは、ずらっと並んだガラスケースを一つずつ解説してくれた。

俺は花の種類はよくわからないけど、花の名前や、使っているテクニック、見るべきポイントなど。

半分くらい来たところでさとみさんが、一つのガラスケースを飛ばそうとした。

「あ、これは・・・いいよね」

「だめ!だめです!ちゃんと説明してくださいっ」

名前のプレートには【佐倉さとみ】と書いてある。

作品はハート型のクリスマスリースだった。大きな赤い花と、ちりばめられた松ぼっくり。それにグリーンと金のリボン。

「解説なんて・・・ないもん・・・」

「タイトルの意味ってどういう意味ですか?」

名前の上にタイトルを表す英語。そこには「I need more time」と書いてあった。

「もう、そのままだよ。私にはもっと時間が必要、っていう。すごくすごく時間かけたはずなのに、全然完成しなくて・・・作品作りの時間もそうだし、もっとお花の勉強もしないとだし。暗に、私にはもっと勉強や準備が必要です、っていう、言い訳がましいタイトル」

へえ。そうやって聞くと深い。

「前向きで勉強熱心さが伝わる、さとみさんらしい作品ですね」

俺が大真面目に答えると、さとみさんがぷっと吹き出した。

「潤くん、それ、なんかの審査員のコメントみたい」

「え?!そうでした?偉そう?すみません!!」

「ううん、全然、いいよ。ありがとう」

さとみさんは残りの作品も丁寧に解説してくれて、気がつけば一時間ほどが経とうとしていた。

「あ、営業途中なんだよね?時間大丈夫?!」

「直帰にしてるんで、大丈夫です。あ、琉生さんには、ナイショですよ」

「うん」

「あ、時間、何時までですか?せっかくだし、飯行きません?」

「うん!あ、でも・・・」

ぱっと明るくなったさとみさんの表情が、瞬時に曇る。

「今日は普通に帰るつもりだったから、琉生のご飯、作ってない」

「えー、そんなの。子供じゃないんだから、LINEしとけば、適当に済ませますよ」

「でも・・・」

「だって、さとみさん、別に奥さんじゃないし、飯炊きの義務、ないでしょ?」

「そ・・・それはそうなんだけど・・・」

「じゃあ、決まり!琉生さんにLINEしといてくださいね」

俺が見ているとしにくいだろうから、俺はホテルの外で待つことにした。ちょうどその時、さっきのお姉さま方が、わらわらと戻ってきた。

「お花、素敵でした!ありがとうございます!」

「あら~そお~。ありがとう。まだしばらくやってるから、またいらしてね」

お姉さま方に見送られながら、俺はホテルの外に出た。


***次回更新は・・・明日したいです ****


雨宮よりあとがき:土曜日に途中まで書きかけて、夕方絶妙に忙しくなり、書けなくて・・・本日のUPです。潤回はどうしてもながくなりがち。由衣のターンとさとみのターン、分ければよかったかな、と思いましたが、話をちょっとでも進めたいのでこのままアップします!

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