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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #35 Satomi side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。それを知らずにさとみを口説いている潤が二人の関係に気付く。潤は琉生に片思いをしている由衣と結託して、自分と付き合えるように画策している。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

「お忙しいところお呼び立てしてしまって、すみません」
由衣さんが頭を下げた。

「あ、いえ。今日そんなに忙しくはないので」

私は念のため、筆記用具を取り出す。

「そんな堅苦しい話じゃないですから、いいですよ」

由衣さんが筆記用具を取り出そうとした私の手を制止した。

「そうなんですね」

「・・・・・・」

少し沈黙があり、私は由衣さんが淹れて来てくれたお茶に口を付けた。

「会議室、一時間しか押さえてないので、サクッと本題に入りますね」

「え、ああ。どうぞ」

もう少し雑談や今回呼ばれた経緯などが話されるのかと思ったのだが。

しかし由衣さんから出た言葉は意表を突くものだった。

「佐倉さんて、横井くん、いや、琉生と付き合ってますよね」

一瞬、何を言われてるのかわからなかった。

頭が真っ白になるって、こういうことなのか。

由衣さんから琉生の名前が出るとも思わなかったし、仕事の話だと思って身構えていたので、何の話が始まったのか理解出来なかったのだ。

頭では、すぐに何か返さなきゃ、と思っているのだが、何も言葉が出てこない。

音が由衣さんに聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい、鼓動が早くなる。

長い沈黙を破ったのは、由衣さんだった。

「私、琉生と付き合ってたんですよ」

何を言われてるのかわからなかった。

琉生が一昨日の晩、言っていたことを思い出した。

「入社してすぐ位に、3ヶ月くらいですけど。聞いてないですか?ちょっと社内で噂になってたとも思うんですけど」

「・・・・・・・」

「でも、振られたんです。夏の終わりくらいに。振られたっていうか、琉生の中では付き合ってもいなかったらしい」

私は由衣さんの日本語を一生懸命理解しようと思って聞いていたが、全然理解できなかった。

聞こえて来るのは日本語なんだけど、外国語、いや宇宙人と話しているのかな、というくらい。

「次いつ会う?って聞いたらいきなり、付き合ってるつもりないから彼女みたいな振る舞いすんなよっていわれて」

私は段々意識が遠退いていくような錯覚に陥る。

「ひどいですよね?私実家だから、週5くらいで琉生の家にご飯作りに行ったり泊まってたのに」

由衣さんは、ニコニコしながら話している。言ってることはまるで正反対なのに、ノロケ話でもしているかのような、恍惚とした表情だ。

「だからね、佐倉さんにも言っといてあげようと思って。仕事の話は嘘です。付き合ってるって思ってても、あいつにとってはただのセフレかもしれないですよって」

私はただ下を向いて手が震えるのを必死で押さえていた。

何を、何を言えばいいんだろう、この人に。

私は必死で冷静になろうと努めた。

しかし由衣さんの言葉は止まらない。

「あいつ、入社前から佐倉さんのこと好きだったとか言ってるでしょ。そんなわけないじゃないですかあ。私に飽きたからちょっとお姉さんに手を」

バチン。

由衣サンの言葉が途切れるのと同時に、凄い音がして、私の意識が戻った。

右手が痛い。ジンジンする。

「、、、ったあ、、、」

由衣さんが左の頬を押さえてうつむいている。

そこで私は自分が何をしたのか理解した。

「すごい。大人しそうな顔して結構力、強いんですね」

平手打ちされたとは思えない顔で、由衣さんがニヤニヤしてこっちを見ている。

何かを言うべきだとも思ったが、やっぱり何を言えばいいのかわからなかった。でも確実に私が怒っていることは彼女に伝わっただろう。

今の話は、由衣さんが一方的に言ってきただけ。冒頭の質問にもイエスともノーとも答えていない。琉生と私の関係について、私は何も言っていない。

もう、それでいい。それだけでいい、と思った。

仕事の話でないなら、ここに居る必要もない。

私は椅子を引くと、黙って会議室の扉に向かった。

「飽きたらでいいんで返してください!私、まだ琉生のこと好きなんです!」

由衣さんが叫ぶ。

「だって7つも年上だなんて、釣り合わないに決まってるでしょ」

私は無視して会議室を出た。

「身の程知れよ、ババア」

最後の言葉も聞き逃さなかったが、それを掻き消すように私は扉を閉めた。

扉を閉めた瞬間、涙が溢れてきた。

怖かった?

悔しい?

悲しい?

これはなんの涙なんだろう。

いろんな感情が入り乱れているが、一つだけはっきりしていることがある。

それは、琉生に嘘を吐かれていたということ。

嘘を吐かれていたということが、悲しくて、悔しい。

私は持っていたタオルハンカチで目を押さえたが、到底収まる様子はなかった。

どうしよう、このまま総務には戻れない。

私は溢れ出す涙を押さえながら、どこか落ち着ける場所がないか、思案した。


**** 次回更新は2月24日(水)15時予定です  ****


雨宮より(あとがき): 月曜日更新予定が、スケジューリングミスって火曜日になってしまいました。楽しみにしてくださっている方、ごめんなさい。
この小説を書き始めて3ヶ月弱ですが、結構同じ方々が「スキ」してくれてたり、本当に嬉しいです。
ありがとうございます!
さて、嘘をついていた琉生はさとみになんて言うんでしょうねえ。
ちなみに私はさとみの立場にも、由衣さんの立場にもなったことあります(笑)
既婚者子持ちの今ではほほえましい思い出です!

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