私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #54 Ryusei Side
アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。付き合って半年後、同棲を開始。その直後にさとみが琉生の過去の女、由衣に呼び出されトラブルがあり、琉生との仲もギクシャク。二人は仲直りをすべく初めての1泊旅行中だが、再びケンカをしてしまい、琉生は別な部屋で寝ることに。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます
▼こちらを先に読むと、今日の話が分かりやすいです
フロントに言うと、幸いにも別な部屋をもう1つ手配してくれた。
フロントマンには怪訝そうな顔をされたが、啖呵を切って出てきてしまった以上、今更戻ることもできなかった。
先ほどの部屋とは違い、シンプルで狭いシングルベッドの部屋。
しんとした部屋に一人、俺は激しく後悔していた。
あんなこと言うつもりはなかったのに。
今回の旅行は仲直りのつもりだった、のだ。
ただ、志田の話が出て、動揺を隠せなかった。
実際さとみが志田とどうこうするのは考えにくいし、確かにビジネスホテルに送っていってもらった、というのも合点が行く。
恐らく“ホテルに行くのを見た”というのも、由衣が俺たちを仲違いさせる意図があってのことだろう。普段なら、そんな嘘に引っかかるわけがないのに。
由衣のたくらみ通り、ますますさとみときまづくなってしまった。
明日は絶対謝ろう。志田とのことは、俺が流すしかない。
でも・・・。
最近、気になっているのはさとみのスマホを見る頻度だ。
少し前までは、スマホはほぼ業務用というかんじで、家に帰ってきてからも見ているそぶりはほとんどなかった。洗濯物を明日外に干すかどうか、というような話で天気を調べるとか、そんなもんだったのに。
帰ってきてからも、ちらちらといつも見ている。
今日の旅行だって、普段ならカバンにしまっているか、充電したまま机に置きっぱなしのスマホを、常に持っていた気がする。そうだ。大浴場に行くときも持って出て行っていた。
もしかして・・・志田とやりとりしてる・・・?
「琉生さんに関係あります?」
いつぞや志田から言われた言葉も思い浮かんだ。
いいや、さとみに限って・・・でも・・・。
結局、朝まで志田とさとみのことを考えてはやめる、というしょうもないどうどう巡りで、一睡もできなかった。
仕方なく、俺は外に出ることにした。散歩でもしていたら、気が紛れて時間も潰せるだろう。時計は午前5時を回っている。
明るくなりつつある空を見ながら、さとみと付き合ってからのことを思い返す。
どこで間違えてしまったのか。
思い浮かぶさとみの顔は、笑顔もあるが、どこかいつも困ったような、何かを言いたげで、飲み込んでいる顔だ。
俺が、強引だったから・・・?
付き合う時も、付き合ってからも。いつも、さとみの声を聞いてるつもりで、聞いていなかったのかもしれない。
昨日さとみと見た桜は、ハラハラと散りつつあった。遠くでは海が平和そうに光っている。今日も穏やかな一日になりそうだ。
俺は宿から離れ、近くのコンビニまで歩くことにした。
5分くらい歩き、コンビニの中に入る。
「いらっしゃいませー」
夜通し夜勤だったのだろう。ダルそうな挨拶が返ってきた。
「コーヒー、レギュラーで」
「120円です」
俺はカップを受け取ると、セルフのコーヒーメーカーのボタンを押した。
辺りにコーヒーの香ばしい香りが漂う。さっきまではイライラして気が高ぶっていたが、この香りでリラックスしたのか、急に眠気が襲ってきた。
俺は熱いコーヒーを飲みながら、宿に戻った。フロントマンがちらっとこっちをみて、会釈をした。俺も返す。
部屋に戻り、俺はベッドに横になった。着替えなどはさとみのほうの部屋に置いてきてしまったから、朝食までには取りにいかなければいけない。
それでも1時間は寝られる。
俺は急激に襲ってきた睡魔に勝てず、そのまま眠ってしまった。
***
「・・・せい」
聞き覚えのある声。さとみ?
「琉生」
「わ!」
はっとして起きると、目の前に身なりを整えたさとみが立っていた。
時計を見るともう10時だった。
「ご、ごめん。もうチェックアウトの時間だよな」
俺は慌ててベッドから降りる。
「うん。朝ご飯にも来ないし・・・ロビーで待ってたんだけど降りてこないから。なんかあったのかと思って、フロントの人に開けてもらったんだけど」
さとみが俺のバッグを差し出した。
「着替えとか、全部まとめて持ってきた」
「あ、ありがと」
俺はカバンから服を引っ張り出すと、すぐに着替えた。
さとみがフロントに電話をしてくれている。
「あ、はい。大丈夫でした、すみません。着替えたらすぐ、降りますので・・・」
さとみに会ったら、すぐに謝ろうと思っていたのに、なし崩しになってしまった。
「チェックアウト待ってくれるっていうから。着替えたんなら、すぐ行こう」
「ああ、うん。ほんとごめん」
俺はすっかり冷めたコーヒーを飲み干すと、カップをゴミ箱に入れた。
「ん」
エレベーターで降りる数十秒も気まずかった。チェックアウトの手続きを済ましても、お互い無言だった。
「ここで待ってて。駐車場から車回してくるわ」
「うん」
さとみをロビーの窓際のソファに腰かけさせ、俺は車を取りに行った。
あんなことがあったのに、寝坊するなんて想定外だった。ここで仕切り直さないと。俺は呼吸を整えて、さとみのところに戻った。
「お待たせ。乗って」
さとみは無言で助手席に乗り込んだ。
ナビをさとみの家にセットした。
「今日はどうする?どこか行きたいところある?」
「ううん・・・任せる」
「そっか」
昨日までは、景色のいい場所やカフェなどを調べておいたのだが・・・とりあえず車を走らせよう。
無言の車内に耐えられなくなり、俺はFMを付けた。軽快なBGMとともに、明るいDJの声が流れてきた。それでも二人は無言だった。ここはやっぱり俺が切り出すしかない。
「昨日は・・・カッとなってごめん」
「・・・・・・・」
「志田とのことも・・・由衣に言われたことを真に受けて・・・さとみがそんな軽い女じゃないってことはわかってるのに・・・」
「・・・・・・・」
「さとみが言う通り、隠し事されてるのって、嫌だよな。俺、本当に反省したし・・・これからは・・・・」
「私は・・・」
俺が言葉を選びつつ言っているところに、さとみがかぶせてきた。
「琉生みたいに頭の回転早くないし、パッパッと言葉が出てこなくて、いつも言いたいこと飲み込んでたんだけど」
「昨日わかったの。やっぱり。言いたいことは時間がかかってもちゃんと言わないとどんどん溜まっていくって」
「うん」
確かに。俺はいつも強引というか、決めつけてしまうクセがある。気も早いし、こうだろう、と思って何かを進めてしまうことも多々あった。
「だから・・・時間がかかるかもしれないけど、私の言うことも、ちゃんと聞いてほしい」
「うん」
「昨日みたいにいきなりキレられると、こわい」
「うん。ごめん」
「志田くんとは・・・あの日、心配してくれて・・・ちゃんと帰ったかLINEして、って言われたから・・・LINEは交換した。たまにLINE来るけど、やましいことはしてない」
「うん」
さとみには平然と、うん、といったけど、やっぱLINEの相手は志田だったのか、と思った。しかし俺もそれ以上は追求しなかった。さとみがそれ以上嘘を吐くわけがない。
「しつこいかもしれないけど、もうお互い、隠し事なしにしよう。それじゃないと、きっと私たちうまくやっていけない」
「うん。わかった。約束する」
そこまで言って、さとみの顔を見ると安堵の表情を浮かべていた。
俺が微笑むと、さとみもちょっとだけ笑ってくれた。
きっと・・・これからも、こうやって小さなケンカと仲直りをしながら、俺たちは前に進んでいくんだろう。結婚するならなおさら。何十年もいっしょにいるんだから。
*** 次回は4月9日(金) 15時ごろ更新です ***
雨宮より:小説を書いていていつも思うのは、やっぱりどのキャラクターも自分の中にあるいくつもの信念をしゃべらせてしまうってことですね。多重人格なのかしら、私、って思うこともあるけど(笑)琉生には複数の元カレの影響(セリフなど)が濃く出ているので、基本的には嫌いです(おい)。
この小説はもともと芸能人から外見のイメージを設定していて、琉生は名前からもわかるように、横浜流星くんがモデルです。でも流星くんだったら何されても、何言われてもいいわあ。
スピンオフ的な「ADULT」 のほうは有料ですが、前後編で書いたので、よかったら読んでください。夜にひとりでこっそりと!でお願いします(笑)
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