売上を増やしたければ、価格を上げればいいじゃない!
『エンジニアリング組織論への招待』の中に次の例え話が出てくる。
この例え話は要素還元論的な思考方法の限界を示し、「システム思考」的な発想を促すために用いられている。
これに類する事例は現実の社会でも起きていて、例えば労働契約法の「無期転換ルール」の機能不全が挙げられると思う。
これは、非正規雇用者(≒有限の期間で労働契約を結んでいる労働者)の労働条件を向上させるために、企業との契約が一定期間継続した場合、労働者は無期契約への転換を企業に申し入れることができるという制度だ。
そして、この制度は労働者の雇用条件向上を実現するどころか、逆に企業側が一定の契約期間を超過する前に雇用契約を打ち切る雇止めにつながってしまっている。
こうした実態を企業側の視点で見た場合、人件費を抑制したいとの思いが存在するため、無期契約への転換を際限なく受け入れることはできない。そこで、無期転換ルールの条件を満たす前に当該労働者との契約を打ち切ろうとするのはごく自然なことに思える。
答えを聞いてしまうと、ここに潜む因果関係はちょっと考えればわかりそうなものだが、この種の思索を本格的に深めていくための手法が「システム思考」だ。
システムと聞くと「ITシステム」をイメージする人が多いかもしれないが、「エコシステム」といった場合のシステムをイメージしてもらうと理解しやすいと思う。
ここでのシステムは、人や組織、自然環境などの様々な要素が相互に関連したものを指す。各要素は互いに影響を与え合って、全体としてある種の挙動を示す。それはあたかも何らかの目的を持っているかのように振る舞う性質があり、その目的は例えばシステムに人が期待する成果とは違ったものになることがしばしばある。
例えば、
麻薬の取り締まり強化によって、麻薬犯罪が増加する
途上国への食糧援助が飢餓増加の原因となる
職業訓練プログラムが失業率悪化を引き起こす
などである。
システム思考を理解しないことが引き起こす害悪は非常に大きなものがある。例えば、私が以前毎日通っていた港区スゴイタカイビルにある企業では、この記事のタイトルのようなことを主張する人がいるらしいのだが、どんな悲惨な結果につながってしまうのかと他人事ながら空恐ろしい思いだ。
悲惨な未来を回避するためにもシステム思考をぜひ多くの人に学んでほしい。