男の一人称問題 ~ 私はいつから自分のことを、ワシと呼び始めるのか
私も遠からず「ワシの若い頃は…」という一人称で昔語りをするようになるのだろうか。
銀のグリップの杖なんかをついて歩くことに憧れるくらいだから、早めにそのように名乗り始めるかも知れない。
「ワシが杖をついているからと言って、お気遣いなく、お嬢さん」なんて感じの、軽やかなワシでありたいなと思うが、それはちょっといやらしいワシだ。そして私はちょっといやらしいワシになりたいのだった。
「わしが男塾塾長、江田島平八である!」
という類のワシは、私には無理だ。
だがワシ界に於ける不世出のワシ・江田島塾長に憧れないワシはいない。
はやくもゲシュタルト崩壊が始まりそうだが、関西~中国エリアの男子は若いうちから「ワシ」を自称している印象がある。
岡山県出身の芸人さんである千鳥などは、自分をさかんに「ワシ」「ワシ」と呼ぶ。
近畿圏のダウンタウンさん一味もかねてより「ワシゃずっとそうやっちゅうねん」とか「ワシらやないかい」などと、昭和から事あるごとに言い募ってはばからない。
なので西日本では多くの男性が幼少期から自分を「ワシ」と自称しているようだ。
「明日はワシの6歳の誕生日」とか「ワシの分の飴ちゃん溶けてもうたがな」とか、彼らは高齢期を待たずして一生をワシとして駆け抜けるのだ。
高齢期の一人称の一方で、幼少期に特有の人称もある。
女の子の場合だと、自分の名を名乗るというスタイルが昔からある。
その子がゆみこちゃんだとしたら「ゆみこはこっちの方が好き」とか「ゆみちゃん、ノド乾いた」という言い方する。
不思議と男の子は、それをしない。
「マサオはさぁ」と話し出すマサオ君は、今でも多分いないのではないか。
また少年期に多い人称としては「オイラ」というものもある。
昭和の漫画の少年の主人公には、自分を「オイラ」と呼ぶ者がいた。
白戸三平先生の「少年忍者サスケ」のサスケや「妖怪人間ベム」のベロなどがそうだった。
「オイラ、母ちゃんがいなくたってさびしくないやい」とか
「オイラ、ベロってんだ。あやしいモンじゃないよ」というセリフは今も耳に残っている。
例外的にバンドのお人には、青年になってもオイラを自称する者がいる。
私にとってそれは、忌野清志郎、一択だ。
オイラ友だちを集めて バンドをやってるのさ
バカな頭で考えた これはいいアイデアだ
ではどうぞ最後まで みなさん ごゆっくり
聞かせたい歌が たくさんあるのさ
オイラ キヨシロー どうぞよろしく
これはRCサクセションがある時期までライブの冒頭でよく歌っていたウエルカムソング「よォーこそ」の詩の一部。
清志郎は、斯様に長らくオイラだった。
まったくオイラのよく似合うお人だった。
KING OF ROCKにして、KING OF OIRAでもあったのだった。
男には不思議とたくさんの一人称があるが、私は「僕・俺・私」等の平均的な人称しか使って来なかった。
この先はぜひ「私」から「ワシ」乃至「儂」に昇華したい。
「ホントにいやらしいジジイよねぇ」とかいう給湯室での陰口大会に
「それってワシのことかな」と涙目で割って入りたい。
そういうワシに私はなりたい。