いちばん好きなジンジャーシロップ
2021年の11月は、結婚式を挙げる予定だった。でも、コロナが最初に広がり始めていた5月にはあっさり中止を決めた。当時はまだ希望的観測もできる状況だったけれど、先行きの見えない不安を抱えながら人とお金を動かすプロジェクトを進める気持ちにはどうしてもなれなかった。(キャンセル費用が納得できる金額のうちに決めて本当に良かったと心から思う。)
その代わりに企てたのは、新婚旅行。行き先は屋久島。ゴールは縄文杉。もうひとつのゴールは指宿温泉。
屋久島に着いた日は、ゆっくりまわって観光した。島では2泊3日。2日目は早朝から縄文杉アタック、3日目は昼の飛行機で発つからゆっくりできるのはこの初日だけ。景色や風や食事やおやつを楽しみに、行き当たりばったりのしあわせな散歩みたいなドライブだった。
出発前にお土産をリサーチしていた夫が、行きたがった場所がある。
ここの手作りジンジャーシロップが気になったらしい。定番のお酒やお茶や鯖節じゃないのか。ふーん。そう言われると私も気になる。うん。行く。
これがまた、なんともいえないほどおいしくて。初めての味だった。柑橘や生姜の風味が豊かでピリッとシュワッとふんわりしたいい気持ちに包まれる。おいしい。おいしい。
もともとジンジャー系の飲料が大好きで、沖縄でも黒糖ジンジャーなるシロップを買い漁って帰ったことがあるけど、このシロップはなんだか特別なものに思えた。西からの木漏れ日で金色に光っていたこのジンジャーエールのテイクアウト、その残像も重なって大好きが止まらない。
旅行が終わっても大切に味わい続けた。いちばんのお気に入りはホットミルクジンジャー。ハイボールに入れても美味しかった。でもいちばんはホットミルク。寝る前に飲むのがいい。ケチらないでいっぱい入れるのがいい。そして夫と屋久島の思い出話をたくさんする。またしあわせな散歩みたいな時間が流れる。旅の余韻も味わえてしあわせに浸れる大切なシロップになった。
まもなく、しばらく旅へ行くのが憚られる時世になる。また屋久島へ行けるのはしばらく先だね、次も絶対にこれ買おうね、なんて話をしながら。
そしたら。
ふるさと納税で見つけた。
え。最高。
ということで今年もホットミルクジンジャーにして、引き続き温かい思い出話をしながら夫婦でいただいています。ありがとうございます。
というかちゃんと調べたらオンラインでも購入できるようで。行かなきゃ買えないと思い込んでいたので嬉しい。思い込みって敵。
余談ですが、ふるさと納税は思い出のある自治体や返礼品を選びます。そして思い出に浸れるしあわせを、めいっぱい噛みしめる。
この旅行以来、長らく遠出していない気がしてて寂しい。遠出だけが旅ではないけれど、それでも遠くへ来た感じって特別な感情も残るんだよな。
旅は、後から思い出すために旅をするのかもしれない、って、どこかでぼのぼのが言っていたけどその通りだなと大人になった今ますます思います。
ほかにも屋久島では美しい世界にたくさん触れました。
しっとりひんやりした森の風。深い霧の匂い。笑う膝。
ぜんぶ憶えています。いい旅行だった。