見出し画像

Home sweet home/またはオバアのカラオケのこと

齢90を越えた祖母の特技で趣味はカラオケだ。
デイサービスで人気者らしい。
キャッチフレーズまでもろている。
「●●(地名)の藤あや子さん」
全く似ていない。でも十八番の『こころ酒』と『むらさき雨情』が大好評なのだ。
 
調子に乗ってカラオケの日が近づくと稽古をしたがる。
昔得意としていた歌を再レッスンしたい。新しいレパートリーも増やしたい。
 
で、私が毎週祖母宅を訪ねてゆく日はお相手役だ。
 
「『こころ酒』は手拍子しやすいから皆喜びはるねん。手拍子の出来そうな曲探そや」
「北島三郎歌いたい? たぶん声合わへんで」
「え、ジイチャン『青葉城恋唄』歌ってたん? やっぱハイカラやなあ」
「そのひばりの歌は難しいんちゃう? まあ、やってみよ。(からの)せやろ?」
「福田こうへい? それバアチャン好きなだけやん」
 
オバアも言いたいことを言う。
 
「小林幸子は嫌いや」「ひばりはむっつかしい」
「伍代夏子は杉良太郎と結婚せんかったらよかったんや」
「藤あや子は最近化粧が濃い」
「福田こうへいはええ子や」
 
ということで、
私は毎回ご指定の歌の歌詞を紙にめっちゃデッカい字で書いて渡し、スマホで爆音で流す。
オバアはデッカい声で楽しくお歌いになり、私は横で呑んでいる。いや、それを喜ぶので(言い訳)。
一緒に歌うときもあるのだが、
一度『つぐない』(テレサ・テン)を歌ったとき、
「なんでこの2人でこんないろっぽい歌うたってるねやろ」と笑けてしゃあなかったので最近は聴くだけにしている。
 
先日いきなり一つのメモを出してきた。
 
御友人からリクエストをされたのだと言う。
オバアの歌を気に入ってくれるという方だ。それも〝母もの〟で泣くという人。
 
「どうしても聴きたい、って言うねん。自分で歌いぃ言うてんけどな」
「よっぽど好きやねんな。そこまで言わはんねんからまあいっぺん調べてみよや」
 
新曲だった。石川さゆりの。
 
「作詞作曲、加藤登紀子やって、むずかしいんちゃう?」
「加藤登紀子か。東大や、東大」
「せやで。東大やからむずかしいねんで」
「せや、東大やからむずかしいやろ」
 
意味不明な会話をしながら歌詞を調べた。はっとした。
 
「聴いてみ。せっかく言うてくれてはるねんから」
 
オバアは黙って聴いた。聴き終わってぽつりと言うた。
 
「帰られへんねやな」「私もそない思うた」
 
石川さゆりの50周年記念作『残雪』。故郷をうたった歌だった。
 
オバアは頑張って稽古をしている。
その日私が缶ビールを呑みほす間にもうあらかた歌えるようになった。
帰り道、私はちょっと泣きそうになった。
当たり前すぎる当たり前のこと、なのに、気付かなかった気付かないようなことを思って。
オバアの前では好き勝手またしょうもないことをぺらぺら話して帰ったけど。
オバアも「最近の氷川きよしについて」をひたすら話していたけど。
 
皆に故郷がある。帰れる人もおれば、帰れない人もいる。ましてや、それほどの歳となれば。
誰にも、誰にでも、だいじなものは、ある。秘めたもの、でも、出てしまう、出さずにいられなくなるような、もの。
 
どんな気持ちであの歌を聴いて、どんな気持ちで、あのメモを渡しはったんやろな。
 
歌ってさ、そうやねんよな、きっと。
 
オバアが歌う声のせいもあったのかもしれない。意外とマジ巧いから。
いや、登紀子加藤のあの作風のせいや、きっと。
 
歌おう。
 
披露するのかどうかはまだわからない。歌うんやで! また稽古しよな!とは言うている。





◆◆◆
以下は、ちょろっとですがいつもの自己紹介 。
と、苦手なりにもSNSあれこれ紹介、連載などなどの紹介!!も。
よろしければお付き合い下さい🍑✨
ご縁がつながったりしたらとても嬉しい。
大阪の物書き、中村桃子と申します。 
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらやってます。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中です。
舞台、演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化好き。酒場好き。いや、劇場が好き。人間に興味が尽きません。

【Twitter】【Instagram】【読書感想用Instagram】

ブログのトップページに
簡単な経歴やこれまでの仕事など書いております。パソコンからみていただくと右上に連絡用のメールフォーム✉も設置しました。


現在、関東の出版社・旅と思索社様のウェブマガジン「tabistory」様にて女2人の酒場巡りを連載中。最新話、13回と14回も先日公開されました。15回も今月中にアップ!かも!


と、あたらしい連載「Home」。
皆の大事な場所についての文章、も、ぼちぼちと。こっちも更新せなあかんなー。

旅芝居・大衆演劇関係では、各種ライティング業。文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。あ、小道具の文とかも(笑)やってました。担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、アーカイブがYouTubeちゃんねるで公開中(貴重映像ばかりです。私は今回のアップにはかかわってないけど)


あなたとご縁がありますように。今後ともどうぞよろしくお願いします。

秋。体も気持ちもしんどくなりがちやけど。皆、無理せず、どうぞどうぞ、元気でね。


楽しんでいただけましたら、お気持ちサポート(お気持ちチップ)、大変嬉しいです。 更なる原稿やお仕事の御依頼や、各種メッセージなども、ぜひぜひぜひ受付中です。 いつも読んで下さりありがとうございます。一人の物書きとして、日々思考し、綴ります。