美術館へ一緒に行きたい友だち
私には美術館へ一緒に行きたい友だちがいる。その友だちとは、一度だけ、美術館へ一緒に行ったことがある。
美術館という空間は、難しい。相手のペースに合わせようと、気を遣い合ってしまえば、たちまち疲れる。私は自分のペースで見たくなって、平気で人を置いて行ってしまうし、気になる絵があれば、何度も引き返してしまう。
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「午前中に美術館へ行くんだけど、よかったらおいでよ」
一緒に行きたい友だちからは、「行けたら行く」くらいのニュアンスで返事があったのだが、当日ふらりと現れた。私はもう半分くらいの絵を見終わっていたが、全く気を遣う風でもなく、最初からゆっくりと楽しんでくれている友だちを見て、妙に嬉しかった。いつもはとても気を遣ってくれる友だちだから尚更かもしれない。意外にも、すっごく自分のペースで丁寧に楽しんでくれていたのだ。誘った甲斐があったな、と思いながら、私も館内の2周目に突入することにした。
そこでどっこい、この日の発見。同じ絵でも、初見の時と2回目は、自分の視点がまるで違う。あれ?ここはこんな色づかいなのか、とか、こういう気持ちで描かれた絵なのか、、とか。気づくことがたくさんある。
私は、美術館に行くと、解説を見る前に絵そのものを見るようにしている。なんとなくの自分ルール。
まず自分がどう感じるか。
好きか嫌いか、繊細か大胆か、強いか弱いか、嬉しいか悲しいか、特別か日常か。
想像を巡らせて。
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美術館へ一緒に行きたい友だちは、自分の気持ちと作者の気持ちの両方を大事にしていた。人に語ることこそないが、普段から自分の気持ちと真剣に向き合っている友だち。優しくて、人の気持ちに寄り添える。実際、そういうことを仕事にしているので、天職だとつくづく思う。
なかなか頻繁に会えるわけではないのだけれど、また誘ったら、美術館へ一緒に行ってくれると思う。デートみたいにわくわくどきどきする。