「俳優」「アイドル」「芸人」の違いが見えた!?……即興舞台のカオス
ジャンルが違う人たちが同じ舞台に立つ
『第三水曜即興舞台』って?
ここ3年間、第三水曜即興舞台「こんなはずじゃなかった。」に審査員として呼んでいただいています。ありがとうございます。
『第三水曜即興舞台』とは、“俳優”“アイドル”“芸人”のによる即興バトル。
4チームに分かれ、お客さんにお題をもらって3分×3幕=トータル9分の即興芝居を繰り広げます。トーナメント戦になっており、勝敗を決めるのはお客さん&審査員の投票。森下仁丹プレゼンツにより毎月第三水曜日に開催され、1年をかけて優勝チームを決定します。
即興なので何が起こるかわかりません。「こんなはずじゃなかった!」のオンパレードです。
とにかくみんな、相手が言ったことの辻褄を合わせるために必死。相手に「お姉ちゃん!」と呼ばれれば男性だろうと「え、俺お姉ちゃんか!うん、お姉ちゃんだよ!妹よ!」となるし、舞台裏で登場のタイミングを見計らっている時に「お父さんなかなか来ないねー」と言われればノープランで「お父さんです!」と出ていく。別にお父さんじゃなくてもいいのでと「ワンワン!」と出て行けば先に舞台にいる人が「犬かよ!?」となる。時には風になったり魔法が使えたりアマゾンへ行ったり。台本がないなか冷静に物語を進める人がいるかと思えば、迫るタイムリミットに極限状態でとつぜん意味不明なセリフを発して設定全部を覆す人もいる。もうわけわかんない。
即興舞台って『人狼』に似てます。
『人狼』は大人気のカードゲームですが、誰が「人狼(ゲームでの鬼的なポジション)」かを当てるために嘘をついたりカマをかけたりトークして探り合います。発言はぜんぶ即興なので、下手なこと言ったら自分が何者なのかバレる……と思って腹痛くなる。人狼、苦手……(←株式会社人狼のメンバーなのに(笑))
そして“即興”は“インプロ”とも言って俳優の訓練でよくやるんですが、なんか『第三水曜即興舞台』を観ていて頭をよぎったのは、これ、出演者が俳優だけじゃないことによって超絶とんでもないカオスが生まれてるんじゃないか?ということです。
初『第三水曜即興舞台』の時は、「みんな人前に立つ仕事なのに“俳優”と“アイドル”と“芸人”はぜんぜん違う気がするなー、ってか人数多いし何が起こるかわからんしめっちゃカオスやん、司会すごいな!」とのん気に爆笑していました。でも、あれ、これってそんなのん気なことじゃないぞ。ジャンルが違う人が一緒にやるって私が思ってる以上にカオス案件なんじゃないか!? この人たち、ジャンル違いによるズレと笑いのコラボレーション地獄にいるんじゃない!? え、もしや実は彼ら、超スゴイことしてる!?
“俳優”と“アイドル”と“芸人”の違い
『第三水曜即興舞台』に出演しているのは、基本的には“俳優”“アイドル”“芸人”です。
それぞれ人前に出てパフォーマンスをする仕事というのは同じですが、最初はそれぞれの違いを「何を大事にしてるのかが違うのかなあ」とぼんやり思っていました。
(以下、まったくの主観のうえ、いろんなタイプの方がいて人によるので、あくまで超大雑把な印象です)
《大事にしていること:例》
俳優……………物語を成立させること
アイドル……自分の魅力を見せること、好きになってもらうこと
芸人……………お客さんが笑うこと
極端に言うと、即興舞台上では、アイドルが特技を披露し、芸人がツッコみ、それぞれ技合戦のカオスになりそうなところを俳優が自分の都合のいい展開にまとめる……みたいなことが起こっていました。
しかもそれぞれの能力に特化していると、たとえば「ストーリー??」という感じで瞬間瞬間にすべてを込めるアイドルの方がいたり、会話やシチュエーションのズレで笑わせるコント的な展開をしようとするお笑いの方がいたり、9分全体の構成をダイナミックに見せようとする俳優の方がいたり、とやろうとしてることが別々なんです。(でも実はアイドルの方は全体を見て行動していることが多い気がします、今のところ。むしろ俳優さんで数人ブッ込んでくる方のパワーに圧倒されました)
俳優だけの即興だと、ここまで顕著に違いが出てるのはみたことないです。でもここではみんな目指すゴールが激しく三者三様。それぞれが三方向に猪突猛進全力疾走。キングギドラみたいだ。
そのカオスがうむズレが面白くて、また笑っちゃうんですけど。
誰が良い"即興者"なのか!?
それぞれのマイルールで挑む即興バトル。しかしこれはチーム戦。あまりにカオスな9分間だとととっちらかっちゃって相手チームに負けてしまいます。
みんなで協力しながら即興で演じていくのですが……実はこの即興バトル、チームメイトは仲間でありライバルになってしまうルールが存在します。その名も『MVP』。
つまり、チーム戦とは別に一人だけMVPが選ばれ、賞金がゲットできます。一緒に戦う仲間はライバルでもある。チームを勝たせなきゃいけないけど、自分の魅力もアピらなきゃいけない。だからそれぞれ自分の武器も出してこようとするし、そうなるとより深まるカオスの渦……うおおおおおおムズ!!
でも「味方がライバル」って、いろんな場所でありがち。仲間と協力しないと良い作品はできないけれど、自分も魅力を発揮しないと評価してもらえなかったり。でも人によってはワンマンに個性をブチこんだ方が輝くタイプもいれば、仲間を輝かせることで自分も輝くタイプもいる。
共演者は味方でありライバル……芝居だけでなく、サラリーマンのチームプロジェクトとかでも当てはまるかも。合コンでもそうよね、めっちゃ盛り上げた人が一番モテないとかありがち……(まぁそもそも自分が良い評価をもらうことに興味がない人もいるけど)
どうすればその場が成立し、良い結果が出せ、かつ自分の魅力も発揮できるか……
『才能とは適材適所』という言葉があるけれど、「自分はどの場所に適した人材か」を誤ると、人は能力も発揮できなければ評価もされない。わかっちゃいるけど難しい。
それが如実に過剰に現れているこの即興舞台だなぁなんて思ったのは、彼らが“俳優”、“アイドル”、“芸人”とそれぞれ見せ方の違う職業だったからなのかもしれません。
極限状態から放たれる生命力(!?)
私の『第三水曜即興舞台』歴も今年3年目を迎え、年々クオリティアップしていると感じます。
理由としては、ルールが改訂されてやりやすくなったり、チームで誰か一人演出家的な人を設定してまとまりをつくったりと工夫が重ねられてきたことによると思います。でもそれだけでなく、出演者の方々がずいぶん変わってきたなと感じました。毎年出ているレギュラーさんもいれば初めての人もいるんですが、どちらもマルチな人が増えてきた気がします。
一人が自分の特技を披露し笑いをとりつつストーリーも展開して相手の個性も活かしながら最終的に自分の魅力を振り撒く瞬間を目撃しましたよすごいな!!
そんな瞬間が増えてきたからか、3年前は爆笑しながらも半分は目を覆って「ひいいいいいスベってるし恥ずかしくて直視できないいいいい私の共感性羞恥が刺激されまくるううううう」みたいな悪寒シーンがいくつかあったのですが、今年はほぼナシ。むしろ「スベりすらも笑いに変えたすげええええ」と尊敬に震えることも。
こういうふうに自分にはなかった技を取り入れていくのには、場数が必要だった気がします。違うジャンルの人と舞台を踏んでいるうちに身についてきたんじゃないかなー、と前向きに思うのです。
すごいよなあ、経験って。カオスだと思ってたのにカオスがカオスった結果コスモスが生まれはじめた。混沌による秩序……という混沌!
年々レベルアップし、楽しませてくださる『第三水曜即興舞台』。
でもこの爆笑は自分が客席にいるからできるんだよなーとも思ったり。「お前も舞台でさあどうぞ」と言われたらストレスで腸がよじれる予感しかない。本当に尊敬です。
わたしはこれからも客席の暗闇に潜みつつ、敬意を抱いてステージを見つめ、遠慮なく笑ったり呆れたり悪寒を感じたりするポジションにいたいですすみません!そして心からありがとうございます!
“即興”という前も後ろもわからない暗闇(むしろ真っ白)で生まれる鋭いヒラメキ。相手の言葉をすべて受け入れながら話を進める不条理。パフォーマーの捨て身の心意気から生み出されるミラクルな笑い。極限に立たされた時に発揮される謎の行動。そこからほとばしる生命力……!
一見くだらなさそうな笑いが溢れているけれどそこには人間の生存本能が詰まっている気がして、ちょっと中毒です。来年は日程など決まっていないようなので、プレゼンツしてくれる森下仁丹さんよろしくお願いします。第三水曜日、あけときます!
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