BL小説から、この世の本質を学んだ話。「美しさってなんだろな」
『鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?』
ディズニーに興味がない人でも知っている、有名なフレーズです。
「それは王妃、あなたです」
白雪姫の継母である王妃は、
その答えを聞くために、毎日のように鏡に向かって問いかけ続ける。
しかし白雪姫が美しく育った7歳の時、
ついに
「この世で一番美しいのは白雪姫です」
と鏡は告げる。
嫉妬に狂った王妃は、白雪姫を亡き者にしようとする。
子供の頃、この物語を読んだときは、
「やっぱり白雪姫が一番かわいいよね!」
となんだか自分が褒められたかのように嬉しかった覚えがある。
「悲劇のヒロイン」に酔いしれる年頃でもあって、「可愛そう=かわいい」とすら思っていた気がする。
でも、大人になった今、考えてみる。
「美しい」って何だろう。
「美しさ」とは
例えばテレビをつけると、
目を見張るような美人がいつでも目に入ってくる。
女優、アイドル、タレント、歌手….
みんな違ってみんな綺麗。
そこに優劣をつけるのは不可能です。
でも、この童話に登場する鏡は、「真実」しか言わないんです。
そこには主観はなく、「真実」しかない。
「真実」の審判をもってして
「この世で一番美しいのはあなたではなく白雪姫」
だという。
さて、このお話は、そんな「白雪姫」がモチーフになった小説です。
しかも主人公は、白雪姫ではなく、「王妃」側。
この物語について
鳴かず飛ばずのアイドルだった22歳の時。
瀬戸永利は、芸能事務所で偶然出会った男に運命を変えられた。
その男は世界的に有名な天才フォトグラファーで、
彼の被写体(=ミューズ)になれば、誰もが一躍時の人となるだけでなく、眠っていた魅力が呼び覚まされ、
見違えるほど輝き、
そして売れるという。
だがその天才・氏家紹惟は、全てが仕事中心。
仕事が上手くいくのならば、誰とでも寝ることも厭わないという
破綻した人格。
彼は誰も愛さない。
永利は、「クズのヤリチン」だとわかりつつも、
そんな紹惟に惹かれるのを止められず、「体だけでも」と関係を持つ。
報われない恋の一方で、
クビ寸前の底辺アイドルから一流芸能人に登り詰めた永利。
ここまできくと、白雪姫というより、「シンデレラストーリー」です。
ですが、この小説は、ここからが本番です。
あれから10年間。永利は紹惟のミューズであり続けました。
仕事の関係もあり、身体の関係もある。
ただし、心の関係はなし。
紹惟は色んな人間を抱いている。
心が手に入らなくても、彼の傍にさえ居られたら何でもいい。
でも、それも自分に替わるミューズが現れるまでの期間限定。
自分より美しい被写体が現れたら、この関係も終わるだろう。
その日が来るのは、今日か明日か…。
10年間ずっと怯えてきた。
そして、とうとうその日は来てしまい・・・。
新しく表れたミューズは、
若く、美しく、そして才能の塊だった。
自分はもう32歳。
容姿の劣化も気になるアラサーは、どんなに元が整っていても、
「若さ」には叶わない。
才能だってそう。「努力に勝る才能はない」と言っても、
才能をもってして、一晩でこちらの10年分の努力をもひっくり返してしまう化け物もこの世の中にはいるもので。
そんな相手が目の前に現れてしまったとき、
私たちはどうすればいいのだろう?
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」
そう問いかけるのは、ナルシストだったからじゃないのかもしれない。
怖かったからかもしれない。
「容姿」以外に何も縋るものがなく、
「容姿」だけで地位も権力も手に入れた人間が、
「自分の老化」と「新たな若い才能の出現」に怯えたとき、
安心したくて、安心させてくれる答えが欲しくて問いかけ続けたの
かもしれない。
「今は自分が一番かもしれない。でも明日は?明後日は?」
自分より美しい人間が現れ、自分が捨てられる日へのカウントダウン。
そんな見えない奈落を一寸先に見据えながら、
ビクビクと過ごしていたのかもしれない。
どうしようもないこと
好きな人が自分を愛してくれるとは限らないし、
老いを止めることはできない。
生まれながらの才能の差は、努力じゃどうにもならないこともある。
この小説は、そんな
「どうしようもない苦しさ」を抱えた主人公の物語です。
若さには勝てない。
本当に?
若い方がいいって、誰が決めたんだっけ。
白く透き通る肌に、赤い唇。白雪姫は、誰が見ても「美しい」
でも、目元に滲むシワを、
「チャーミングだ」と言ってくれる人もいたかもしれない。
もしかしたら、他人の若さや才能に怯える姿ですら「不器用で愛おしい」といっている人だっているかもしれない。
世の中のわかりやすい指標や、目に見える美しさではない、
人間の本当の美しさって何だろう。
そんなことを考えさせてくれる最高のBL小説です。
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