桜でんぶ事件

2022年6月下旬、旅行前日。
義父と義姉(次女)家族は前乗りで福岡に訪れると真っ直ぐに宿泊先のホテルに…ではなく、我が家に足を運んだ。
もちろん義母に会う為である。
義姉は手製の魚の煮付けを持参して下さった。
「私もだけど、おかあさんが好きな味付けなの。あんちゃんも好きだと良いな。骨を除いてほぐしたら、息子君も食べられると思う。」
義姉(次女)夫の方は釣りたての魚を持参しており、自前の包丁とまな板で捌き始めた。
「お刺身をおかあさんに食べて欲しくてね。もちろん、あんちゃん達にも。」
それ等は量もたっぷりあったので、今晩の夕飯はこれで決まりとなった。

この訪問に関して、義母から事前にこう聞かされていた。
「うちの冷蔵庫に入れてたウニ瓶があるのよ!持ってきてくれるようにおとうさんに頼んでるからね。」
ウニ瓶だけでは済まないことは予想していた。
しかし予想以上の量だったし、予想をはるかに超えることも起こった。
当時友人達とやり取りしていた愚痴LINEに持参品の内容が残っていたので以下に転記する。
・塩漬けウニ瓶5本(義父母友人手製)
・練り物1パック
・削り節1本半
・餅1個(大)(義母手製)
・山椒1瓶(義母手製)
・一升瓶に入った米酢(義母手製)
・魚の干物10個前後(義父手製)
・貝の煮付け1パック(義母手製)
・炊き込みご飯のもと2袋(義母手製)
・桜でんぶ1袋
・クジラ肉1パック
・ひじき100g
・じゃがいも5つ
・切り干し大根3袋

何をどう頑張っても冷蔵庫にも冷凍庫にも入り切らない。
「ごめんね、あんちゃん…私、多すぎるやろって言ったんだけど…おとうさんが聞かなくて…」
と謝る義姉(次女)に対して義父は腹を立てたようだった。
「母ちゃんに言われた通り、やっただけやもん。」
自分には何の責任もない、という訳である。
このような上下関係の出来上がっている夫婦関係を気の毒に思った。
何故義父はきちんと意見して対等な関係性を築いてこなかったのだろう?
…きっとできなかったのだろう。何を言っても
「ずっと家にいなかったおとうさんには何にも分からないんだから黙ってて!」
等と切り捨てられてきたことが想像できた。
義母が病に侵される前、そのような場面を何度か見た為である。
それに、機嫌の悪い時の義母の態度は凄まじい。
言う通りにすればそれを回避できる、だからそうした。その心理は理解できる。
参照note…肉屋のお肉騒動
https://note.com/momo_anne_s/n/n5a170de13497

この場面に夫がいれば、義父が持ってきた物からも処分品を選んただろうが、仕事で不在にしていた。
なので、今この家にある冷凍・冷蔵品をどう整理するかを、私一人が決めねばならなかった。
正確に言うなら、元々冷蔵庫に入っている物のどれを処分するのか、早急に判断と実行せねばならない。
人道的に考えて、余命の宣告を受けている人間が食べたいと言って持ってこさせた食材が優先されるべきだろうから。
しかし、今冷凍庫に入っている冷凍食品や魚肉などは、忙しい時にサッと料理を出せる為に買っておいたものなのだ。
何より私は、食べ物を粗末にする行為が、大嫌いである。
そして、その怒りと自己嫌悪を隠し通せる器用さなど、全く持ち合わせていない。

「義姉さん、大丈夫です。これ、全部要らない物でしたから。他の物も捨てます、要らないので、全部。」
と早口で言いながら勢い良くゴミ箱に食材を叩きつける私に、義姉(次女)が謝罪を繰り返す。
食材確認の為に義母が部屋から出てきたのはこのタイミングだった。
ちなみに義父は座ってテレビを観ていた。
義母に言われたのは食材を持ってくることで、義父からすれば、自分の役目はもう終わっていたのだから当然と言えるだろう。

さて、義母は、食材を見て大いに落胆した。
「おとうさん、どうして古い方の切り干し大根を持ってきたの?
土間の方の冷凍庫にあるやつの方が新しかったのに。
ねぇ、冷凍イカは?私がイカ大好きだって知ってるのにどうしてないの?頼んでたじゃない。」
絶妙にこの場面に合わない言葉に、義母ファーストの義姉も流石に声を荒らげた。
「おかあさん!何でこんなに持って来させたの!?冷凍庫に入り切らんのよ!?」
義母はキョトンとして再度食材に目をやった。
「何で?入るわよ。
干物やひじきは冷蔵でも十分日持ちするし、お酢やじゃがいもは常温で良いじゃない?
この貝の煮付けと練り物は今夜食べればいいじゃない?」
などと言いながら食材を冷蔵庫と冷凍庫に詰め込むと
「ほーら、ちゃーんと全部入ったじゃーん!」
とにっこり笑った。
「あんちゃんは冷凍庫の物ほとんど捨てたのよ、おかあさん見てなかったの!?」
と言う義姉に返事もせず、義母は自室へ戻って行った。
そのウキウキした横顔から察するに、義姉の声は聞こえていなかったのだろうと思う。
聴力の問題ではなく、ベテラン主婦としての自分を娘達見せられたことへの満足感で恍惚としている、といった様子だった。

ちなみに透析患者は、水分、塩分、カリウム、リンの摂取を控えることが推奨されている。
上記した食材のほとんどが、それに該当する。

桜でんぶと米酢の使用用途について
「それはおかあさんがお寿司やら作る時に使うのよ」
と語った。
腕に力入らなくてタッパーも開けられず、血が止まりにくいから包丁持つなと医者に言われてるのに、義母が料理をする気でいることに愕然とした。

帰宅するなり事の詳細を聞かされた夫は私に頭を下げた。
「実家の冷蔵庫いつもパンパンで、賞味期限切れてる物も多かったもんなぁ…」
そしえ深くため息を付いた。
食べ物を粗末にするのが大嫌いなのは夫も同じだからである。

それから数日後。料理をしようと冷凍庫を開けた際、とんでもないことに気付いた。
当時の画像を載せるので、見て頂きたい。

…お分かり頂けただろうか?

別の食材も確認する。
クジラ肉には『賞味期限 枠外記載』と書かれているが、枠外が見当たらなかった。
開封済だったのだ。そしていつ開封したのかも分からない。
夫はそれ等を見ると眉間に皺を寄せ、桜でんぶとクジラ肉を燃えるゴミとして処分した。
こんなゴミの為に食材を無駄にしたのかと思うと悲しくて悔しくて堪らなかった。

「何でぇ?おかあさんのものを黙って捨てないでよ、それくらいだったら食べられるのに!」
「食べられない、食べたくない。
少なくとも俺は食わない、あんりにも息子にも食べさせない。腹壊したらどうすんだ?」
事後報告を受けた義母は立腹し、夫と言い争いになった。
食材が既に処分されているので現状を受け入れるしかない義母は、このような言葉で口論を締めくくった。
「大体、おかあさんは桜でんぶ持ってきてなんて頼んでない!
おとうさんが勝手に持ってきたのよ!?
珍しく気が利いてるわ〜と思ったら賞味期限切れだなんて。ほんと、役に立たないんだから!」

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