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【本編19】メルマガ挨拶騒動

 メルマガとは言いつつ、宛先をメーリングリストにしているのがミソでした。つまり、読者の方がメールを返信すれば読者全員にそのメールが届くわけです。そのことにより、いくつかの事件(?)が起きました。

 たとえばこんなこと。

 その頃、他社で私と同じようにメルマガを発行していたO部長という方がいました。私のメルマガは概ね月一で発行していましたが、Oさんのメルマガはほぼ毎日発行されていました。情報交換のため、お互いのメルマガをお互いに送りあっていたのでした。

 そのOさんが、当社の本社ビルを訪ねた時、1階受付近辺の様子に憤りを感じ、それを自分のメルマガに書いたのです。


「ある会社の受付で様子を伺っていたら、ガードマンが大きな声で『おはようございます!』ととっても気持ちよく挨拶をしていました。しかし、ほとんどの社員はそれを無視して何も言わずにエレベーターに乗っていきました。皆さんはこの状況をどう思いますか?振り返って当社はどうでしょうか?これを他山の石として、気持ちのよい会社にしていきたいですね」


 私はそのメルマガを読んだとき、そこに挙げられている「ある会社」というのが、当社のことだとすぐに気づきました。そこでOさんにお願いして、Oさんの文章を私のメルマガで紹介することにしたのです。


 私の読者の方からすぐに反応がありました。私と同じ社宅に住んでいて、家族ぐるみの付き合いがあったXさんからでした。

 彼の主張は、「ガードマンの挨拶は確かに大きな声で気持ちのよいものであるが、彼らは仕事でやっているのであって、心のこもった挨拶だとは自分は思わない。そういった挨拶に対していちいち返礼する必要はないと思う。ただし、自分自身はきちんと挨拶を返しているが」といったものでした。

 律儀にもXさんはメーリングリストに対して返信をしているので、彼の主張はすべての読者に対して送られてしまったのです。

 私は咄嗟に「マズイ!」と思いました。当然のことながら、彼の主張は社長以下取締役の皆さんにも届いているのです。普段は穏やかで優しく社交的なXさんなので、敢えて反論したのだと思いますが、Xさんのことを知らない読者の中には、不快に思う人もいるだろうと思いました。

 しかも、彼はまさかメーリングリストの中に役員たちが入っているとも思っていなかったでしょうし。

 Xさんをフォローするためのメールを書こうと考えていたら、それよりも先に追い打ちをかけるようなメールが別の社員から飛んできました。Xさんの主張を非難するメールでした。それに対し、Xさんからも反論のメールが飛び、他の社員からも「挨拶をすべきだ!」「挨拶をする必要はない!」というメールが飛び交い、「メルマガ挨拶騒動」がこうして勃発したのでした。

 そもそもメーリングリストという形にしていたのは、こういうことがやりたかったためではありました。様々な問題に対し、役員も巻き込んで本音の意見交換をしたかったのです。風通しの良い会社にしたいという意図があったため、今回起きたことはまさに狙い通りだったのですが…

 唯一、心が痛んだのは家族ぐるみのお付き合いのあるXさんをヒール役にしてしまったということ。しかも、Xさんはメーリングリストにどんな方が入っているかも知らなかったわけですし。


 挨拶騒動は、Y副社長からのメールで一件落着となりました。


「私はよく犬の散歩に出掛けますが、向こうから知らない人が犬を連れてやってくると、知らない人同士でも気軽に挨拶をしますし、世間話をしたりもします。挨拶で人の輪が広がりますよね。もちろん、挨拶は強制して義務でするようなものではありませんが、しないよりはした方が気持ちがよいと私は思います」


 副社長らしい、オトナのまとめ方をしてくださいました。

 その後、Xさんから私個人宛にメールが来た。

「まさか副社長がご覧になっているなんて…」

 私は、「Xさんの勇気あるメールで社内の風通しが少しよくなったような気がします」と感謝の気持ちを伝えました。

 こういった事件はその後も何回か起きたのですが、誰が読んでいるか分からないメーリングリストに本音の意見をぶつけてくださる皆さんに、そのたびに私は感謝していました。

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