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【本編20】副社長との最初の呑み会

 Y副社長とはメールのやり取りはしていたものの、実際にお会いしたことはありませんでした。

 そんな折、同じ担当の女性社員がこんな話をしてきたのです。

「MoMo SEさん! 今度私、Y副社長との飲み会に参加できることになったんです」

「え?どんな飲み会?」

「副社長を囲む女性社員の会なのですが、50名ぐらいの社員で副社長を囲む立食パーティーです」


 ああ、なあんだ、というのが私の素直な感想でした。Y副社長は白髪で身長も180cm以上あるダンディーな方で次期社長とも目されていたので、女性社員の人気も抜群でした。ただ、50人の大人数で囲んでも大して有り難みはないしな、と思ったのです。

 それで、彼女をあっと驚かすような企画を考えていました。

 ある日、社内SNSでY副社長が「ジャズと薔薇が私の趣味です」といった日記を投稿しているのを見かけました。早速「私もジャズと薔薇が趣味です」というコメントを書きました。そして、「今度、同好の士を集めて、ジャズと薔薇について語り合いませんか?」と書き加えたのです。Y副社長は「秘書と相談してみてください」とコメントを書いてくださいました。

 私は、チャンス到来!と早速、秘書にメールを送りました。秘書は「2時間なら何とかなります」と、個室があって料理のおいしいステキな店の手配までしてくれました。そして、「副社長は、ジャズと薔薇以外に、実はペンギンも好きなのです」と秘密の情報も教えてくれたのです(その後、Y副社長のペンギン好きは、社内外でも有名になったのですが)。

 私は実はジャズはそんなに好きでもなかったのですが、Y副社長との呑み会に備えて十数枚のCDを買い、ジャズの評論誌なども読み、多少はジャズについて語れるように勉強しました。

 そして、当日の参加者として、先ほどの彼女も含め社内でも有名な人気社員たちに声を掛けたのでした。結局、5名の女性社員を集めることができたのですが、その中には全く面識のない女性社員もいました。

 つまり大胆にも、私からすると、初対面のY副社長、初対面の女性社員たちとの呑み会を企画したのでした。そしてテーマは、付け焼き刃のジャズと薔薇とペンギン。

 秘書に指定された店に行ってみると、穴場的なとても雰囲気の良い店でした。女性陣に先に席についていてもらい、私は店の前で副社長を待っていました。副社長専用のレクサスが店の前に横付けされ、副社長が降りてきました。

 店の個室に入って女性陣たちを見て、「さて、これは何の集まりだったかな?」と副社長が苦笑いされていたので、私はチャンスだと思いました。

 「2時間限定で、今日は仕事の話題は抜きでいきましょう」というY副社長の言葉でその呑み会は始まりました。しかし結局、閉店まで4時間以上も居続け、話題も9割以上は彼女たちの仕事や上司に対する不満でした。ジャズも薔薇もペンギンも、ほどんど話題には上りませんでした。

 おそらく本当にそう思われたのだと思いますが「今日は勉強になりました」とおっしゃって、Y副社長は迎えの専用車に乗って去っていかれました。

 感動の4時間でした。私も女性社員たちも上気した顏で副社長をお見送りしました。

 これがその後、Y副社長が社長に就任されてからも続く、プライベート呑み会の初回となったのです。

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