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【本編16】娘の標語に泣く(金曜日)

 夜22時頃まで仕事をしていると、例のH課長が私の席まで来て話しかけてきました。


「水曜日の組織長との対話はどうだったんですか?」

 私がここでは言いにくいという旨を告げると、


「だったら、今から呑みに行きませんか?」


と、神楽坂にある居酒屋まで二人で呑みに行くことになりました。組織長から「お前の人事評価はゼロだ!」と怒鳴られたことも含め、赤裸々にあの日の出来事を語ると、H課長は携帯電話を取り出し、職場でまだ働いている他の課長たちに電話をかけ始めました。


「MoMo SEさんが私たちのために、組織長に直訴してくれました。今から居酒屋まで来てもらえませんか?」


 すでに夜中の12時は過ぎていましたが、5人の課長が集まりました。さすがは長時間労働が常態化している職場です。帰宅している課長は一人もいませんでした。その後、酒の力も手伝って午前2時過ぎまで組織長の悪口で盛り上がりました。そして最後に、


「お前のことは俺たちが守る! 絶対に人事評価は下げさせない!」


と、私への励ましの言葉でお開きになりました。

 タクシーに乗って家路に着きました。帰り道、この1週間に起きた出来事を反芻していました。20年近いサラリーマン生活の中でも最も濃厚な出来事に彩られた1週間になったと思います。そして、最も多くの皆さんから激励された1週間。

 帰宅すると、食卓の上には妻の置手紙がありました。娘が妻に福祉標語の内容を教えてくれていたようでした。2枚目にその標語が書かれていました。

 私はその標語を見るなり、その場で泣き崩れてしまいました。泥酔していたこともありますし、課長たちに散々励まされて涙腺が弱くなっていたこともありますが、不思議な偶然の積み重ねの中で、見えないたくさんの愛情に包まれていることに喜びがこみあげてきたのだと思います。

 そこにはこう書かれていたのです。







『だいじょうぶ みんながいつも まもってる』





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