MOMO

2040年の日本。大災害後の社会で、血縁を超えた絆と、失われた社会の再生。人間とAIガ…

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2040年の日本。大災害後の社会で、血縁を超えた絆と、失われた社会の再生。人間とAIガバナンス混合の統治の下で、人々は新たな家族のかたちと希望を見出していく。人間の強さと弱さ、そして回復の物語。

最近の記事

2040年の世界 まるでそれは美しい旋律のように

自動運転車で旧市街の寝床近くまで送ってもらい戻った6人はすっかりお腹が満たされていた。年少組の4人は帰りの車内でも今日プレイしたVRゲームについてずっと話していた。 行かなかったメンバーへのメッセージとしてカイは約束通りB-28路地の突き当たりの壁に特に問題なく帰ってきたことと博士にもらった食べ物のお土産があるということを暗号メッセージとして残した。 深夜そのメッセージを読んだメンバー5人は朝になってから廃墟ビル5階の寝床にやってきた。 カイは彼らに一通り研究室でのことを話

    • 2040年の世界 みんなと同じことが正しいこと(つづき)

      案内AIロボットが持ってきてくれたコーヒーにミルクと砂糖をたっぷり入れながらナオは言った。 「僕は女の子として生まれたんだ。一見女性の身体だけど僕は未だに生理もないし、僕自身は僕は男だと思ってる。」 そう言いながらスプーンでカップの中身をかき混ぜ、一口啜る。 「施設では僕は女の子の服を着せられた。女の子だからって。被害の少なかった地域や他の国から子ども服の寄付があって、寄付って 不思議と女の子の服は多いんだよ。男の子の服は少なくて、女の子用のひらひらした服を渡された。僕が何

      • 2040年の世界 みんなと同じことが正しいこと

        VRゲームで楽しそうに遊んでいる年少組4人を温かく見守りながら、アラタ博士とコトリちゃんは美味しいドーナツについての話をし、ナオはコウヨウ氏と機械の話をして盛り上がっていた。カイはお茶を啜りながらドーナツをゆっくりかじり、さりげなく、注意深く周囲の様子をうかがっていた。そして、そういった研究室全体の様子をYUKIは記録していった。 コウヨウ氏との話題がひと段落したナオがぽつんと言った。 「わかった。この匂い。」 ナオの一言にその場にいた皆が彼を見る。 ナオは続ける。 「ここ

        • 2040年の世界 ピラニータ年少組、研究室で遊ぶ

          アラタ博士の提案から2週間が経過した。コトネが見つけた新しい寝床の偵察が終わり、アラタ博士の研究室に行かないグループがそこへ移動して1週間が経った。この間、特に問題は起こらなかった。 カイは小型デバイスを取り出し、アラタ博士の連絡先を開きメッセージを送信した。 「インタビューの件、受けることにした。」 数分後、返信が来た。 「カイ君、連絡ありがとう。君たちの決断を嬉しく思います。いつ頃研究室に来られますか?」 カイは仲間たちと相談し、2日後の夕方に行くことを決めた。 博

        2040年の世界 まるでそれは美しい旋律のように

        • 2040年の世界 みんなと同じことが正しいこと(つづき)

        • 2040年の世界 みんなと同じことが正しいこと

        • 2040年の世界 ピラニータ年少組、研究室で遊ぶ

          2040年の世界 かのん館での暮らし

          サクラは寮母の指示通りエミリとの時間を徐々に増やしていき、空いた時間はかのん館の管理・運営を担当する人々の仕事を手伝った。そのことによって、施設の機能をよく理解できた。 ここでの生活はとても規則正しく、静かで秩序があった。 被虐待児やネグレクトを受けた子どもにとって、日々のリズムと反復は非常に重要な役割を果たすとされている。 この規則正しい生活の中で、子どもたちは少しずつ変化していく。 まず、この予測可能な環境は子どもたちに安心感をもたらした。いつ、何が起こるかわからない

          2040年の世界 かのん館での暮らし

          2040年の世界 ネストハーモニー

          サクラは300時間のVRトレーニングを終え、国が管理する育母とその子供が生活する施設ネストハーモニーで実地訓練に入るところだった。実際に育母とその子供と一緒に3ヶ月間暮らすことになっている。 街の郊外にある丘の緩やかな坂道を上がって行くと丘の上には5階建ての建物が3棟並んでいた。そしてその3棟の建物から少し離れたところに教育施設や共用施設とみられる建物もあった。 建物の屋根には太陽光パネルが配置され、木材と自然石でできた外壁とアーチ型の窓と扉の建物は温かみとどこか懐かしい感

          2040年の世界 ネストハーモニー

          2040年の世界 M博士、無性愛について語る

          M博士とコウヨウ氏はM博士が所属する大学の近くのバルのカウンターに並び、飲んでいた。 店内は程よく混んでいて人々の話し声のざわめきと低く流れるサルサのリズムが重なりそれは耳に心地良かった。 そのバルは安くて美味しいワインを取り揃えていて、つまみも気が利いているので彼らはよく利用した。 コウヨウはよく冷えたチリの白ワインを啜りながら、オリーブを口に放り込み咀嚼してからまたワインを飲む。 「まったく、M博士は予算取るのうますぎですよ。またM博士のところに大きな予算が割り当てら

          2040年の世界 M博士、無性愛について語る

          2040年の世界 メンバー会議

          カイとソラが廃墟ビルの5階に戻った時、メンバーは歓声をあげてふたりを迎え入れ、と同時に安堵した。 カイは昨夜、状況をメンバーにデバイスからメッセージで伝え心配はいらない旨を伝えていた、それでもタツキとアヤ以外のメンバーはふたりを心配し、不安だった。 タツキとアヤがあまりふたりを心配していなかったのは、実は彼らがそれほどまでにグループへの忠誠心を持たず、カイへの尊敬の念も他のメンバーより薄かったからだった。タツキもアヤも群れに所属はしているものの、彼らは基本的には利己的で個

          2040年の世界 メンバー会議

          2040年の世界 博士の提案

          「インタビュー?」 とカイは聞いた。 「ああ、インタビューって言ってもそんな形式ばったものじゃないよ。定期的に僕のところに来てくれて、僕と雑談するだけだよ。でもその雑談の内容は録画記録するからそれはあらかじめ承知しておいてほしいのだけどね。」 博士は彼らが自分たちがどうして保護を嫌がるのか真正面から聞いて素直に思ったことをすぐに話すとは思っていなかった。彼ら自身言葉にできないことも多いだろうし、自分でもどうしてなのかわかっていない場合もあるだろう。長い時間をかけて、信頼関係

          2040年の世界 博士の提案

          2040年の世界 研究室で朝食を

          朝、カイはぐっすり寝込んでまだ眠たがるソラを起こした。ふたりは案内AIロボットの指示に従って身支度を始めた。 まず、案内AIロボットは特殊な細く柔らかいブラシを使って、ふたりの爪の間の汚れを丁寧に取り除き、爪を短く切った。次に、研究所が開発した最新のシラミとりシャンプーを使用した。頭皮に優しく、かつ効果的にシラミを除去するシャンプーだ。 ふたりのボサボサだった髪もきれいにカットされ、整えられた。その後ふたりはシャワーを浴びた。ふたりが温かいお湯でシャワーを浴びるのは本当に

          2040年の世界 研究室で朝食を

          2040年の世界 アラタ博士ふたりを迎える

          ふたりは博士の研究室へ向かう 博士が手配した自動運転車に乗り込んだカイはすぐに小型デバイスで散り散りに逃げた仲間と連絡を取り無事を確認した。 ソラは自動運転車を待つ間にカイにおおよそのあらましを聞いていた。カイに絶対的な信頼を置いているソラはカイが頼って連絡を取った相手なら大丈夫だと信じることができた。 車のシートは信じられないくらい座り心地が良かった。ふたりは自動運転車に乗るのは初めてだった。農場から逃げ出した時に全速力で走ってかいた汗が冷えて、路上裏に逃げ込んだ時は冬

          2040年の世界 アラタ博士ふたりを迎える

          2040年の世界 彼らはアラタ博士の研究室へ

          カイはアラタ博士を知る カイは重そうな袋を抱え、廃墟ビルの5階に戻った。深夜2時を回っていたが、年長組の何人かはまだ起きていた。 アヤは廃墟の壁にもたれかかり、無線イヤホンで音楽を聴いていた。その横でユウキとナオはVRゴーグルを装着し、バーチャル空間でバスケットボールの1on1を繰り広げていた。ユウキの鋭いドライブにナオが翻弄され、バランスを崩すしているところだった。 袋から漂う匂いに気づいたユウキとナオは、顔を上げて喜びの声を上げた。カイは無言で袋を床に置き、寝ている

          2040年の世界 彼らはアラタ博士の研究室へ

          2040年の世界 アラタ博士とカイの出会い

          カイ カイは廃墟となったビルの屋上に腰を下ろし、夜空を見上げた。冬の澄んだ空気の中、めずらしく星が瞬いているのが見える。 彼の胸の内では相反する感情があった。グループの仲間たちとの絆、そして彼らを守る責任感。 一方で、より良い生活があるのではないかという期待と、また大人たちに裏切られるのではないかという不信と恐れ、それからピラニータとしての自分たちの行動への疑問。 彼は深いため息をつき、目を閉じた。古い記憶が巡る。施設での生活、ナオとユウキとの出会い、そして彼らと共に逃げ

          2040年の世界 アラタ博士とカイの出会い

          2040年の世界 サクラ

          2025年、32歳のサクラの人生は大きな転換点を迎えた。日本を襲った大災害で両親を失い、アメリカにいながら深い喪失感と複雑な罪悪感に苛まれた。彼女の母親はストレスに弱く、些細なことでヒステリックになることがあり、サクラと弟に対して過度の期待と批判を繰り返す人だった。長年の葛藤の末、サクラはアメリカ人の夫と結婚して渡米し、それ以来、母親との連絡を完全に絶っていた。​​​​​​​​​​​​​​​​ しかし、母の突然の死は、サクラの心に予想外の衝撃を与えた。関係修復の機会を永遠に

          2040年の世界 サクラ

          2040年の世界 育母制度とM博士

          育母制度の提案者M博士 M博士という人 M博士は一見すると、クールな印象を与える女性研究者だった。スラリと細身で切れ長の目と通った鼻筋、卵形の整った顔立ちは、まさにクールビューティーで、その外見と理路整然とした話し方から、冷たい印象を人に与えた。しかし、実際の彼女は自分の子供と犬にメロメロで犬の肉球とその匂いとサンリオのキキララをこよなく愛する、いわゆる「ツンデレ」キャラだった。 そして、M博士は変わった趣向の持ち主で匂いフェチである。特に犬の肉球の匂いは大好物だ。植物

          2040年の世界 育母制度とM博士

          2040年の世界 ピラニータ

          2040年の日本社会において、ピラニータは重要な社会問題として位置づけられている。彼らは2025年の大災害後に出現した子どもたちのストリートギャングで、主に孤児や家族を失った子どもたちが生存のために形成した集団だ。2040年時点では約2万〜3万人程度が存在すると推測されている。 ピラニータは主に二つの世代に分かれている。第一世代は15歳以上で、災害直後に路上生活を始めた子どもたちだ。第二世代は0〜14歳で、ピラニータの間で生まれた子どもたちである。彼らは10〜15人程度の小

          2040年の世界 ピラニータ