うどん屋一筋の親父が語りたい、うどんの話
前回の記事でご紹介したうどん食べ放題の記事はいかがでしたでしょうか。
今日は30年以上うどんと向き合った親父が、うどんの話をとことん語ります!
皆さん注目される「美味しいうどんのポイント」
Googleでの豆乃屋天保山店のクチコミでは、たくさんの評価をいただいています。その中で「うどん」に関するクチコミをいくつかピックアップしました。
👍 うどんはモチモチ、シコシコで本当に美味しくて‼️
👍 出汁がきいて、麺もこしがありとても美味しかったです。
👍 うどんのこしもたまりません☺️
👍 固すぎず、柔らか過ぎず、濃い目の出汁と良く合います。
👍 昔ながらのふわふわうどんでおいしいです。
🤔 うどんは正直普通です。(^ω^)
🤔 うどんにコシは全くない。
🤔 うどんもこれと言って特徴がない。
どのご意見も大変貴重で、クチコミをいただくたびにスタッフと共有して勉強させていただいています!(皆様ありがとうございます✨)
同じ当店のうどんをお召し上がりになり様々なご意見をいただいています。
それは何故でしょうか?
それは概ね「温かい麺」と「冷たい麺」の違いです。
小麦の持つタンパク(グルテン)の特性として冷やすと固く、温めると柔らかくなります。同じうどんでも温かいか冷たいかでコシがある無しの評価が大きく変わります。
多くの方が評価の基準にしている、”麺のコシ”。
今日はうどん職人として”コシ”について語ります!
うどん屋の最初の決断!
うどん屋の店主がうどんの湯がく時、
湯がき時間を温メニューに合わすか?冷メニューに合わすか?
が開店する時に最初の決断です。
当店も開業当時はコシを重視して温メニューに合わせて短めに固めでゆで上げていました。ですから冷たいメニューは固いコシのうどんをご提供していました。32年前の鹿児島では柔らかい麺質のうどんが主流でしたので大変評判になりました。
ところが数年前からお客様から「お宅のうどんは固い」とのお声を頂くようになり、試行錯誤の結果、今では冷たいメニューのご注文が入ったらうどんを追い湯がきしてから冷水で絞めてご提供するようにしています。
ぽてりんこさんは"冷たいぶっかけうどん”をお召し上がりになられていますので"しなやかモチモチ”のコシをお楽しみと思います。
コシを左右するものは・・・
コシを左右するものはズバリ「水分傾斜」です。
(画像は日本冷凍めん協会様ホームページより)
水分傾斜とは茹であがった麺の表面の水分量と芯部分の水分量の差をいいます。
茹で立ての麺は水分傾斜➡大です。時間の経過とともに表面から芯部分に向かって徐々に水分が浸み込みやがて表面と中心部分の差が無くなり水分傾斜"0”の麺となります。いわゆる”のびた麺”ということです。
当店では過去の経験より、新人の為の茹で上がった麺の時間管理の目安をうどんは【20分】、そばは【8分】、中華麺【0分】で行っています。この時間を経過した麺はお客様にはお出しせず、試作や写真撮影用、賄いに使用します。
固いうどん=コシのあるうどんは違います!
よく「固いうどん=コシがある、柔らかいうどん=コシが無い」と思われている方がいらっしゃいますが大間違いです!
柔らかくてもしなやかでモチモチした完璧なコシのあるうどんもあります。
仕込みが上手くいった麺は2時間程度経過しても完璧な状態を維持している(=水分傾斜を高く保っている)こともあります。ベテランのスタッフは麺線を指でつまんだだけで判断できるようになります。
今のトレンドはこの柔かくてしなやかな【モチモチトロ~リ】が好まれているようです。
うどんは生き物!
食品製造の三要素は温度・時間・重量です!
あらゆる食品や料理で一定の品質を維持する為には不可欠の要素です。
当店での仕込みの目安は下記の通りです。
【温度】
粉温・湿度・水温・室温の順で加水率・塩水濃度を決定。
【熟成時間・温度】
通常、1次熟成28度・2時間。2次熟成18度・24時間。生産が多い日は1次熟成27度3~7時間。2次熟成16時間・48時間。
【重量】
夏場は水少なめ・塩多め。冬場は水多め・塩少なめ。
粉が入荷すると仕込み場で最も温度・湿度が安定している奥のプレハブ冷蔵庫のある部屋に在庫し最低7日間経過してから使用します。
(ちなみに大手セルフうどんのチェーン店がガラスの窓際の直射日光の当たる場所にうどん粉を置いているのには驚かされます。小麦粉は40℃以上の気温では"変質”を起こしますのに・・。)
それ以外にも気を使うのは新粉に変わる時期です。
当店では品質の安定している"ASW(豪州産小麦)”を使います。
オーストラリアの"麦秋”(麦の収穫期)は日本と真逆の秋です。秋に収穫された小麦が船便で日本に入荷し製粉業者にて精粉され手前どもに届くのが早くて11月、遅くて3月です。
この時期になると粉のロット番号に注意します。新粉は水をよく吸いますので前日と同じ加水量では全く足りません。捏ね具合を見ながら徐々に加水していかなければならないのです。昨日までの数字は全くあてにならず、手探りの"胃の痛い日々”を過ごします。アジャストするのに運が良ければ数日で、運が悪ければ数カ月かかります。
このように、うどんは仕込むたびに仕上がりが変わる正に「生き物」なのです。
食の職人は芸術家
あなたはゴッホの点描画とルノアールの写実画どちらがお好きですか?
私はどちらも好きですがゴッホもルノアールもそれぞれに「その画法が最も自分の"美”を表現できる」と思っていたはずです。
うどんの本場"讃岐”に行くと、固い・柔らかい・太い・細いそれぞれの讃岐うどんがあり正に"百花繚乱”のごとく己の個性を主張しておりどれが"本当の讃岐うどん”か分からなくなります。
それぞれのうどん屋の店主が"私はこのうどんが一番美味いと思う”と自信をもって営業なさっています。うどん県の人たちはそれぞれのうどん屋さんの個性を尊重してその日の気分でお店を選んで楽しんでいます。
お客に"媚びを売らず”自分の個性を押し通す姿
この姿こそ先のゴッホやルノアールに通ずるものであり
食の職人はアーティスト(芸術家)だと思います。
最後に うどん屋の親父の切なるお願い
うどん屋に限らずですが、皆さんがお食事に行かれた時にはそのお店の個性を尊重して楽しんでいただきたいと思います。
お願いですから「不味い」というネガティブな表現はしないでください。
せめて「私の口には合わない」と表現して欲しいと思います。
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