凪 1
平日の昼間、誰もいない静かな公園に設置されたピアノを独りで弾く。
小さな屋根で雨から守られるはずのピアノは少し傷んでいる。
小雨が降り注ぐ中、彼女は夢中で弾き続ける。
即興でとにかく演奏していたはずなのにだんだんと聞き覚えのあるフレーズになってしまい、少し表情が曇る。
今日はだめかな、と弾くのを辞めると後ろから拍手がきこえてくる。
誰。
たった独りで私の音楽を聴いてくれた人がいる。
しかも、自分に称賛を送ってくれている。
そんな事実に耐えきれず、立ち上がる。
戸惑いと嬉しさと気恥ずかしさが混ざった表情で顔を上げる。
彼は、それでも私に拍手を送っていた。
確かに私を見つめていた。
その焦げ茶の双眸が潤んでいることに気付けないまま、
私は目をそらす。
それが始まりだった。
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