品性とは何か

人がひとりで生きていくことはできない。
誰もがそう感じながらも、
なぜか日常の中ではそれを忘れがちになる。
互いに支え合って生きている
ということに気づくのは、
ほんの一瞬、ふとした瞬間に過ぎない。
そんなとき、「品性」という言葉が
心に浮かぶことがある。

この言葉には不思議な響きがある。
美しさや優雅さを感じさせながら、
同時に人としての強さや潔さも
含まれているように思う。
品性とは、外見や振る舞い以上に、
その人が心に秘めた思いやりや、
他者への配慮に表れるものなのだろう。

ある日、私はとあるカフェで友人と話していた。
隣のテーブルには、
静かに本を読んでいる年配の男性がいた。
私たちは気にせず、会話を続けていたが、
友人がふと話を止めた。
友人のの視線を追うと、
先ほどまで読書に没頭していた男性が、
テーブルの隣で騒いでいる
子どもたちを気遣って、
静かに席を立って別の場所に移っていたのだ。

その瞬間、彼が発した言葉も、
表情も特に見たわけではない。
けれど、その静かな行動に、
私は彼の品性を感じた。
子どもたちに何も言わず、
嫌な顔ひとつせずに、ただ自らが席を移動する。
その小さな行動に、
相手を思いやる優しさが宿っていた。

人は往々にして、
自分が「どう見られているか」を気にする。
品性というものも、
何か上品な態度や礼儀正しさ、
または高い道徳性によって
計られると勘違いされがちだ。
しかし、本当に品があるというのは、
他人に見せつけるためのものではなく、
自分自身の中に静かに育てていくものだと、
その時感じた。

品性とは、他者を大切にする気持ちが、
無意識の行動に現れるようなものだと思う。
自分を際立たせるのではなく、
相手が心地よくいられるようにふるまう。
それは、他人を支える力であり、
自らの欲望や自己中心的な考えを抑えてでも、
相手のことを第一に考えようとする心だ。

その後、
私はあの男性がどこに移動したのかを気にして
カフェを見回したが、彼はもういなかった。
彼の行動を目にしたのはほんの一瞬で、
それ以上何も知ることはできなかった。
けれど、その瞬間に感じた「品性」の余韻が、
私の心に強く残ったのだ。

私たちは日々の中で、
意識せずとも他者と交わりながら生きている。
見知らぬ人がほんの少し手を貸してくれたり、
街角で出会った人が
気を配ってくれることがある。
そんな些細な場面に、品性が表れることが多い。人間の美しさは、
決して派手さや見栄えではなく、
その心の奥底にある気遣いと、
相手に対する静かな配慮の中に
宿っているのだと思う。

最後に、「品性」というものは、
学んで得るものではなく、
生活の中で少しずつ育んでいくものだと感じる。自分がどのように生きるか、
他者とどう関わっていくかということを、
ひとつひとつ丁寧に考える。
その積み重ねが、
やがてその人の品性を形作るのではないか。

世の中がどんなに変わろうとも、
こうした小さな心のあり方が失われない限り、
人の温かさや思いやりは
決して絶えることはない。
あの日の男性のように、
無言の優しさや、穏やかな気遣いを
示せるような人になりたいと願う。

それではおやすみなさい。