終末期せん妄と訪問看護
子供が熱出して咳がひどくて眠れず、とても勉強どころじゃありませんでした…。小さい子を育てながら仕事してる人たちほんとすごいです。写真は風邪をひく前に見に行けた桜の花です。
本文に入ります。
終末期せん妄とご家族の関わり方については
OPTIMプロジェクト(Outreach Palliative care Trial of Integrated regional Model、厚生労働科学研究費補助金第3次対がん総合戦略研究事業「緩和ケア普及のための地域プロジェクト)の「看取りのパンフレット」が医療者の方以外にもわかりやすいのでリンクを貼らせていただきます。
今回この記事を書こうと思った理由
せん妄症状の改善、悪化防止には「安心できる環境づくり」がケアの1つと言われています。
在宅療養には、ご家族の存在、住み慣れた家があり、
多くの人にとって安心できる環境と言えるのですが、病気が進行した方の中にはせん妄症状が現れる方がいます。
中でも、何度も起き上がる行動を繰り返したり、さっき着た服を全て脱ぎ出したり、フラフラしてても制止を振り切って歩き出し転倒するなどがあると、
ご家族は大変疲弊している印象でした。
このような活動型のせん妄の割合は少ないのですが、分かりやすく症状が出て、印象に残りやすかったと言えます。
また、せん妄に対し、薬物治療でぐっすり眠れる様子をご家族が見た際は、症状が落ち着いたと安心する一方で
「このまま起きないのかな」と不安そうに聞かれることもありました。
そのような状況が繰り返される中で、
ご家族が倒れないだろうか、入院も検討した方がいいのだろうかなど、意思決定が難しくなったご本人を前に様々な選択肢を考えなければいけない時間があります。
以前3つ目の記事に終末期せん妄については「やり残した感」が強いと書きました。その理由を明らかにするために本や論文を調べました。
今回はそこから想起された振り返りと気付き、をまとめておきたいと思ったからです。
治るせん妄なのか?せん妄の要因は?1つずつ検証できたか
「終末期だから、せん妄だから、仕方ない」
➡︎「辛そうだから落ち着くように、眠れるように薬を飲んでもらおう」
この過程で、その人の辛さを1つずつ検証できてたかな。
その過程を経て、
「あぁ仕方ないんだ、もうすぐ最期の時が近づいてるんだ」と力づくではない緩やかな理解、薬物治療の必要性への理解に繋げられていたかどうか…その人も関わる人たちの思いも置き去りにしてなかったかな…
「治らない」せん妄の例は、森田達也医師の「ひととおりのことをやっても苦痛が緩和しない時に開く本」に記載されており、そのようなせん妄について
いずれも、せん妄といえばせん妄なのですが、死亡に至る経過の最終像としての意識障害ともいえます。英語では、a part of the normal dying process(死に至る通常の過程)とよく呼ばれます。
治るか治らないか分からない場合も多いのですが、その場合は治る(かも)と仮定して一旦計画を立て、経過を見て目標を見直すことになります。
と記載されています。
治るはずのせん妄を検証したのちに、「死に至る過程のせん妄」と理解して関われていただろうか?と反省しました。
せん妄の要因を検証して明確にアプローチするためのツール
次の画像には・せん妄ハイリスク因子・観察項目・看護ケア
が記載されています。
国立がん研究センターが利用しているせん妄アセスメントシートです。
2015年にFacebookに掲載されたDELTA programさんの投稿から出典。現在は改定されているかもしれません。
すでに活用されているアセスメントシートを利用して、ケアの方向性を共有することも1つの方法かもしれません。
「こういうアセスメントシートをやることで業務が1つ増える」
以前はそう思ってました。が、以下の3つの理由で、すでに知見が集まって開発されたものは活用した方がいいのではと思うようになりました。
・看護記録にダラダラと症状を記載するより断然早い。
・訪問者が異なっても同じ観察項目で客観的な評価ができ、感覚ではなく明確にアプローチの方向性が見える化できる。
・訪問診療医に訪問看護師の見ているもの、行なっていることを明確に伝えやすい。
既存のアセスメントシートやスクリーニングシートを使用させていただく上では、使用環境の異なりも把握した上で
訪問看護師間で使用する目的と使用方法について共通で認識することは大切だと思います。
非薬物治療。看護師が工夫できること
上記のパンフレットやアセスメントシート、本にも詳しく書かれています。
その他に、個人的に呼吸困難感を抱える方のせん妄に遭遇することが多かったという経験から、以下に論文を2つ掲載させていただきます。
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2016年 第26巻 第 2 号 353- 355
排便時の姿勢・動作指導により呼吸困難が改善 した慢性閉塞性肺疾患の一例 独立行政法人地域医療推進機能機構星ヶ丘医療センター1),森ノ宮医療大学保健医療学部理学療法学科2) 下西 德1) ・ 嶋崎 勇介1) ・ 堀 竜次1,2) ・ 中村 孝人1)
排泄がうまくいかず「身の置き所のなさ」がせん妄症状として現れることもあります。
そのため、せん妄につながる前から、この論文にあるように排泄時の姿勢を工夫することで、無駄に呼吸筋を疲労させず、排泄にエネルギーを残せるような支援も必要だなと思ったので掲載しました。
この方法が全てではないでしょうし、トイレに座ることも困難な時期が訪れますが、こういう「出来るだけ苦しくない方法」を見つける工夫の積み重ねが、排泄の不快感を緩和してくれるかもしれません。
次の論文は
Palliative Care Research 2014;9(2):101-7 終末期がん患者の呼吸困難に対して緩和ケア病棟の看護師が行っている非薬物療法の認識調査
角甲 純, 酒井 智子
緩和ケア病棟で実施頻度の多いケアとして
,[タッチングを行う(70.0%)][症 状が改善する体位を探しクッションなどで保持する(66.0%)]
「安心感を与えるような声かけをする (59.2%)」[患者さんの 側にいる (56.0%)][セミ・ファーラー位や側臥位などをとる (55.7%)][頻回に訪室する (52.2%)]
緩和ケアで働く看護師が
他の論文などで、すでに明らかになっている「不安感が呼吸困難感を増強する」ということや「横隔膜の可動性を増強し、換気障害を緩和する体位を工夫する」ということに対して行ってるケアにおいて、効果があると感じているということがわかりました。
これだけでなく、また違う機会に実践的な情報が見つけられたら掲載させていただきたいと思います。
終末期せん妄治療の目標を共有する
多角的な検証の上で「死に至る過程のせん妄」と位置付けた際には
その人の生活においてどのような最期の日々が望ましいかを、その人を真ん中にみんなで共有した状態を作ること。
薬物治療がうまくいかないこともあると思いますが、出来るだけ同じ理解度で、せん妄というものの理解し、望ましい生活と治療の目標を共有すること。
根拠を持ってケアにあたる
せん妄の理解、その人への理解が不十分であったから
上述したような場面を申し訳なさそうに思い出しているんだと思います。それが「やり残した感」に繋がっていると明らかになりました。
現場に戻っても、アップデートしながらやれるかな。。そうありたいなぁ。
森田医師の本はほんと痒い所に手が届いた!という感じの最新の知識が詰まってる本でした。おススメです。
長くなりました。
次回は「不満そうに『こなしてるだけなんですよ』と話す訪問看護師の不満の正体とは?」を書きます。
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