037 街にもとめられるもの
私立大学の観光学部が、千葉県鴨川市から撤退します。
撤退あとは、どうなるんだろうか。
そこに、地域活性化に貢献する、こんな学校ができたらいいのにという妄想です。
引き続き、地域活性化を学ぶためのテーマを考えていきます。
街に「もとめられた」もの
これまで、街に求められてきたものとはなんでしょうか。
人口数十万人以上の都市ともなれば、東京などの大都市で流行しているものを体感できる街というニーズが大きくなります。
しかし本来は、その地に暮らす人々の日常生活を満たすための街であるはずです。
日常の買い物。医療機関。役所などの住民サービス。人口20万人以下の中小都市や農山漁村では、そうしたニーズを受け止めることが、街に求められるものでした。
しかし、そのニーズは少しずつ変わってきています。
まず日常の買い物のために商店街へ行くということが減っています。
自動車による移動が中心となり、駅の近くの商店街などで買い物をするよりも、郊外の大型店で買い物をすることが増えています。
つまり人々がモノを買う場所が、街の中心にある商店街ではなく、郊外へとシフトしてしまったのです。
最近ではさらに、インターネットで買い物をする機会がどんどんと増えています。
買い物をするために、そもそも家の外に出る必要がなくなってきているのです。
医療機関や役所などの住民サービスなどは、せいぜい週に一回、場合によっては月に一回や年に一回といった頻度でのニーズです。
そうなってくると、街に集まる人々はどんどんと減っていってしまします。
街に「もとめられる」もの
それでは、これからの街に求められるものは何か。
ショッピングセンターに行くと、平日の日中でも椅子に座って長時間を過ごしている高齢者がたくさんいます。
たしかにモノを買いに来たのかもしれませんが、そこで時間を過ごすということが大きなウェイトを占めています。
そして知り合いが通りかかると、そこでおしゃべりが始まるのです。
ここに大きな意味があると思うのです。
つまり、人がモノを買うために来る場所というよりも、人が集まるための場所が、街に求められるものなのです。
サードプレイスと呼ばれるものです。
サードプレイス
レイ・オルデンバーグというアメリカの社会学者が、ファーストプレイス(第一の場)である家庭、セカンドプレイス(第二の場)である職場や学校とは別に、ふらりと立ち寄ることができる場所をサードプレイスと呼びました。
サードプレイスとは、どのような場所なのでしょうか。
まず大事なことは、オープンな場所であること。
ショッピングセンターにいた高齢者は、そこで休んでいるだけではないのです。
知り合いが来たら、そこでおしゃべりを始めたりするのです。
そのためには、そこを人が歩いて通るようなオープンな場所である必要があります。
これはオーストラリアのシドニーにある大型店舗の中のカフェです。
私たちが想像する喫茶店は、店舗の中にあって、それぞれが静かに時間を過ごすところです。
このカフェは逆で、オープンな通路にテーブルを置いて、その横をたくさんの人が通っていきます。
考えようによっては落ち着かないかもしれませんが、知り合いが通りかかれば、すぐに気づくことができます。
次に手軽に利用できること。
一杯500円のコーヒーだと、年金生活を送る高齢者にはちょっとハードルが高くなります。
コンビニエンスストアの100円コーヒーではないですが、それぐらいの金額で利用できれば、毎日通うこともできます。
そして、居心地の良さがあること。
その場所にふらっと立ち寄りたいと思えるのは、居心地の良さを感じるからです。
社会人になってから、何十年も通っている古びた飲み屋などは、まわりにどんどんチェーン店の飲み屋が入れ替わりできても、ひっそりと営業を続けています。
常連客がいて、店の経営としてはまあまあやっていける。
客は客で、いつもそこに店があることで安心できる。
それらはすべて、店に居心地の良さがあるからです。
働き盛りの会社員は、仕事帰りにそうした場所を持つことができます。
いっぽうで、高齢者にとってはどうなのでしょうか。
高齢者にとってのセカンドプレイスは、病院かもしれません。
アルバイトの職場かもしれません。
そうしたセカンドプレイスで過ごした後、ふらっと立ち寄る場所はあるのでしょうか。
ショッピングセンターは、決して居心地の良い場所ではないと思います。
サードプレイスになり得る場所がないから、仕方なくショッピングセンターで時間を過ごしているのではないでしょうか。
日常の買い物のための街から、人がふらりと集まり、ゆっくりと時間を過ごすことのできる居心地の良い街が求められる時代になっているのだと思います。