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パリにきた時の話

 どうも移動の多い人生だなと思う。学生時代の友人の多くは私に連絡をくれる際、最初に「今どこにいる?」と付ける。どうしてこうなったのか私にもわからない。名古屋で生まれ育って18歳までは同じ場所で暮らした。その後、進学のため関東にでた。そして卒業と同時に渡米、27歳の時に夫と出会いほどなくして結婚した。それからである。とにかく引っ越しが多い。2年同じ家に住むことはまずなかった。ちなみに私は引っ越し好きでもないし、トラブル遭遇体質(いますよね、やたら巻き込まれちゃう人)でもない。ただ、状況的にそうせねばならなくなるのだ。

ニューヨーク 〜 東京 〜 ニューヨーク 〜 東京 〜 上海 〜  名古屋 〜 川崎 〜 横浜 〜パリ(現在)

結婚後15年で暮らした都市なのだが、コロナ禍にもいた横浜が5年間なので残りの都市は10年間で暮らしたようなものだ。今どこにいる?と聞きたくもなる。船便で届いた段ボールを開封する前に次の移動が決まったこともある。そして当然、引っ越しビンボーだ。夫も一緒(すなわち転勤ゆえ会社から手当がでる)だったのは4カ所、あとは自腹だ。勘弁してください。

 引っ越しって精神的に…なんというか、負荷がかかる。あまりネガティブな性格ではないので新たな環境にワクワクしたりもして、引っ越しが嫌!と思ったことは一度もない。もしかしたらアドレナリンで誤魔化されちゃってるだけかもしれないけれど。だけど、引っ越しは確実に虫喰むのだ…こちらの体力と時間、そして心。ついでに指先の潤いも。段ボールさわり続けるからね。

 一昨年の9月中旬、夫の転勤で私たち一家は2ヶ月後パリに引っ越すことが決まった。そうだった。いつも2ヶ月前に言われてきたの、すっかり忘れてました。夫だけ先に渡仏し、住むところを探すなど生活を整え、妻子は後から良いタイミングで…というのがどうやら一般的らしい。しかし過去の経験から、私はそれを断固拒否した。半年ほどかけて準備した方が賢いに違いないが、私はノーだ。家財道具の処分と荷造り、後始末の全てを一人でやるのはとてもつらい。それに半年もあると色々考えすぎて、調べすぎて、なんだか気持ちがぐったり疲れてしまうのだ。体力的にキツくても2ヶ月でまっさらにしたほうが私にはラク。と、私は信じていた。
ちなみに決めてから気づいたのだが、翌月には個展が控えていたので渡航準備は実質1ヶ月。それはそれは大変でした。
身も心も指先も(しつこい)カッサカサになりながら2022年11月末日、私たちはなんだか薄暗いシャルル・ド・ゴール空港に降り立った。

 物件不足の真冬のパリでそれから1ヶ月も家が決まらず、簡素なホテルで物価高と掃除のおばさんのフランス語にビビりながら、新年も近所のアジア系食品店のポサポサしたキンパを食べて過ごすことになるとは…その時の私は知る由もなかった。


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