ラブなホテルに30人以上が集まった記念すべき夜
秘密のヴェールに包まれたラブホテルに出会った
会場に30人超えのぎっしり満席。(立ち見あり)
10人も集まるんだろうか、という想定を軽々と超えた。
探り、探りの進行。参加者も、徐々に、今、エスパシオがどんな状況で、このイベントが何なのかというのを理解していったようだった。参加者一人ひとり、最後に一言話してもらった頃、会場の熱がグッと上がっていったのを感じた。久しぶりに、心が震えた。
山口県にあるホテルエスパシオのことを知ったのは、ちょうど1年前の冬。会社の仕事で制作しているフリーペーパー(アルケバボウ)の取材先として、面白そうなラブホテルを探していた時。Facebookで繋がりのあった美術家で僧侶の風間天心さんの投稿を偶然見かけ、ラブホテルにアート作品がインストールされていることを知った。風間天心さんに連絡を取ると、このプロジェクトの中心となっているインテリアデザイナーの荒木治郎さんの連絡先を教えていただき、取材に行かせていただいた。
ラブホテルは、広告をしてはいけないというルールがあるそうだ。また、いくらおしゃれな空間であってもカフェのように行ってきたことをSNSに開示する人は、まあそういない。…そんな背景もあって、エスパシオの情報をキャッチするのは、たまたま知っている人が関わっていた偶然がなければ、困難だっただろう。実際、取材を受けるのは初めてとのことで、オーナーの金城さんからは「見つけてくれてありがとうございます」と言っていただいた。
詳しくは、フリーペーパーの「アルケバボウ」をご購読いただきたいが、取材時から、「ラブホテルをやめた方がいいと思っている」荒木さんと、エスパシオで作品を制作しているGerman suplex Airlinesの前田さんの「ラブホテルだからこそできる表現がある」と意見が同じではなく、金城さんはどちらともとれない迷いの表情だった。
それから時を経て、今年の夏に荒木さんから久しぶりにご連絡をいただいた。
「関西から山口に移住しました。エスパシオを観光ホテルにするためです。広告の相談をしたい」と。移住なんて、めっちゃ本気やん。その行動力にいいね、と思う一方、ラブホテルという場所がなくなっていく寂しさも感じながら、今のうちに何かできることあったらやってみたいなという想いで、広告では全く役にたてなさそうだが、荒木さんとコミュニケーションを開始した。
わからないことも含めて公開し、仲間を増やしていく。秘密のヴェールを脱ぐプロセス
私が提案したのは、移住したての荒木さんに仲間を作ること。新しく生まれ変わりました、どーんと広告を打つよりも、まだラブホテルとして営業している今の状況から、小さく活動を行って、仲間を増やしていこうと。
まず、第1歩として、私は私で一緒に考えてくれる仲間が欲しかったので、旧友の三宅航太郎くんを巻き込んだ。(ちなみに写真は三宅くんが撮ってくれて、三宅くんの写真を撮り忘れた)
三宅くんも、私も、地方でゲストハウスを立ち上げたり運営していた経験がある。地方の宿運営のセオリーとして、地域に開いていくとか、仲間を増やすとか、そういうことは重要なのを肌感覚で持っている。加えて、感覚的にラブホテルのままでも面白いんじゃないの?というのも共通していた。なので、どう変わるのか?変わらないのか?という問いを持って、ゲストを招いてトークイベントという形で営業中のラブホテルで開催することで、これまでくるきっかけのない人もエスパシオの中に招いてしまおうと。
イベント名は「ラブなホテルの開きかた」。
1回目のゲストには、山口県、萩でゲストハウスrucoなどを運営している塩満くん。三宅くんと私、共通の友人であり、声をかけたら返事は「イエスorイエス!」と快諾してやってきてくれた。
ドキドキの入店、そしてルームツアー
「開始時間ちょうどにエレベーターに乗って、X階まで直接上がってきてください」「フロントに人はいません」
事前に参加者にお送りしたメールに記載した留意事項。
これまで数々こなしたイベントだと、会場までの導線を明確にした上で、目につく場所に貼り紙を行い、会場に矢印を向けたり、さらには人を配置するなど、迷わないように案内を行う。営業中のラブホテルではそれができない。他の利用客が気になって入りづらくなってしまう。利用客と鉢合わせしないように、会場として設定したフロアは、売り止めを行うのだが、売り止めもまた難しい。なぜなら、ラブホテルは時間貸しなので、一度入ったら何時に出てくるかが読めないからだ。
エレベーターがチン、となり、集合のフロアに止まると、参加者が続々と集まり、企画側も参加者もホッとした。
Germanの前田さんが作品解説を即興で行ってくれたおかげもあって、確かにラブなホテルだからこその作品の解像度が高まり、面白がってくださっているようだった。
一度やめると二度と新設できない、真のラブホテル。
そもそもラブホテルとはなんなのか。ラブホテルは4号営業と言われ、警察の管轄の中営業していて、宿帳に名前を記載しなくていい、部屋の中で支払いができるなどの特徴がある。4号営業は今後新設はできないので、一度外すともう戻ることはできないそうだ。(ラブホテル的な宿はあるが、旅館業法の中で営んでいるなんちゃってラブホテルだという)
今も満床で経営には困っていない中、なぜ観光ホテル化するのか。荒木さんはラブホテルのデザインを25年やり続けていて、「ラブホテルが嫌になった」というのが起点だという。
ラブホテルが衰退産業である理由は、荒木さんや金城さん曰く、地域密着(近所すぎないがそこそこ近いエリアにある場所を使う)な商売であること、利用する年齢層が限られている(性欲的な側面)、新しいことに価値がある(老舗のホテルはポジティブだが、ラブホテルはピカピカな方がポジティブ)などが挙げられる。
荒木さんは、そんな考えから、ラブホテルのオーナーに、観光ホテル化することを勧め続けているが、10年くらい失敗し続けていたと。経営の変革をするには、オーナーの年齢や経済的体力が必要、建物的に適しているかなど条件が合う必要がある。エスパシオは敷地が広く、RCで立派な建物と条件が合う。一昨年リニューアルのデザインを依頼されたことをきっかけに、金城さんの説得を開始したが、電話の説得では埒があかないので、この夏、半ば押しかけてきに山口に移住してきたという。
パブリックとプライベート、ではなく、オープンとシークレットの関係性
会場からも質問や感想が活発に飛び交った。
例えば、地域に開くきっかけとしてレストランは開き、客室はそのまま閉じた世界としておくことはできないのかという投げかけ。
「15年前からハイブリット案は考えたけど、失敗し続けているんです」と荒木さん。「パブリックなレストラン」と「プライベートな客室」として別れているからできると思っていたけど、ラブホテルは「プライベート」ではなく、「シークレット」なんだと。秘密の関係、匿名の場所。そこに、オープンなレストランが共存するのは不可能だと。
ラブなホテルだったことを言うのか、言わないのか
私の関心どころでもあり、会場からもあった問い。ラブなホテルだったことは、生まれ変わるホテルの文脈には組み込まれるのか、否か。荒木さんの答えは「迷っている」。ナラティブが作れたらいいけれど、見つからないのだという。
言うきっかけとして、新しいホテルの名前を「OVEL」と考えている。「LOVE」の「L」が後ろに移動して「OVEL」。ネーミングの説明の際に組み込まれるようにはなっている。
今回のトークが、「ラブなホテルの開きかた」なので、もう何もかも決まっていて方法論が話させるのかと思っていた参加者も少なからずいたようだ。だけど、荒木さん、金城さんのヴェールの下の攻防みたいなものも、見せながらの進行だったので、「意見割れているところが聞けて面白かった。音声メディアに細かく共有していくとか、それもナラティブ考える上でいいんじゃない。過程をみたい。」などの声もあった。
「いつの間にか当事者になっていた」
「ラブなホテルは開くのか開かないのか、いい意味でモヤモヤ考え続けていて、いつの間にか当事者になっていた」という感想もあった。関係者を増やしたい、広い意味で荒木さんの仲間を増やしたいのが目的だったので、嬉しかった。
近くに住んでいる方も数名来られていた。昔、エスパシオができる時の説明会に来たことがあって、今がどんな営業状態で、今後どうなっていくのか気になって来てくださった。OVELになって、素敵なバーなどできたら、立ち寄りたいって感想を述べてくださったのを聞いて、私の胸はぐうっと熱く揺さぶられるのを感じた。そう、こういうの、場所を作っていくって、こういう関係性の小さな変化が積み重なっていくんだけど、その一歩目って、どうしようもないくらい嬉しい。私が観光ホテル化計画の中の人ではないけれども、そのきっかけとなる機会を作れてめちゃくちゃ良かったなと。小さいけれど大きな一歩。
イベント前に、塩満くんのいるrucoに荒木さんが遊びに行って、その時にこのことを聞いてトークに足を運んでくれた人もいた。塩満くんが、「荒木さんのことを知って、好きになって興味を持つ人が増えてきている」と言っていたのもグッときた。
色々語りたいが、力尽きたのでここまで。
いい会が開けた。また、次回。