宮原健斗の36分59秒〜日本武道館to後楽園ホール〜三冠戦2days
スーパースターが人から求められること。それは一体何か?「輝き」「華」「存在感」。様々なものがあるでしょう。その中の一つは「安心感」にあると私は思います。「この人は絶対に私を楽しませてくれる」「この人のパフォーマンスは私を裏切らない」「何があってもこの人がいれば大丈夫」。私が宮原健斗に感じるところはまさにそこです。
50年の歴史がある全日本プロレスにおいて。フラッグシップタイトルである三冠戦が2日連続で行われる。それはかなりレアな状態です(もしかすると史上初?)。至宝を懸けたシングルマッチ2連戦を戦い抜いたのは宮原健斗でした。
1戦目は9.18日本武道館での諏訪魔戦。新コスチュームで堂々たる入場した宮原を正面から叩き潰したのは王者諏訪魔でした。直近ではヒールとして活躍する諏訪魔ですがこの試合では悪のファイトではなく。圧倒的な強さを持って宮原を潰しにかかりました。圧巻だったのはラリアットからのバックドロップ3連発。鋭い角度で放つ諏訪魔のバックドロップはこの10年全日本を守った武器でした。前哨戦と同様4発目を狙う諏訪魔。それは喰らわぬと切り返す宮原。宮原は追撃する諏訪魔をブラックアウトで迎撃しシャットダウンスープレックスを放ちます。
しかし諏訪魔は必殺の一撃を耐え抜き奥の手である重爆ドロップキックからのバックドロップ。これで勝負有りかとおもいきや宮原はカウント3を許さない。ならばとさらにバックドロップを狙う諏訪魔。それを切り替えして流れを掴んだのは宮原らしい高さのあるブラックアウトでした。これを被弾しても倒れない諏訪魔。彼を断つにはやはりと。宮原が諏訪魔を発射台に載せます。頂上に登らぬように耐える諏訪魔。しかし最後は宮原が武道館の日の丸の下で美しい橋を描きました。メモリアル大会で見事三冠を奪還したのは宮原でした。
至宝奪還の喜びに浸る時間もなく。日本武道館のリング上に現れたのはこの日ジェイク・リーを秒殺した野村直矢でした。将来を嘱望されながら全日本を一度は出奔し。今は外敵として全日本を制圧しようとする野村。翌日の後楽園ホールで宮原に挑戦したのは彼でした。
2連戦2戦目の決戦の場は前日の興奮冷めやらぬ後楽園ホール。この日の試合も前日に勝るとも劣らない死闘でした。19年の三冠戦で宮原に跳ね返された野村。これまでの大器野村ではなく。外に出たことで得た武器を用いて。3年前の差を埋めようと戦い抜きました。フロッグスプラッシュ。エルボーによる激しい打撃戦。レフェリーを使ったインサイドワークからのナックル。ジェイクを仕留めたスピアーからのジャックナイフ。そして必殺のマキシマム。出せなかったのは新技のインフィニティだけか。野村は持てる力を全て出しきりました。
しかし野村の3年分の思いや攻撃を全て受けきり。そして耐え抜いたのは宮原でした。試合終盤。野村の張り手をかいくぐり。わずかにできた一瞬スキで宮原は野村の背後をとります。両腕をクラッチしようとする宮原。それを阻止せんととする野村。軍配は宮原に上がりました。前夜と場所は異なれど。同じように美しい放物線を描き。宮原が三冠の初防衛に成功しました。
試合後は超人的なスタミナを持つ宮原がリングで大の字になったまましばらく立ち上がれませんでした。いかに宮原といえども三冠戦2daysはそれだけ過酷だったのでしょう。そして最後に野村と無言で交わしたグータッチが意味することは?野村の何かの区切りか?それとも新しい何かが生まれるのか?
1戦目の日本武道館で試合を終えた宮原はこんなことを語っています。
「過去があって今がある」「触れちゃいけない過去なんて無い」。戦前も宮原は「全日本プロレスの過去も未来も現在も全て俺が背負う」「G馬場さん、J鶴田さん、四天王、武藤全日本、秋山全日本」「全部俺が背負ってやる」と語っていました。ことプロレスというジャンルにおいて。レジェンドレスラーの名を出しそれを背負うと発すること。それはオールドファンから厳しい視線を浴びることもあります。「お前が〇〇を語るな」といったものですね。なので「俺が〇〇(団体)を背負う」とは言っても「俺が▲▲(選手)を背負う」という言葉はあまり出てきません。しかし宮原は敢えてそこに足を踏み入れました。
その宮原の発言を否定的に捉えたファンはおそらく極めて少数だったでしょう。宮原の放つ圧倒的な己への自信と覚悟。そこには悲壮感はなく。「宮原が言うなら大丈夫だよね」。そんな安心感があるからこそ。ファンは彼の発言に正当性を感じたのでしょう。
日本武道館と後楽園ホール2連戦。合計36分59秒。宮原が刻んだこの2試合は全日本プロレスの新たな門出を祝福するものだった。間違いなくそう捉えることができるはずです。51年目を迎える全日本プロレスと宮原からますます目が離せなくなりました。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?