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映画本読買日記 2018年1月・2月

1月X日
 吉祥寺パルコ地下の新春古書市で『小津安二郎戦後語録集成』(フィルムアート社)が安くなっていたので購う。小津の研究で知られる田中眞澄氏が手がけた名著。若い頃から国会図書館で新聞・雑誌を閲覧し続け、映画に関連する記事を広告の裏に改行位置も含めてそのまま書き写したという。それが『小津安二郎全発言〈1933~1945〉』(泰流社)と本書へ結実した。市川崑や大島渚でこんな本を作ってみたいが、戦後の監督ですら全発言を追うとなると気が遠くなる。 
 井の頭線で渋谷へ出て、シネマヴェーラの最終回でヒッチコックの『ロープ』。劇場で観るのは初。帰宅後、同じ事件をモデルにしたリチャード・フライシャーの『強迫/ロープ殺人事件』をブルーレイで観る。

1月X日
 妻と西荻窪のスプーンでフレンチカレーを食べた帰りに音羽館へ寄って『おめでたい女』(鈴木マキコ 著、小学館)を買い、早速読む。映画プロデューサーで監督でもあった無頼派な元夫との、もはや笑うしかない壮絶な日々を描いた私小説。その元夫が荒戸源次郎と知ると俄然興味が湧く。

1月X日
 早稲田大学で無声映画研究会。今年は伊藤大輔監督の『忠次旅日記』が弁士付き上映されるとあって(無料上映のせいもあるだろうが)、昨年より混んでる。客席に周防正行監督の姿あり。今度撮る新作がサイレント映画時代の映画に魅せられた人々の青春映画らしいのでリサーチなのだろう。
 帰ると、『石上三登志スクラップブック 日本映画ミステリ劇場』(原書房)が企画編集した原正弘氏から送られて来ている。買うつもりで予約していたので恐縮するが、これは保存用と机の横に置いて常時手にする用に2冊必要な本だと軽く目を通しただけで確信。予定通りもう一冊買うことにして読み進め、同時代の映画に伴走してきた石上さんでないと書けないミステリー映画クロニクルに圧倒される。戦後間もない時期に量産された片岡千恵蔵の金田一シリーズを始めとする探偵映画に意義を見出し、かと言って過剰に褒め称えるのではなく、根本的な問題点の指摘も怠らないバランスの取れた視点が素晴らしい。今年の映画本暫定ベストワン。

1月X日
 新文芸坐の夜の回で『不良姐御伝 猪の鹿お蝶』『0課の女 赤い手錠』の2本立て。いくら好きな作品でも、名画座で数回観てDVDになった作品は自分の中では〈上がり〉となり、劇場では観なくなるのが慣例だったが、今年からは『名画座手帳2018』(往来座編集室)に片っ端から気になる上映を書いておき、時間が余れば劇場に飛び込むように態度を改めた。というわけで、久々に劇場で、それも最前列で見上げた池玲子と杉本美樹の美しさに、フィルムで観られるうちにできるだけ映画館に行っておこうと改めて思う。

2月X日
 原宿のBEAMSの前を通ったので、何の気なしに入ったら、階上で川勝正幸さんの追悼展示をやっていた。亡くなってちょうど6年。仕事場が再現され、棚にはポップ中毒者に相応しい所蔵本が並んでいるので見ているだけで楽しい。放出本コーナーもあり、五百円均一で売っている。流石の品揃えで、古書価格では倍以上するものも多い。『ゼロ年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)と、石上三登志さんの著書『地球のための紳士録』(奇想天外社)、『マイ・ビデオ・パラダイス―「東品川アメリカ座」便り』(キネマ旬報社)ほかを購入。
 ちょうど『石上三登志スクラップブック 日本映画ミステリ劇場』の書評を頼まれていたので、自宅にある他の石上本を出してきて読み返していたら、この2冊が無いことに気づき、古書店で安く見つけねばと思っていたところだった。川勝さんが遺した本に助けられた。
 去年出た町山智浩さんの『ブレードランナーの未来世紀』(新潮文庫)の文庫解説で、石上さんの影響を書いたことを思い出しながら帰ると、ちょうど町山さんの新刊『「最前線の映画」を読む』(インターナショナル新書)が送られて来ていた。半分はパンフレットやDVDのブックレットが初出で、もう半分が書き下ろし。『ブレードランナー2049』をはじめ、気になる映画から読み始めると、あっという間に全部読んでしまう。こういう最前線の映画評論が新書で気軽に読めることに最も意義を感じる。

2月X日
 六本木の20世紀フォックス試写室へ。40分前に会場へ到着しても満席。宣伝の人から、1時間前に来ても入れるかどうかと言われたので、池袋へ出て「三省堂書店池袋本店古本まつり」へ。
 とりあえず200〜500円で買える『映像ジャーナリズムⅠ・Ⅱ』(岡本博 著、現代書館)と、『映画評論』『映画批評』『ヒッチコック・マガジン』のバックナンバーを11冊。これくらいで勘弁してやろうと帰ろうとすると、『遺されしもの 大正期の衣笠貞之助資料』(中谷正尚 著、NHK放送文化研究所)を見つける。
 かつて衣笠の遺品が古書の世界に出回るも、一千万円というベラボウな価格になかなか買い手がつかなかったが、さる古書界の大物が購入してNHKに寄贈。その中身を調べて、とりあえず大正期だけで一冊にまとめたのが本書。もっとも非売品かつ300部しか印刷されなかったので、この本自体を目にしたのも初。ちょっと高いので躊躇するが、商品券が財布に入れっぱなしになっていたのを思い出し、使えるか尋ねると、デパート系の古書市なのが幸いして使用可とのこと。無事入手が叶う。

フリーペーパー『映画秘宝セレクション MOVIE TREASURE SELECTION Vol.5』(2018年発行)掲載の「映画本 読み買い日記vol.5」に加筆修正

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