映画本読買日記 2017年7月・8月・9月
7月X日
『特撮秘宝』の小沢さんから相談を受けていた『市川崑「悪魔の手毬唄」完全資料集成』の打ち合わせに洋泉社へ行く。
未公開の膨大なスチールを見せられて驚く。これをメインにした本になるらしい。基礎資料となる劇場パンフレット、プレスシート、公開時に関連記事が載った映画雑誌、新聞記事、『完本 市川崑の映画たち』(市川崑・森遊机 著、洋泉社)の森さんが学生時代に作ったパンフレット『崑』、美術監督によるセットの図面と解説が載る『村木忍の作品』(南斗書房)、編集の長田千鶴子さんが同作について語る『編集者 自身を語る VOL.1』(日本映画編集協会)などを持参する。
数年前に入手しておいた『悪魔の手毬唄』準備稿シナリオを見せると、準備稿から決定稿への変遷の頁を作れそうだという。
帰りに寄った神保町で、1977〜1981年にかけて発行されたポルノ映画雑誌『ZOOM-UP』(セルフ出版)を、目につくままにまとめて購う。帰って眺めていると、何と美術監督・村木忍の特集を見つける。『悪魔の手毬唄』の美術についても語っているので参考にできそうだ。
7月X日
鈴木義昭さんから、『エロ本水滸伝 極私的メディア懐古録 巨乳とは思い出ならずや』(池田俊秀 著・鈴木義昭 責任編集、人間社文庫)を戴く。
先日買った『ZOOM-UP』の編集長だった池田氏の懐古録をまとめたもの。80年代の雑誌文化、ロマンポルノ、ピンク映画の熱気が活き活きと描かれていて、ひたすら面白い。当時のこうした雑誌と映画人、書き手がどのような関係にあったかを読みたいと思っていただけに、待望の一冊というべきか。松田政男、鈴木義昭、梅林敏彦といった書き手たちの強烈な個性と情熱にも圧倒される。リアルタイムで接することができなかった者は、こうした本から吸収してバックナンバーを探し当てていくしかない。今年の映画本の一二を争う面白さ。
7月X日
映画プロデューサーの谷島正之さんから突然、『サタデイ・ナイト・ムービー』(都築道夫 著、奇想天外社)が送られてくる。39年前の本である。中に入っていた手紙を読むと、拙著『映画評論・入門!』(洋泉社)を書店で買ってくださったそうで、感想が記されている。それで自分の好きな映画本かつ、あなたが持ってなさそうな本をあげるということで送ってくださったのだ。
映画の古本はけっこう買っている方だが、都築道夫のこの本は持っていなかったが、そんな話を谷島さんにしたことはない。以前、対談の構成を担当した時に、谷島さんは宣伝マン時代、相手と喋りながら何が好きそうかを見抜いて映画の売りを伝えると話していたが、こういうことかと納得する。
8月X日
三鷹の古本屋、水中書店で『「新しき土」の真実——戦前日本の映画輸出と狂乱の時代』(瀬川裕司 著、平凡社)を購入。高価いので後回しにしていたが半額で買えた。
吉祥寺のジュンク堂書店に回り、『シネマの大義 廣瀬純映画論集』(廣瀬純 著、フィルムアート社)と、『人間から遠く離れて――ザック・スナイダーと21世紀映画の旅』(佐々木友輔・noirse 著、トポフィル)を購入。
帰宅すると、『菊地成孔の欧米休憩タイム』(菊地成孔 著、blueprint)が送られてきている。映画評論の新刊が一挙に手元に揃い壮観。さて、どれから読むべきか。
8月X日
町山智浩さんの映画評論を読み返す必要があり、ここ数日読み続けている。1990年に出た『映画宝島 発進準備イチかバチか!号』(JICC出版)は町山さんにとっての映画批評とは何かを表出した原点的な一冊だと改めて思う。近所の書店で『高橋ヨシキのシネマストリップ』(高橋ヨシキ 著、スモール出版)購入。
8月X日
吉祥寺のバサラブックスで『創作 1973年10月—1975年7月』を購入。秘かに話題を呼ぶ日記本。著者は不明。高円寺でレコード販売などを行う円盤の田口史人氏が古物として見つけた40年以上前の日記を書籍化したもの。端正な文章といい、まるで発見されて出版されるのを待っていたかのようだ。
70年代の若者の日々の思索が綴られているが、文学への憧憬からオカルトへの興味へと移り変わり、精神世界へ傾倒していく。途中で何度かUFO絡みの記述が出て来る。『空飛ぶ円盤と宇宙人』(黒沼健 著/高文社)を読んだり、日記の終盤でも月刊誌『UFOと宇宙』を買って、地元でも目撃情報があるので自分ももう一度見たいと書いている。後で調べると、1975年6月発売の『UFOと宇宙 NO.12』(ユニバース出版社)のことらしいが、その号は甲府事件を筆頭に国内のUFO接近遭遇事件が特集されている。
田口氏には『二〇一二』(田口史人 著、リクロ舎)という日記本を自分でも出しているので、この日記を発見した時に感じるものがあったのだろう。それにしても予想以上の面白さで、なかなか手に入らなかったのも当然か。バサラで店員に訊ねると見本誌だけが残っているというので、それを売ってくれないか交渉して入手。少し値引きしてくれた。
9月X日
なんだか妙に映画関連本が次々に出るので、買うのも読むのも間に合わない。
新宿紀伊國屋書店で、とりあえず『世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌』(文學界編集部 編、文藝春秋)、『文藝別冊 是枝裕和』(河出書房新社)、『ユリイカ 2017年10月臨時増刊号 総特集=蓮實重彥』(青土社)を購入。
ちょうど読み始めた『人間から遠く離れて――ザック・スナイダーと21世紀映画の旅』冒頭の「現在の映画のポテンシャルを探り出すための道標として、ザック・スナイダーという名前を取り上げているに過ぎない。」というくだりと対になるような「マイケル・ベイを心から愛する人が本当に優れたマイケル・ベイ論を書いてくれることを、わたくしは待望しているのです」と『ユリイカ』の蓮實インタビュー。
自分にとっては伊丹十三が、愛するけれども無条件に評価しているわけではない、存在自体に興味を持つ監督だなと思うが、現役監督では誰だろうか。