映画本読買日記 2017年1月・2月
1月X日
109シネマズ大阪エキスポシティで『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』を観た後、MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店へ。東京と関西近辺のジュンク堂しか利用したことないが、ここが最も落ち着く。広さ、在庫数、混みすぎない店内といい申し分ない。
今年最初の映画本なので(厳密には映画本ではないが)、買い逃していた『上原正三シナリオ選集』(現代書館)を購入。特撮作品を中心に50本が収録されているだけあって辞書の様な分厚さ。5千円を超えるが特撮関係は油断すると入手できなくなる。20数年前に出た『故郷は地球―佐々木守 子ども番組シナリオ集』(三一書房)も、定価が1万なのでどうせ安くなると思っていたら古書価が2倍近くまで跳ね上がり、手頃な古本を見つけ出すまで苦労した。
帰りの電車で『上原正三シナリオ選集』の『帰ってきたウルトラマン』から「(5話)二大怪獣 東京を襲撃!」「(6話)決戦! 怪獣対マット」を読む。『シン・ゴジラ』の元ネタと言われているエピソードだ。
1月X日
年末に注文していた『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』(グラウンドワークス)が届く。2キロを超える凶器の様な狂気の大冊をめくり始めると止まらなくなる。映画製作の内幕本としては、『「マルサの女」日記』(伊丹十三 著、文藝春秋)以来の面白さ。7万字に及ぶ庵野監督インタビューに「(『シン・ゴジラ』の)展開が『帰ってきたウルトラマン』第5話と第6話に似ているという事もシンちゃん(樋口真嗣)から『これは上正さん(脚本を手掛けた上原正三)リスペクトですね!』と言われて初めて気が付きました。」とある。
1月X日
神保町の東京堂書店で『映画監督 小林正樹』(笠原清・梶山弘子 編、岩波書店)と『ゴジラ×3式機龍(メカゴジラ)コンプリーション』(ホビージャパン)を購入。『映画監督 小林正樹』は没後20年の出版だけに不足が目立つかと思いきや、生前の37時間に及ぶインタビューを軸に関係者の証言から未映画化企画まで凝縮された圧倒的な一冊。小林が降板してから深作欣二、佐藤純彌へと交代していった大作『敦煌』の小林版シナリオの収録も快挙。
1月X日
4月にDVDが発売になる大和屋竺監督『裏切りの季節』『毛の生えた拳銃』の解説文のために国会図書館で資料探し。『荒野のダッチワイフ―大和屋竺ダイナマイト傑作選』(フィルムアート社)、『悪魔に委ねよ―大和屋竺映画論集』(ワイズ出版)が出ているし、この2冊に入り切らなかったものは同人誌『ジライヤ別冊 大和屋竺』に入っているが、コアなファンも買うDVDなので新ネタを探す。
『毛の生えた拳銃』が1968年3月28日〜4月4日にかけて撮影されたことは直ぐに割り出せたので、その前後の週刊誌、スポーツ新聞などをチェックする。
帰りがけに別冊映画秘宝編集長の田野辺さんから電話。ロバート・ワイズについて書けとのこと。好きな監督なので引き受けるが、まとまった本は日本では『世界の映画作家15 デヴィッド・リーン/ロバート・ワイズ』(キネマ旬報社)しか出ていない。手元になかったはずなので、神保町へ出て探すが、@ワンダーにはなく、2軒目のヴィンテージで発見。
目的は達したので後は古本蒐集。矢口書店で『闇の中の安息―篠田正浩評論集』(フィルムアート社)、澤口書店で『日本の選択4プロパガンダ映画のたどった道』(NHK取材班 編、角川文庫)を。
1月X日
西荻窪の古書店、音羽館が営業再開したと聞いて出かける。『その場所に映画ありて プロデューサー金子正且の仕事』(ワイズ出版)と『映画監督吉村公三郎 書く、語る』(ワイズ出版)を購入。
2月✕日
西武池袋本店の古本まつりへ。『橋の思想を爆破せよ―小川徹映画論集 食と性からの発想』(芳賀書店)、『VARIETY セミプロの趣味の手帳』(南部圭之助 著、東京ブック)、『アントニオーニの誘惑』(石原郁子 著、筑摩書房)を買って、向かいの池袋ジュンク堂書店で『仁義なき戦いの“真実"~美能幸三 遺した言葉』(鈴木義昭 著、サイゾー)を。
目白方面に歩き古書往来座で『現代詩手帖 1981年2月号』(思潮社)を購入。特集は「日本映画のニューウェイブ」。
2月X日
ブックファースト銀座コア店で『日本ヘラルド映画の仕事 伝説の宣伝術と宣材デザイン』(谷川建司 著、パイ インターナショナル)。〈宣伝のヘラルド〉の異名を持った映画会社の半世紀にわたる歴史をポスターで俯瞰。スプラッターもポルノも『地獄の黙示録』も全部載せているだけに眺めていて飽きない。
関連書として日本ヘラルド特別顧問・原正人による『映画プロデューサーが語るヒットの哲学』(日経BP社 )があるが、ビジネス書の形体を取っているので有名作に偏りがち。
原正人からマニアックな話を引き出したものなら、『季刊リュミエール(3)』(筑摩書房)で蓮實重彦と山田宏一が聞き手を務めたものがいい。原も忘れているようなヘラルド配給の映画を次々繰り出して記憶を刺激し、「そうだそうだ、だんだん思い出した」と、語られてこなかった裏話を引き出している。これを副読本として読めば『日本ヘラルド映画の仕事』は更に面白くなる。
2月X日
近所の書店まで出かようとして、ふとポストを覗くとまさに今、買いに行こうとしていた『無冠の男 松方弘樹伝』(松方弘樹・伊藤彰彦 著、講談社)が入っていた。献本に感謝。思わずその場で立ったまま読み始めてしまったのは伊藤氏の前著『映画の奈落 北陸代理戦争事件』(国書刊行会)のあまりの面白さに、改訂版も『映画の奈落 完結編 北陸代理戦争事件』 (講談社+α文庫)も買って読み直したぐらいなので、本書もつまらないはずがないという予感からだ。
相手に気持ちよく喋らせるだけではなく、インタビュー中に質問箇所に該当する場面をDVDで見せながら尋ねることで記憶を呼び起こし、この場でしか出てこない松方の生の声が聴こえてくる。
個々の作品が松方の俳優人生にどんな意味を持っていたかを脚本、当時の批評を駆使して立体的に構成する手腕も見事。後年のVシネマ時代にも一章割いてあるのがいい。Vシネマに次々と主演した頃の松方は何度目かの黄金期を迎えていたのだ。