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映画秘宝2024年 ベストテン&トホホテン

『映画秘宝 2025年3月号』に掲載された私のベストテン&トホホ3ならびにベスト俳優、ベストシーンの選出作品と選出理由は下記の通りです。

【BEST】

  1. 夜の外側 イタリアを震撼させた55日間

  2. オッペンハイマー

  3. 夜明けのすべて

  4. Chime

  5. 化け猫あんずちゃん

  6. HAPPY END

  7. 新世紀ロマンティクス

  8. 女子大生失踪事件 熟れた匂い

  9. Cloud クラウド

  10. ルックバック

 欲求のおもむくままに動き出す映画たちを選んだ。それがテロであり、原爆開発であり、殺人であり、地獄から死んだ母親を救い出すことでもある。他人の迷惑を顧みず、猪突猛進する姿を眺めることが映画的快楽の原点であることを実感させた。『夜よ、こんにちは』で語られたテーマを同じ作家が語り直すとき、事件に関わるすべての階層の人々を分け隔てなく描くことを選択した①は、それゆえに340分の長尺となったが、複眼の視点を可能にしたのは劇場公開と配信を前提とした映画作りだった。対立的に語られてきた映画と配信が本作を生み、それをマルコ・ベロッキオという60年にわたるキャリアを持つ監督が撮ったことも含めて刺激的だった。一方、DCP、 IMAX、そして35mm上映も行われた②は、映画が富裕層の娯楽と言われる今(実際、フィルムで『オッペンハイマー』を観るだけで5千円近くかかった)、われわれはなぜ映画館にいるのかを問いかけてくる映画体験だった。

【BEST ACTOR】 トム・コンティ

 『オッペンハイマー』でアインシュタインを演じたトム・コンティは、ラストシーンを見ても明らかなように『戦場のメリークリスマス』のロレンス役を踏まえたキャスティング。主人公のアップで終わり、その傍で彼を見つめる姿に感動。

【BEST ACTRESS】 河合優実

 『なんてったってアイドル』を歌う河合優実も良いのだが(限定CDも入手した)、『ナミビアの砂漠』で神代辰巳の映画に出てきそうな躍動を見せる姿が圧倒的。加害と被害を併せ持つ存在感が素晴らしく、『ルックバック』『敵』での多面的な演技も忘れがたい。

【BEST SCENE】  『Chime』で小日向星一が自分の首を包丁で刺すシーン

 父譲りの声で料理教室の隅で異物感を醸し出す小日向星一が、不意に自らの首へ包丁の刃先を押し込んだとき、声が出た。血が噴出することもなく、滑らかに画面の下部へと倒れてフレームアウトしたときのゾッとする感覚。映画に驚き、恐怖することの愉楽が凝縮された瞬間だった。なお、撮影に使用された料理学校の建物は中野にあるが、偶然横を通ったとき、1階の扉の奥が不穏な光で明滅しており、ここで撮影されたことは必然だったのだと思い知る。

【トホホ】

  1. あんのこと

  2. ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ

  3. シビル・ウォー アメリカ最後の日

 ①  現実の事件を基に貧困や絶望的な現実を描くのは良いとしても、フィクションへ昇華する手立てが歪で、佐藤二朗の演技や振る舞いなどは冗談としか思えず。悲惨な境遇の娘がいましただけでは映画にする意味がない。愚直に娯楽映画を模索してきた入江悠はどこへ行ったのか。こういう映画で賞を取ったり、レトロスペクティブが組まれると映画監督は堕落していく。
 ②  前作が妙に受けすぎたことを作り手がビビって、道徳的というか現実的な路線にして続編を作ったところで面白くなるわけもなく。こんなものを観るために映画館に行ってるわけじゃない。
 ③A24のいつもの予算と限られた状況設定でこのテーマを描くべきだったのでは?


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