映画本読買日記 2017年12月
12月X日
アップリンクで小林勇貴監督『へドローバ』を観る。まさか年の瀬も迫って、こんな傑作を目にするとは。ケータイで撮った軽い映画だろうと思って油断して観に来たら、風呂場での全裸アクションを筆頭に圧倒的な場面が続く。
帰宅後、各映画雑誌のベストテン投票紙の順位を慌てて書き換える。興奮冷めやらぬまま、『実録・不良映画術』(小林勇貴 著/洋泉社)を読む。『若松孝二・俺は手を汚す』(ダゲレオ出版)、『あの娘をペットにしたくって』(井筒和幸 著/双葉社)と並ぶヤンチャかつ誠実な映画青春記。
12月X日
阿佐ヶ谷の劇団展望アトリエで「現代映像研究会」上映会。梅沢薫監督×大和屋竺の脚本による『濡れ牡丹 五悪人暴行編』『引き裂かれたブルーフィルム』のピンク・ノワール2本立て。共にDVD化されていない隠れた傑作だけあって場内満席。10年ぶりの再見だったが、いっそう熟成したかのような味わいを堪能する。
帰ると注文していた古本『季刊 映画王』の揃いが届いている。高橋洋、塩田明彦らが編集に携わった映画雑誌である。これまで大和屋竺のインタビュー掲載号などはバラで持っていたが、全号を揃えていなかったので重複を覚悟で買う。持っていなかった2号目の「特集 燃えよキン・フー!起てクンフー!」から読み始める。
12月X日
銀座に移転した『キネマ旬報』編集部で高橋洋監督に取材。新作『霊的ボリシェヴィキ』について。公開に合わせてシナリオ集が出るそうで、『女優霊』『インフェルノ蹂躙』『蛇の道』『ソドムの市』『狂気の海』『恐怖』が収録されるという。良い書名はないかと問われるが、高橋さんが編集に携わった『大和屋竺ダイナマイト傑作選「荒野のダッチワイフ」』(ワイズ出版)に匹敵するインパクトが必要と主張するも、良い案が浮かばず。高橋監督が『恐怖』の準備中に、プロデューサーからは『ザ・ホラー』という身も蓋もない題名を提案された話を思い出し、ここで使ってみてはどうかと冗談めかして言う(後に『地獄は実在する 高橋洋恐怖劇傑作選』の書名で幻戯書房から発売された)。
12月X日
年内の仕事が終わったので、妻とシネマヴェーラ渋谷でアルフレッド・ヒッチコック監督『バルカン超特急』と、キャロル・リード監督『ミュンヘンへの夜行列車』。DVDで繰り返し観ているが、いつか劇場で観たかった2本立てである。昼間の回は満席で入れず、時間を潰して夕方の回に再挑戦して席を確保。至福の2本立て。ケネス・ブラナー版『オリエント急行殺人事件』に不満だった妻は、初めて観た『バルカン超特急』のあまりの面白さに驚いたと言う。ヒッチの映画を観終わると、中学生の頃から必ず読み返すのが『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』(フランソワ・トリュフォー アルフレッド・ヒッチコック 著 山田宏一 蓮實重彦 訳/晶文社)と『ヒッチコックを読む―やっぱりサスペンスの神様!』(フィルムアート社)。