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諏訪敦展、眼窩裏の火事 に見る命の重なり。

週末は美術館三昧。

ごきげんよう、もくれんです。

府中市美術館は心理的距離があり中々足を伸ばさないのですが(駅から遠いところも含めて、めんどくささが勝つ)諏訪敦展は絶対行きたかったので行ってきました。なお私にとって同じく心理的距離が遠いのは千葉市美術館で総武線に乗る気合いが無いと行けないのだが、千葉市美術館はぼちぼち広いのでまだ気合いを入れれば行けなくはない。府中市美術館は常設も公園も混み混みで良いところだと思う。広さは千葉市美術館より小さい気がする。

さて、諏訪敦とは誰?から始めたいのですが、現代画家で武蔵美の教授先生でもあります。

私が諏訪敦作品と出会ったのは数年前の佐賀県立美術館で開催された、ホキ美術館展でした。写実絵画を一堂に集めた展覧会で、所謂スーパーリアリスティックと言うものを初めて見たのはあの時でした。写真みたいに見える絵画ばかりで当時は「なら写真撮るじゃダメなんかな」と野暮な感想をおぼえました。そこで諏訪敦の作品に出会いました。
諏訪敦のお父さんの死に顔を描いた作品でした。人が死んだ顔を久しく見ていなかった当時の私にとって心に残りました。死んだ人の顔って白いんです。なんとなく無彩色になる、そんなところまですごくリアルでした。そして死に顔は中々本物を見る機会がないので、他人の死に顔をこうやって超絶技巧の写実の作品で見るという体験自体もとても新しかったです。

眼窩裏の火事展は、実はノーマークだったんですが漫画家のおかざきまり氏のtweetで知りました。

ほいで、調べてみたら、あーあの時佐賀で見た人だと思って行ってきました。ら、やっぱりすごく良かったです。今回、チフスで亡くなったお祖母様を主題にした「HARBIN 1945 WINTER」がきてるのですが、圧巻です。胸に迫る。こういう胸に迫る作品をつくる人と同じ時代を生きているって凄いことだなと思います。福田美蘭展でも同じような体験をしましたが、過去の巨匠ではなく現代を共に生きる人がつくる作品にはより身近にナニカを感じます。親近感とは言わないけれど言葉にできないナニカがあって、作品が津波のように胸に迫ってきます。「HARBIN 1945 WINTER」は松井冬子の「浄相の持続」を髣髴とさせました。と、ここまで書いて調べてたら松井冬子と諏訪敦は夫婦でした。すごーく納得。作品が似てるわけじゃないんだけど通奏低音が同じな感じするもの、お2人。完璧主義っぽい雰囲気とか、心の眼で人間の奥底にあるものをほじくり返して目を離せない作品に昇華させるところとか、に、似てる!!!どちらの作品も見る人によっては怖い絵かもしれないし、これから府中市美術館行く人にネタバレしたくないので画像は載せませんが、気になる方はよろしければ調べてみてください。

それから舞踏家の大野一雄を描いた作品も生命が迸ってました。踊らなくなって寝たきりの大野一雄の絵が、私の心を如意棒みたいなものでぐーーーっと押して息が詰まりました。私の祖父が去年亡くなったからかもしれないです。前回、諏訪敦と出会った時と違って、死の記憶がまだ新しい私だったからかもしれません。口を開いている大野一雄の口腔の暗黒。スケッチでも「口を開けるか閉じるか」というメモがありましたが、元気な時の大野一雄を描いた作品が口を真一文字に結んでいるところを見ると、口が開く(ゆるむ)ことで死がいっそう近く今まさにここに来ている臨場感がありました。安野モヨコの「さくらん」でも、主人公にイヂワルばかりしていた太客のジジイがそろそろ死ぬことを、ジジイの口腔の闇に主人公が感じていたました。ぽっかりと開いた口の中にどうやら死は潜んでいるらしいです。

そして今回ポスターにもなっている「Mimesis」は、私には千手観音や阿修羅のようなものを感じました。大野一雄をコピーするパフォーマー、川口隆夫がモデルだそうですが、どこまでが川口隆夫でどこからが大野一雄なのか、宿っているのは命であり想いであり記憶なんだなと取り留めなく感じました。死んでしまった大野一雄からナニカを受け取り、大野一雄をおろして舞っているようでもあり、紛れもなく川口隆夫でもある。そういう不可思議さが神に見える作品だと思いました。阿修羅の手も千手観音の手も1人の手ではなくさまざまな幾人もの手がおりてきているだけなのかもしれないと思いました。大野一雄について全く知らなかったため、帰っていくつか動画を見ましたが「命が重なっていくその先に我々がいる。人間はひとりひとりではない。」みたいな言葉があり、彼もまた命の重なりの風にのって、自分まだに重なってきた命をとばして舞っていたのだと思いました。

諏訪敦展の作品はわかりやすく生命力溢れる作品ではないけれど、今ここまでに費やしてきた命の重なりが一筆一筆に宿って、それを見る私たちの目を通してまた私たちの命と出会い魂を揺さぶります。

本当に素晴らしかった。ぜひ。
https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/tenrankai/kikakuten/2022_SUWA_Atsushi_exhibition.html

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