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蝦名泰洋『ニューヨークの唇』

蝦名泰洋さんの歌集『ニューヨークの唇』(書肆侃侃房)を拝読いたしました。
印象に残った歌を引きます。

月を追う途中の子どもにあいさつをさよならみたいな青いハローを

巻頭を飾る一首で、帯にも紹介されています。
この歌をX(旧Twitter)で見かけた時に、「この歌集をいつか読まねば…!」と思いました。
きっと子どもはこの世からいなくなろうとしているのだろうと思いました。
その子ともを引き止めるわけではなく、ただあいさつをする。
「さよならみたいな青いハロー」ってなんでしょうね。とても惹かれるフレーズです。
明るくて、みずみずしくて、でもすごく寂しい。
そんな印象を受ける一首でした。

抱きあげるするとわたしも何者かに抱きあげられていることを知る

実際に子供を抱きあげている景でもよいですが、誰かに何かをしてあげるとき、自分も同じように誰かに何かをしてもらっていることに気づくという読み方でもよいかなと思いました。
世界は支え合いながら、もたれ合いながら、均衡を保っている。
自分もそんな大きな括りの中のひとつだと、気づいた瞬間をとらえた一首だと思いました。

世界中のだれもがわすれているようなちいさなことをおぼえている子

泣きたくなるような歌だと思いました。
そんなにもひとりぼっちで生きていかないで欲しいと思いました。
人はわすれることで自分を保っていると思います。
言った事、やった事、あった事、全部覚えていたらパンクしてしまいます。
でもこの子はわすれないのです。
「わすれる」ということを知らないのかもしれません。
自分を壊してしまうような純粋さをこの歌からは感じました。

かたくなにほほえんでいる降りてきて泣いていいよと誰か言うまで

自分が頑張っていることに気づけなくなっている主体を想像しました。
無理をして頑張っている内に、自分の限界を突破してしまって、倒れ方すらわからなくなってしまったような。
張り詰めているのにほほえんでいる主体が痛々しいです。
もしかしたら主体は、一度泣いてしまったら、もう頑張れなくなってしまうと危惧しているのかもしれません。
でもあなたをそんなに無理させるようなところで、頑張らなくていいんだよと声をかけたくなります。
「誰か」の役目を読んでいるこちら側が担いたくなってしまいます。
歌に入り込んでしまう一首だと思いました。

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