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寺山修司『寺山修司全歌集』

寺山修司さんの『寺山修司全歌集』(講談社学術文庫)を読みました。
印象に残った歌を引きます。

夕焼の空に言葉を探すよりきみに帰らん工場沿いに

血と麦 映子を見つめる P229

夕焼けの空は美しく、その日によって表情が違って見飽きませんよね。
主体は「きみ」に伝えたいことがある気がして、夕焼けを前に立ち止まって考えようとしたのでしょう。
しかし上手く言葉にすることよりも、一刻も早く「きみ」の元に帰ることが自分のしたいことだと気づきます。
工場沿いに歩く主体を、夕焼けが優しく照らしている景が浮かびました。

勝ちて獲し少年の日の胡桃のごとく傷つきいしやわが青春は

血と麦 蜥蜴の時代 P236

最初は胡桃の中身の柔らかさを歌っているのだと思いました。
ですが、「勝ちて獲し」とありますので、少年時代に友人たちと胡桃を取り合った思い出があるのだと推測しました。
地面に落ちたり、他の胡桃とぶつかったりして、傷ついてしまった胡桃。
固い胡桃が傷つくほどに激しい青春だったと、主体は回想しているのではないでしょうか。

ある日われ蝙蝠傘を翼としビルより飛ばむかわが内脱けて

テーブルの上の荒野 飛ばない男 P299

傘を使って飛びたいという願望は、どうやら多くの人にあるようですね。
「蝙蝠傘」「ビル」という言葉に、現実感があって不穏に響きます。
「わが内脱けて」は、「自分は飛ぶことができない」というような固定観念から自由になることかなと思いました。
「抜ける」は「脱ける」とも書くことを、この歌で初めて知りました。
主体が内側から脱皮するイメージも喚起されて、面白いと思いました。

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