高木秀俊『背骨』
高木秀俊さんの『背骨』を拝読いたしました。
印象に残った歌を引きます。
以前に「はだいろ」と呼ばれていた色は、今は「うすだいだい」「ペールオレンジ」など別の色の名前がついているそうです。
理由は「人の肌の色へ固定観念を与える可能性がある」ためだそうです。
私も昔は「はだいろ」のクレヨンをなんの違和感もなく使っていました。
でも言われてみれば肌の色は人それぞれです。
その色ではなかった人の肌は何色なのかという疑問を持つのは当然ですね。
こうやってひとつひとつ丁寧に変更することで、誰かの心を守ることができるのなら、それでよいのではないかと私は思いました。
スマホ画面はすぐに汚れてしまいます。
汚れた画面のままでも使うことはできますが、どうしても曇って見えづらくなってしまいます。
主体はスマホ画面を拭いたことで、あまり好ましくないニュースなどもクリアに見えるようになってしまいました。
それは果たしてよいことなのかどうか。
なんでもクリアに見える必要はない、適度に距離を保って、時には情報を遮断することも必要。
そう言っている一首のような気がしました。
切ない一首ですね。
主体の母親は亡くなっています。
母親が使っていた携帯番号もとっくに解約済みでしょう。
もしかしたら別の人にすでに割り当てられているかもしれません。
それでも主体は母親の番号を消すことはできません。
その番号に何度も架けて、他愛のない話をした思い出もあるでしょう。
携帯番号自体に思い出が付加されていて、消すという動作をする気が起こらないのでしょう。
ただの数字の羅列が特別な数字になっていった年月を思ってしまう一首でした。