川野芽生『Lilith』
川野芽生さんの『Lilith』(書肆侃侃房)を拝読いたしました。
印象に残った歌を引きます。
自分ではコントロールできないような強烈な眠気が来る事ってありますよね。
それをだれかがオルゴールの蓋を閉じようとしていると表現しているところが好きです。
ゆっくりと閉じるオルゴール。
うつらうつらと落ちる主体の瞼。
眠りをさそうようにテンポが落ちていくオルゴールの曲。
眠気に抗えない主体。
うっとりしてしまう景だと思いました。
「ひとがひと恋はむ奇習」という言葉が価値観を揺るがせてきます。
当たり前とされているものは、何も考えずに飲み込んできただけの風習ではないのか。
意味はあるのか。意義はあるのか。ちゃんと自分で考えたのか。
奇習を廃したのは主体でしょうか。
「もうそれには参加しない」とひとり決意したように感じました。
昼、青々と茂る植物を濡らす雨がたえず降っています。
主体の孤独な闘いとは関係なく、雨は植物を成長させるように降り続けています。
私は本そのものが好きなので、「本」が読みこまれている歌が好きです。
なので、この歌にもとても惹かれました。
この本に出会うために生きてきたのだという衝撃を受けた出会いはあるでしょうか。
幸運にも私はありました。
題名は伏せさせて頂きますが、明治時代の作家が書いた随筆でした。
だからこの歌がとてもしっくりきました。
装丁というよりも、内容が「うつくしい本」なのだと思います。
主体は、私は「あなたの本に逢ふために来た」と語り掛けます。
この本を生み出してくれてありがとう。
私はこれでまた生き延びることができる。
そんな声が聞こえてくるような気がしました。