服部真里子『遠くの敵や硝子を』
服部真里子さんの『遠くの敵や硝子を』(書肆侃侃房)を読みました。
印象に残った歌を引いていきます。
「あなたの声」は、途方もなく柔らかく、優しいのではないかと想像しました。
「誰を呼んでも」ということは、主体を呼んでも、カラスアゲハが来てしまうのでしょう。
困った顔で、でも決して拒むことなくカラスアゲハを指に止まらせるであろう「あなた」。
不器用ともいえる「あなた」を、主体はとても愛しく思っているのではないでしょうか。
用心深く、美しい攻撃性だと思いました。
主体は差し違える覚悟さえ持って、相手の心を折ろうとしているのではないでしょうか。
誠実さすら感じるほど、主体は相手をじっと見つめ、弱い部分を冷静に見極めます。
相手が再起できないほど、深く折ってあげることは、主体の情けなのかもしれません。
「沈む桜」ということは、川などの水辺に桜の花びらが舞っているのでしょうか。
主体は美しい景色をそのまま受け取ることはせず、なぜか攻撃対象として見ています。
「桜は愛でるもの」という固定観念から抜け出している主体はとても自由で、そしてとてもひとりなのではないかと感じました。