九月の俳句など
みなこちら向いてアルパカ秋愁
アルパカの首伸びてくる草霞
あげは蝶譜めくりびとに消えにけり
夜ふかしは二階へ鬼火むかへに来
葛まんぢゆう闇に喘ぐを疵痕に
王痩せて道化となれば秋刀魚呑む
パンケーキ花野になるを待たずして
名月の朝をたまごの煮抜かれし
あんぱんのはらわた漏るる十六夜
十七夜ミルク饅頭平らかに
獺祭忌すべてはジヤンボプリンパフエ
立待ちを椅子は机に座りをり
明くるより灯すが早き賢治の忌
賢治忌の朝を工場明かりかな
緋の裡に働くひとや賢治の忌
素振りとは凩打ち返す仕事
秋分の雨は実験ペンギンの
秋分の雨をゆくなら巡礼路
猫の子の足踏みしげき秋彼岸
食パンは二度焼かれたり彼岸花
名物は虹より厚きたまごサンド
飲み干してカツプの底に白夜光
銀器より注がるるものに秋の蛇
飴色の珈琲店に秋の駒
トーストに染み込むまでに秋日影
窓際の礁となりし律の調べ
宇宙はいびつに膨らむ黒ぶだう
黒葡萄闇は王墓の埋葬品
マスカツト湖ひとつ浮かびたる
静脈を持たず葡萄は凪いでをり
黒葡萄噛めば現る水族館
七粒のマスカツトゆく海賊船
邯鄲の路地に珈琲店空洞
コッパーの黒みに呑まる虫の声
トーストの断崖の如秋深し