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私は階段に嫌われている

 私は階段で3度怪我をした。

 1度目は物心がつく前。頭をバンっと階段に打ちつけ、おでこがカパッと切れたらしい。幼稚園に入った頃、額の傷を見つけて母に聞くと教えてくれた。母は大したことはないだろうと放っておいたようだが、風邪か何かで病院に行った際、傷を見つけた医者から「普通は縫う怪我だ」と怒られたという。そのため、傷は今も残る。傷を見つけてしばらくは、特に何も感じていなかった。しかし、徐々に私は傷がなければよかったのにと悩むようになる。そして時々、病院に連れて行かなかった両親を恨んだ。転機が訪れたのは小1の春。(意外と早い。)ハリーポッターに出会ったのである。「私って実は魔法使いなのかも!」なんて子どもじみたことは考えなかったが、シンパシーを感じたせいかこの物語にのめり込んだ。小1〜小6までは親戚と会うたびに魔法ごっこをしていた。そしてありがたいことに、傷をからかってくるような人も周りにいなかったため、気に病むことはなくなった。手術をしていたとして、傷跡が残らないとは限らないため両親を恨むのもやめた。そもそも自業自得である。それが1度目。

 2度目は年長の頃だ。忘れもしないある夏の昼。私たちは幼稚園の行事で川に来ていた。今考えると岩場が多く、流れも早い園児には向かない川。ただ、その頃はそれが許されたし、私たちも穏やかな川では遊び足りなかっただろう。岩場をピョンピョンと飛び移り、岩から飛び込み、川の流れに身を任せて泳ぐのが楽しかったのである。そんな川だから、階段はコンクリート打ちっぱなしで、手すりもなく、横に転んでしまえば即死亡だと園児でもわかるような簡素なものだった。その階段で私は転んだ。ある瞬間、足を滑らせ、後ろ向きに体が傾いた。そしてマット運動で後ろ周りをするかのような綺麗な姿勢で、ぐるんと回転しながら階段の下へ向かった。やばい。止まらない。止めなきゃ。焦りながら回転していると、何故だか階段の途中でピタッと体が止まった。おそるおそる目を開けると後ろに友達がいた。友達が止めてくれたのだ。


危なかったと思った。死ぬところだったかもしれない。友達を巻き込み、友達を死なせるところだったかもしれない。もし、そうなっていたら私は。いろいろな感情が巻き起こったが、恥ずかしいという感情が何より大きかった。「大丈夫!?」と友達がかなり心配してくれたが、ぐるんぐるんと転げ落ちてくる私を見られたことがたまらなく恥ずかしく、ぎこちなく笑ってごまかした。ここで泣いたらみんなの記憶に残ってしまう。そんなわけにはいかないと思った。しかし、コンクリートの階段を回転したのだ。段々背中がヒリヒリしてきて、園に戻ってから背中に消毒をしてもらい、結局大泣きした。回復は早かった。この時悲惨な背中を見た親は、なぜ先生たちが私を帰らせなかったのか不思議がっていた。しかし、私は背中を自分で見れなかったということもあり、その日の午後も泣き終わると元気に友達と遊んでいた。これは2度目。

 3度目はつい最近。ジブリパークへの道中である。リニモへの乗り換えで、地下へ続く階段を降りていると足を踏み外し、膝を階段にぶちつけた。あ、転んじゃったと思ったが、それだけでは体が止まらず、上半身が前へ倒れていくのがわかった。スローモーションになった。これじゃジブリパークには行けないと思った。また階段だ。私は階段に嫌われている。幼稚園の頃に助かったのは奇跡だったんだ。今度ばかりは死ぬかもしれない。この先ダラダラと生き続けるのならば、この歳で死ねるのはむしろ幸せなことじゃないだろうか。家族や友達は悲しむだろうか。生きていても、首を打ちつけ動けなくなるかもしれない。そんなことを考え、それなりに覚悟を決めていた。そのうちバーンと上半身が地面に打ち付けられ、そのまま5.6段分下にスライドした。

が、意識はあった。肘で衝撃を吸収し、地面にぶつからないよう本能的に頭を守る体勢をとったのである。前をチラっと見ると下には人が何人かいて、ギョッとした顔で振り返っていた。後ろを見ると人がおらず、一安心。もう一度振り返ると、人々がまだ様子を見ていて、何とか体を動かすと、まっくろくろすけのようにサーっとはけていった。距離があるとはいえ、少し驚いた。同時に、助けてもらえると思っていた自分にも驚く。みんな次の予定もあるし、第一気恥ずかしいよねと勝手に納得。歩けるかなと恐る恐る立ち上がると、全身がギンギンに痛んだ。手すりにしがみついて体を引きずるように階段を下っていった。下りながら骨折しているかもしれないと思ったが、下に着く頃には第一派の痛みは収まっており、大事には至らなかったということが分かった。そしてその奇跡に感動し、むしろすごく幸運なのではと思って1人喜んだ。リニモの便数は多くない。先ほどの階段事故を無視した人たちと同じリニモに乗るのは少し気まずかった。これが3度目。

 4度目は避けたい。追記がないことを切に願う。

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