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[report]『昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界』(泉屋博古館東京)


開催情報

『特別展 昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界』
場所:泉屋博古館東京(東京都港区)
開催日:2024.8.31.sat-9.29.sun
入館料:1,200円(一般)
※ ぐるっとパスで入場可

内容:昭和モダンのアートシーンを飾ったモザイク作家・板谷梅樹いたやうめきの作品を一同に集めた展覧会。住友コレクションから、父・板谷波山いたやはざんの作品と、併せて住友コレクションお茶道を紹介。

※  撮影はホール内のみ可。
※ 出品点数 約100点。会期中の展示替えなし。

https://sen-oku.or.jp/tokyo/

主な登場人物

  • 住友友親ともちか(1843-1890)
    住友家 第12代当主。11代友訓とものりの兄。
    長女満寿の婿に友純ともいとを迎え、15代当主を引き継がせた。
    次女楢光は三井物産社長・三井高泰(三井守之助)と結婚。

  • 山田宗有そうゆう(1866-1957)
    茶道宗徧流八世。襲名披露茶会の茶碗と茶入れを板谷波山に依頼。

  • 住友友純ともいと(1865-1926)
    住友家 第15代当主住友吉左衞門友純。号は春翠しゅんすい。旧公家徳大寺家出身。
    1916年、別邸用調度品として板谷波山作品を購入。

  • 小川三知さんち(1867-1928)
    板谷波山の友人。日本のステンドグラスの先駆者。橋本雅邦に日本画を学ぶ。
    1900年 アメリカでティファニー方式のステンドグラスを学ぶ。オパールセントガラスを用いた作品が特徴。
    代表作は慶應技術大学の図書館のステンドグラス『ペンは剣よりも強し』。空襲で焼失したため、現在見られるのは復元したもの。

  • 板谷まる(1869-1958)
    板谷波山の妻。号は玉蘭。跡見玉枝に師事。

  • 板谷波山いたやはざん(1872-1963)
    本名 板谷嘉七。号は郷里の筑波山にちなんで「波山」。近代陶芸の巨匠。東京美術学校彫刻科卒業。岡倉天心、高村光雲らに学ぶ。薄肉彫り・葆光彩磁ほこうさいじによる名品を数多く作成。納得できない作品は叩き壊した逸話で知られる。

  • 平沼亮三(1879-1959)
    実業家。政治家。横浜市長(1951-1959)。大正初期以来の板谷波山の支援者。

  • 出光佐三(1885-1981)
    実業家。出光興産創業者。板谷家の支援者。出光社員退職者の贈答品として、飾皿を板谷梅樹に依頼。

  • 川島理一郎(1886-1971)
    画家。旧日劇壁画の下絵を手がける。

  • 長谷川吉三郎(1889-1967)
    山形の旧家の当主。板谷波山と親交。板谷家の支援者。
    子の山形銀行頭取・長谷川吉郎は、代々収集したコレクションを山形美術館に寄贈。「長谷川コレクション」と呼ばれる。

  • 板谷菊男(1898-1984)
    板谷波山の長男。高校教師。短編集『天狗童子』を執筆。

  • 板谷梅樹いたやうめき(1907-1963)
    モザイク作家。板谷波山の五男(末子)。勉強のできた双子の兄(松樹)にコンプレックスを持っていた(らしい)。18歳でブラジルに渡り、農場で1年働いた後、帰国。小川三知さんちの元でステンドグラスを学び、モザイク作家となる。
    疎開中に作った干し芋にも完璧を目指すこだわり派。

  • 城戸夏男(1914-1999)
    陶芸家。出光社員退職者の贈答品の飾皿、土台の陶器部分を手がけた。

単語

  • 葆光彩磁ほこうさいじ葆光釉ほこうゆうを用いた板谷波山による装飾技法。

  • 薄肉彫うすにくぼり】浮き彫りの一種。

  • はつり】(当展においては)モザイク作成のため、磁器やタイルの表面を削り取ること。

  • 【六色会】工芸家グループ。1937年、板谷梅樹、各務鑛三、香取正彦らが結成。

  • 仕覆しふく】茶道具を入れる袋。中身と合わせて美しいものをしつらえる。

章構成覚書

◆ ホール(撮影可)
 三井用水取入所風景みいようすいとりいれじょふうけい(1954年)
 高さ3.7メートル
 現存する梅樹作品最大のモザイク壁画。
 横浜市からの依頼で作成。横浜市水道局に収められ「横浜水道記念館」1Fロビーに展示される。2021年同館閉館に伴い、板谷波山記念館に寄贈された。

◆ 第Ⅰ章:「モザイクの世界で」(展示室1)
 モザイク作家・板谷梅樹
 父・波山が砕いた陶片を寄せ集めて遊んだことが、モザイク画作成のきっかけとなる。
 出世作:旧日本劇場 モザイク壁画(現存せず)
 ※ 白磁や青磁など波山の陶片をアクセントに作成。(天使の羽根部分など)

◆ 第Ⅱ章: 「日常にいろどりを」
 家具、アクセサリーなど。
  個人宅のためのステンドグラス
  ランプシェード
  帯留、ペンダント(銀座・和光にて販売した)
  ※ アクセサリーの銀装飾も梅樹が作成。

◆ 第Ⅲ章:「住友コレクションと板谷家」
 住友コレクションと板谷波山記念館コレクションより、板谷ファミリー(父・波山、母・まる、兄・菊男)の作品を展示。

◆ 特集展示 住友コレクションの茶道具
 《小井戸茶碗 銘 六地蔵》12代住友家当主・友親が晩年入手。…購入時の値段がお高すぎて、お蔵入りになった一品。春翠が友親の追善供養の茶会で披露。

 野々村仁清《唐物写十九種茶入》


【モザイク作品の作り方】
1.ガラス板の上に図案を描いた薄紙を裏返し、水糊で固定する。
2.加工したタイル片を裏返し、薄紙の図案に合わせて並べる。
3.タイル片の配置を確定。上からセメントを流し込む。
4.セメントが固まったらガラス板を上に返し、ガラス板と薄紙を慎重に剥がす。

関連サイト

↓ 父・板谷波山の記念館(茨城県筑西市)。梅樹作品も所蔵。

↓ 「INAXライブミュージアム」(愛知県常滑市)
 LIXILが開設する文化施設。土とやきものの歴史や文化、美しさや楽しさを伝える活動を展開。

↓ 美術展ナビ 内覧会レビュー(読売新聞デジタルコンテンツ部美術展ナビ編集班 岡本公樹)

↓ アートアジェンダ 内覧会・記者発表会レポート


感想

泉屋博古館東京の開館は午前11時。
11時6分に到着して驚いた。
入り口に20人ほど並んでいる。
泉屋博古館東京には何度か行ったが、大混雑していたことはなかったので油断していた。
この日は12時から学芸員のスライドトークが予定されていて、せっかくだから聞いてみようと思ったのだが、みな考えることは同じのようだ。
公式サイトにスライドトークの定員は50名とあったので、これはちょっと厳しいかな〜と諦めかけていたら、スタッフから「こちらはチケット購入の方の列になります。チケットをお持ちの方は入り口へお進みください。」と、声がけがあった。
やったー!『ぐるっとパス』よ、ありがとう!

『ぐるっとパス』のおかげでスムーズに入館し(…阿佐ヶ谷姉妹の JR の CM のようだ…)、ホールでスライドトークの整理券を受け取ったら59番。
…ん?定員50名じゃないのか?
その後もしばらく整理券は配布していたので80~100名くらい入ったのではなかろうか。

スライドトークの前に鑑賞しようと思ったら、板谷梅樹作品の展示室はトーハク特別展並みの混雑。ザワザワした展示室にスタッフの「展示室内ではお静かにお願いします」の声…
こちらは後回しにして、展示室4の茶道具を眺めながら開始を待つことにした。
以下、展示室内撮影禁止のため、画像は公式Xのポストからご紹介…(私が適当に撮ったスマホ写真より、画像が格段に美しいですし)

【展示室4】住友コレクションの茶道具
12代住友家当主・友親が購入したものの諸事情でお蔵入りになり、その後15代春翠が友親の追善供養の茶会で披露したという《小井戸茶碗 銘 六地蔵》が展示中。
担当学芸員さん曰く「照明の当たり加減などが良く、釉薬の微妙な色合いなどがとても美しく見えるのです!!」…とのこと。

仁清《唐物写十九種茶入》…知識がなくとも、小さい子どもの握り拳のような茶入れに、それぞれセットの仕覆しふくは可愛らしいと思う。
名前も「ひょうたん」や「かぼちゃ」など可愛らしい。
…"可愛らしい"は、場違いな感想な気もする。残念なことに、知識不足で茶道具の良さがよくわかりません。茶道に詳しい方なら、もっとテンション上がるところなんでしょうが…スミマセン…
ちなみに、静嘉堂文庫美術館『眼福展』(2024.9.10.tue-11.4.mon )で、同種の野々村仁清作品が展示中らしいです。

【学芸員スライドトーク】
スライドトークは講堂にて。
イベント開催時以外は、左側のTVでNHK作成《板谷波山 泉屋博古館東京の名品》、中央に大きく《さらば日劇(仮)》がループ上映されている。
美術館で時々行われる学芸員さんによる解説は、日時が合わず参加することは少ないのだが、今回は参加できてよかった!
学芸員さんは親しみやすい柔らかい口調で、内容も知識がなくても聞きやすかった。(…というようなことは、館内アンケートに書けばよいのだが、いつも書きそびれてしまう。)
キャプションにはない豆知識を聞いてから改めて展示を見ると、感慨もひとしお…な気がする…

【展示室1〜3】
スライドトークを聴き終わり、展示室へ。
開館直後の混雑の覚悟したが、ほどんどの観客は鑑賞→スライドトーク→退館だったようで、展示室は落ち着いていた。

冒頭は、モザイク作家・板谷梅樹の26歳デビュー作、「陸の龍宮」日劇の玄関ホールを飾ったモザイク画に関する資料の展示。
1933年、元が壺や茶碗の陶片で作成。原画は洋画家・川島理一郎。
この壁画は1958年に「あまりに芸術的で、そぐわない」という理由でベニヤ板に覆われた。
1981年の劇場解体の際に現れ話題になるも、メインの4つの大作「平和」「戦い」「踊り」「音楽」は廃棄処分となり、資料しか残っていない。
扉上の小さい3つの作品「動物と植物」「地」「天」は梅樹の子が引き取り、現在も所有。

板谷梅樹の作品で、最も印象に残ったのは展示室1の《鳥》。
展示室1の奥の壁中央に展示されているのだが、展示室に入った時からアッ!と目を惹く。
背景のブルーグレーのグラデーションが美しい。
ポツポツと小さいカラフルな破片が入っているのも、左右の青と赤のジグザグラインも、幾何学模様のような鳥の体も、可愛らしい目も、広げた羽根の形も…
これは好きだなあ。
梅樹52歳の作品。第二回日展に出品。

《きりん》キリン模様のアレンジが面白い。
足元の小鳥も可愛らしい。
梅樹作品の動物は、目がかわいいなあと思う。

板谷梅樹の父は陶芸家・板谷波山。
子どもの頃に、父が失敗作を砕いた陶片で遊んだのがモザイク作家になるきっかけだったらしい。

展示室2に、赤い台座が父・波山作の親子コラボ作品の《ランプシェード》がある。
深い赤にランプシェードが映り込んで美しいなあと思って見ていたのだが、スライドトークでこの赤い台座、実は波山が焼いた壺で底に穴が空いてしまった失敗作だったと知った。
…波山がバリバリ壊すの、もったいないなあと家族は思っていたのではないかしらん。
「ちょちょちょ、父さん!待って!それ、俺にください!」みたいなやりとりがあったりは…ないか?勝手に妄想。

ホールに展示の《三井用水取入所風景みいようすいとりいれじょふうけい》のみ撮影可。
「陶片モザイク」壁画として、唯一完全な形で残る。

板谷梅樹《三井用水取入所風景みいようすいとりいれじょふうけい》板谷波山記念館 蔵
ドドーンと 3.7メートル!
…四隅の菱形、横浜市のマークが「ハマ」の2字をデザインしたものだと、初めて知った。

↓ 公式Xより、設置の様子。

1930年半ばから、戦争のため制作が困難となり、またモザイク壁画は建物の老朽化とともに消失したものが多いこともあり、展示作品は飾皿やアクセサリーなど、小さく身近な作品が多い。

お父さんの波山の作品を「欲しい」とは思わないが(凄いとか美しいとは思うが)、梅樹の小物は「欲しい」と思う。
手頃な値段でレプリカのアクセサリーがあったら、買ってしまいそう。
ショップで1枚400円のシールを買ってみた。
どこに貼ろうかな〜。

ショップで販売しているシール1枚400円
…もったいなくて使えないけど、使わないのが一番もったいないか…




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