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[report]『瑛九 ーまなざしのその先にー』(横須賀美術館)


開催情報

瑛九えいきゅう ーまなざしのその先にー』
場所:横須賀美術館(神奈川県横須賀市)
開催日:2024.9.14.sat-11.4.mon
入館料:1,300円(一般)

内容:瑛九えいきゅうの最初期から絶筆に至るまでの油彩画を中心に約100点を展示し、その軌跡を紹介する。


令和6年度第2期所蔵品展
『特集:新恵美佐子 祈りの花』
2024.7.13.sat-10.20.sun

『特集:生誕100年 芥川紗織』
2024.7.13.sat-10.20.sun


※ 「瑛九展」は写真撮影可。
  所蔵品展は撮影不可。ただし芥川紗織と新恵美佐子の特集展示は撮影可。
※ 所蔵品展の音声ガイドをアプリ「ポケット学芸員」で聞くことができる。

主な登場人物

  • ルドヴィコ・ザメンホフ(1859-1917)ポーランド
    眼科医。人工的な国際語「エスペラント」の創始者。

  • 長谷川三郎(1906-1957)
    画家。"瑛九"と名付けた(諸説あり)。

  • 久保貞次郎(1909-1996)
    瑛九の理解者で支援者。瑛九にエッチングプレス機を贈る。

  • 瑛九えいきゅう(1911-1960)
    本名・杉田秀夫。画家、版画家。兄の影響によりエスペラントを学び、宮崎での普及に尽力。兄やミヤ婦人との会話はエスペラントで行っていたという。

  • 谷口ミヤ子(?)
    1948年、瑛九と結婚。瑛九の精神的支柱・一番の理解者となり、生涯瑛九を支えた。

  • 芥川(間所)紗織(1924-1966)

  • 新恵美佐子(1963-)

単語

  • 【フォトグラム】印画紙に物体を直接のせて感光させることで、物体のシルエットによる光と影の構成、また、幻想的なイメージを現出させることができる写真技法。

  • 【デペイズマン】モチーフを本来あるべき環境や文脈から切り離し、別の場所へ移し置くことで、画面に違和感や生じさせるシュルレアリスムの手法。

  • 【デモクラート美術家協会】1951年「既成の美術団体や画壇の権威主義を拒否し、一切の公募展に出品しないこと」を申し合わせ、「自由と独立の精神による制作」を目指し発足。瑛九が中心となる。

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章構成覚書

ハチきれルゼツボウ感で
        キャンヴスをタタコウ。
      ゼツボウが出發だ。

Ⅰ.1911-1951
1925年(14歳) 画家を志し上京。日本美術学校入学。退学。
1930年 オリエンタル写真学校入学。「フォトグラム」に関心を示す。
1936年 フォトグラム作品が画家・長谷川三郎らに認められる。
     精神的なスランプに陥る
1938年 スランプを脱し、油彩画の制作を再開。
1948年 谷口ミヤ子と結婚。
1951年 美術団体「新世代(仮称)」に参画。決別。
    「デモクラート美術家協会」を発足。

Ⅱ.1951-1957
1949年 久保貞次郎からエッチングプレス機を贈られる。
1950年 フォト・デッサンの制作を再開。200点を集中的に制作。
1951年 宮崎から浦和へ転居。
1952年 児童教育協会の改革を目指した「創造美協会」創立。
1956年 浦和の印刷業者のもとで基本的な石板技術を学び、リトグラフ制作を開始。1957年まで多くのリトグラフを制作。
1957年 「デモクラート美術家協会」解散。
     エアー・コンプレッサーで吹き付けを行った油彩画を制作。

Ⅲ.1957-1960
絶筆となった200号の《つばさ》。

絵畫の中に突入できるかどうか、
  最後の冒険をこころみようとしています

1958年10月29日付 瑛九から木水育生への返信より抜粋
木水クニオ『瑛九からの手紙』(瑛九美術館/2000年)

筆がね、こうしてすーっと
  画面に吸い込まれるのですよ。

木水育生「ぼくは瑛九が好きです」より抜粋
『現代美術の父 瑛九展』図録(小田急グランドギャラリー/1979年)

感想

初めて瑛九の作品を見たのは、横浜美術館のコレクション展で見た「眠りの理由」だと思う。
網タイツを着た女性のようなエロティックなものに見え、事件現場のような不穏さも感じ、とても印象に残った。

瑛九「眠りの理由」より 東京国立近代美術館 蔵
1〜10のうちの1点
…非常口が映り込んでしまった…

展示は時系列。全3章。
1章では、上京からフォトグラム作品「眠りの理由」が注目され、その後スランプに陥り、印象派研究からキュビズム、抽象など次々に画風を変転させながら、理想の表現を模索していく時期の作品が展示されている。
いかにも"瑛九"と思う作品から、こんな作品もあるのかと思う作品まで様々…

瑛九《逆光》宮城県立美術館 蔵
結婚した1948年にミヤ子夫人を描いた作品

展示室入り口の6枚のパネル「瑛九を知る6の事柄」が楽しい。
瑛九の人柄が伝わってくる。

イラストも、かわいい

2章へ。
制作に使った道具や型紙、制作風景の写真なども展示されていて、興味深い。
フォト・デッサン、油彩画、エッチング作品の展示。

上:フォト・デッサン作成中の瑛九(撮影:細江英公)
下左:ペンライト 下右:懐中電灯用光調節キャップ
瑛九《自転車》福岡市美術館 蔵
作品に使った型紙。
捨てることなく大切に保管し、別の作品に用いている。
この瑛九の写真、駄々っ子みたいで好き

3章へ。
徐々に対外的な活動から身を引き、浦和のアトリエに籠るように油彩画の制作に傾注していく。

エアー・コンプレッサーを用いた作品。
ゆらゆら揺らいでいるよう。

瑛九《手》埼玉県立近代美術館 蔵

やがて、丸が浮遊し…

瑛九《れいめい》東京国立近代美術館 蔵

動き出し…

瑛九《午後(虫の不在)》東京国立近代美術館 蔵
タイトルは「虫の不在」だが、蜂がブンブン唸るような音が聞こえるみたいだと思った

細かい粒子になって、散っていく…

瑛九《つばさ》宮城県立美術館 蔵
圧巻の200号

所蔵品展

10月20日まで、新恵美佐子と芥川沙織の2つの特集が展示。
「ハニワと土偶の近代展」でも巨大な作品《古事記より》で存在感を放っていた芥川沙織は、今年生誕 100年。これを記念して 10の美術館で各館の所蔵作品を展示している。

横須賀美術館は8番目
芥川沙織 スケッチブック
展示数は多くないが、スケッチブックなどもあって面白い。

もう一つの特集は、横須賀市を拠点に活動している日本画家、新恵美佐子。
横須賀美術館は、海の中のような、船の中のような雰囲気がある。
展示室と作品が調和していて良かった。

右手の小展示室では水墨画の作品を展示。
壁一面の水墨画は、花の中に飲み込まれるような迫力がある。

新恵美佐子《拈花一笑》(部分)作家蔵
枯れゆく向日葵を描いた作品

横須賀美術館公式 YouTube で新恵美佐子のインタビューが公開中。
墨や紙の話が面白かった。…墨も紙も、寝かすのかあ。


おまけ

横須賀美術館の目の前は東京湾。
美術館の屋上には望遠鏡(無料)があり、船ウォッチングするのも楽しい。

こういう船を見ると柳原良平を連想してしまう。
…上に飛んでるのは、もしかしてオスプレイ?



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