[report]『鎌倉別館40周年記念てあて・まもり・のこす 神奈川県立近代美術館の保存修復』(神奈川県立近代美術館 鎌倉別館)
開催情報
『鎌倉別館40周年記念てあて・まもり・のこす 神奈川県立近代美術館の保存修復』
場所:神奈川県立近代美術館 鎌倉別館(神奈川県鎌倉市)
開催日:2024.5.18.sat-7.28.sun
入館料:700円(一般)
内容:「てあて」「まもり」「のこす」の3つの言葉を手がかりに、作品の修復過程や修復に使う道具、作品を守りつつ展示するための工夫など、普段は見られない美術館の取組みを紹介。
※ 大部分が撮影可。一部撮影不可。
主な登場人物
伊藤由美
神奈川県立近代美術館 保存修復担当研究員。橋口由依
神奈川県立近代美術館 保存修復担当学芸員。当展担当学芸員。
章構成覚書
「てあて」
1980年代から現代まで「てあて」された作品の展示、修復内容の解説。
傷ついた作品を直し、新たな損傷を予防するために修復が行われる。
作品の内部にある作家の思想や美術史的な意味を尊重し、それらを損なわない範囲で手を入れる。
2003年 葉山館開館。保存修復担当研究員が配属。
→館内で作品の修復が行える。処置が必要か、長期的な視点で正確に判断できる。
「まもり」
成果がわかりやすいのは修復だが、作品をとりまく環境を整え、損傷を予防するとにより大きな予算と労力が割かれている。
1995年 阪神淡路大震災=日本に多くの美術館が誕生してから最大級の地震
→全国の美術館で収蔵・展示方法が大きく見直された
「まもり」ながら活用するための取り組み
・絵画の保護に重要な役割を果たす額縁
・作品を安全に選び展示する方法
・作品を守る環境作り
「のこす」
もう一歩踏み込んで、作品を「のこす」ことに焦点を当てた事例
神奈川県立近代美術館
1951 鶴岡八幡宮の境内に位置する旧鎌倉館から活動を開始
1984 鎌倉別館開館
2003 葉山館開館
2016 旧鎌倉館閉館→2館体制へ→作品や活動の歴史をどのように残していくかを考える
修復の基本:当初の状態をできる限り維持し、作品への介入を最小限に抑える
しかし、作品の性質上、長期的な保存や修復が困難な場合には、作品をオリジナル性よりも作品を存続させることを優先し、一部を作り変えることがある。
作家が存命のうちによく話し合い、どうやってその作品を保存しておくかを決めておく。
作家とのやりとりなど、作品に関する記録を残しておく。作品のコンセプトを保存する上でも、将来、作品の保存方法を検討する上でも欠かせない材料となる。
関連ページ
↓ 美術手帖レポート(文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部))
感想
作品を保管・展示する美術館の側に焦点を当てた美術展。
普段目にすることのない、美術館側の働きが見え、社会科見学に来たようで楽しかった!
展示室のキャプションもよく見るものとは少し違う。
タイトルの下に修復歴。
作品がどんな状態でどんな「てあて」をしたかが書かれている。
「てあて」
松本竣介《工場》は、収蔵前、事故で真っ二つに割れた。
修理報告書(撮影不可)を見ると、その破損の酷さに驚く。
現在は、報告書と見比べて、やっと割れた箇所が見つけられる。
他にも破損や経年変化を丹念に修復する様子、裏から別の作品が現れた例などが修理報告書(鉛筆手書き)と共に展示されていて、大変興味深い。
「まもり」
額縁は絵画をまもる大切な存在。額縁をめぐる物語が多く語られる。
…すみません、今まで観覧する時、かなり額縁を軽視していました。猛省!
高橋由一《江の島図》の額縁は相当に古く、貼りつけられた布が劣化し取り扱いに注意を要するため、他の美術館に作品を貸し出す時は貸出用額縁で貸し出される。
オリジナル額縁で鑑賞できるのは、神奈川県立近代美術館のみ。
小林徳三《鯵》の額縁は、モチーフに合わせて金箔で鱗模様が描かれている。
新しく丈夫な額縁に変える方が簡単で安全だが、作品に合わせて作られた額縁なので、修復して使い続ける。
村山知義《美しき少女等に捧ぐ》は、油絵具の上に布をつけたコラージュ作品。
布の劣化が激しいが布の修復は難しく、油彩部分だけきれいにしてもバランスが損なわれるため、軽く清掃することしかできない。
アクリル板の入った一回り大きな額縁をつけることで、扱いやすくなった。
中園孔二《Untitled》元々は額装されていない。
側面にまで厚く盛られた絵具が割れるのを防止するため額縁を装着。
額装されていない他の中園作品と並べても違和感がないよう、白色の細い額縁。
「のこす」
清水久兵衛《BELT》修復や、田中岑《女の一生》移設の様子などが、スライドショーや映像で紹介されている。
在し日の旧鎌倉館の映像に、目頭が熱くなる。
虫は作品の敵。
日々、虫との攻防戦が繰り広げられている。
作品が輸送箱と合わせて展示されているのも楽しい。
この美術展、絶対行こうと思っていたのに、後手後手になってしまった。
図録はもう完売!残念!
寄り道:鏑木清方記念美術館
鎌倉別館に行くのに小町通りを歩いていたら「鎌倉市鏑木清方記念美術館」の看板が目に入った。
アッ!これは!先日、フォローしている kaji さんがいらしたところでは!?
すぐそこなので、帰りに寄ってみた。
観光客で賑わう小町通りから、少し入ったここは落ち着いている。
茹だるような暑さの中、打ち水された入り口。
鏑木清方の旧居跡なので「ごめんください。お邪魔いたします。」という気持ちになる。
展示室は1室のみ。展示数は多くないが、美術展ではあまり目にすることのない絵日記やスケッチ、下書きなども展示されていた。
絵日記は「鏑木一家の夏休み」。
たくわんで蟹を釣る女の子3人(鏑木姉妹と友達の梅子)が、雨合羽らしきものを着てニコニコしている。可愛らしく微笑ましい。
小さいけれど、図録や貴重な本が置かれた図書コーナー、中庭が見える休憩コーナー、清方の画室を再現した画室もある。
展覧会は年8回開催、イベントやワークショップも頻繁に行っているよう。
今回の清方の素顔が垣間見れる「夏の日のきらめき」も楽しかったけれど、次の本画と下絵が合わせて展示される「日本画ができるまで」も面白そう。
鎌倉別館への通り道だし、またぜひ寄りたい。
素敵な美術館を紹介してくださった kaji さんに感謝。
8/25 まで「夏休み親子鑑賞」で小中学生と同伴者は観覧無料のようです。
…元々、観覧料 300 円と気軽に入りやすい料金ですが。