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[report]『両大戦間のモダニズム:1918-1939 煌めきと戸惑いの時代』(町田市立国際版画美術館)


開催情報

『両大戦間のモダニズム:1918-1939 煌めきと戸惑いの時代』
場所:町田市立国際版画美術館(東京都町田市) 企画展示室1、2
開催日:2024.9.14.sat-12.1.sun
入館料:800円(一般)
※ ぐるっとパスで入場可

内容:ふたつの世界大戦の狭間にあたる1918〜1939年の20年間に焦点を当て、モダニズムの時代を版画に表したアーティストたちの作品約230点を展示。

※ 写真撮影可のマークのついた作品のみ撮影可


特集展示:『明治時代の歴史物語―月岡芳年を中心に』
場所:常設展示室
入場料:無料
開催日:前期 2024.9.14.sat-10.20.sun / 10.22.tue-12.1.sun
※ 前期後期でほとんどの作品が展示替え
※ 写真撮影可

登場人物メモ(生年順)

  • 月岡芳年(1839-1892)日本

  • フェリックス・ヴァロットン(1865-1925)スイス(フランス)

  • アンリ・マティス(1869-1954)フランス

  • フランティシュク・クプカ(1871-1957)ボヘミア(=現在のチェコ)(フランス)

  • ジョルジュ・ルオー(1871-1958)フランス

  • ピエト・モンドリアン(1872-1944)オランダ(アメリカ)

  • ジャン=エミール・ラブルール(1877-1943)フランス

  • フェルナン・レジェ(1881-1955)フランス

  • パブロ・ピカソ(1881-1973)スペイン(フランス)

  • オーギュスト・エルバン(1882-1960)フランス

  • シャルル・マルタン(1884-1934)フランス

  • 竹久夢二(1884-1934)日本

  • マックス・ベックマン(1884-1950)ドイツ(アメリカ)

  • 藤田嗣治(1886-1968)日本(フランス)

  • マルク・シャガール(1887-1985)ロシア(フランス)

  • マルセル・デュシャン(1887-1968)フランス(アメリカ)

  • マン・レイ(1890-1976)アメリカ(フランス)

  • パーヴェル・リュバルスキー(1891-1968)ロシア

  • オットー・ディックス(1891-1969)ドイツ

  • マックス・エルンスト(1891-1976)ドイツ(アメリカ→フランス)

  • 長谷川潔(1891-1980)日本(フランス)

  • アンドレ・ブルトン(1896-1966)フランス

  • ルネ・マグリット(1898-1967)ベルギー

単語メモ

  • 【ダダイズム】1916年スイス、チューリッヒにて、人間の理性や西洋文明を否定するダダの創始→マルセル・デュシャン

  • 【ノイエ・ザッハリヒカイト(新即物主義)】1920年代のドイツ的リアリズム

  • 【シュルレアリズム】1924年アンドレ・ブルトン、パリにてシュルレアリスム運動を創始

  • 【アプストラクシオン・クレアシオン(抽象・創造)】1931年、オーギュスト・エルバンらがパリにて結成

章構成覚書

CHAPTER 1 両大戦間に向かって:Before 1918
1-1.ベル・エポック(美しき時代)の光と闇:ヴァロットンとその時代
1-2.第一次世界大戦 戦地に向かう/平和を祈るアーティスト

19世紀末〜20世紀初頭
ヨーロッパ:「ベル・エポック」平和と繁栄の時代
 →裏側:貧富の差の拡大、列強諸国の軍事強化
1914年 第一次世界大戦→ベル・エポックの終焉

CHAPTER2 煌めきと戸惑いの都市物語
2-1.フランス:パリ・モードの輝き
 「狂騒の時代」、アール・デコ
 「ポショワール(ステンシル)」の手法による高級雑誌
2-2.アメリカ:摩天楼の夢
 ニューヨークの摩天楼
2-3.日本:西洋への憧憬
2-4.ドイツ:新しい社会の現実
 ワイマール共和国、不安定な時代、インフレ、戦争の悲惨さ
2-5.ロシア:アヴァンギャルドの未来
 社会主義国家へ
 「ロシア・アヴァンギャルド」芸術表現の革新運動の展開←国家統制により1930年代初めに終焉

CHAPTER3 モダニズムの時代を刻む版画
3-1.抽象表現:「アプストラクシオン・クレアシオン(抽象・創造)」のアーティスト
 モダニズムの主な潮流のひとつ
3-2.挿絵本文化:独立版画協会と版画のリバイバル
 エングレーヴィング(古典技法)に注目
3-3.シュルレアリスム:版に刻まれた偶然、幻視、強迫観念
 1924年 シュルレアリスム誕生
 人間の理性中心主義を否定。非合理的な無意識下の世界に目を向けた。

写真や映画が新しい表現として脚光を浴びた時代に、旧来の表現媒体である版画を制作し続けたアーティスト
モダニズム(古い習慣を捨てて新時代に進む)vs「秩序への回帰」戦争をもたらした文明と距離を置いて伝統に立ち返る

CHAPTER4 「両大戦間」を超えて:After 1939
4-1.第二次世界大戦:留まる/亡命するアーティスト

エピローグ
1930年代 ドイツ、イタリア:ファシズム政権の台頭
1939年第二次世界大戦勃発
アーティストの活動が抑圧され、約700名のアーティストがアメリカに亡命
 →マックス・エルンスト、イヴ・タンギー、マルク・シャガールなど

展示室内より 町田市立国際版画美術館作成

関連ページ

↓ 「美術手帖」のレポート(文=坂本裕子)

↓ 白石准氏によるエリック・サティの1+20曲からなる《スポーツと気晴らし》演奏。マルタンのイラストとサティの言葉と共に動画にしたもの。(15分34秒)


感想

二つの世界大戦とその間の「狂騒の時代」、戦勝国・敗戦国と、明暗のコントラストが強い。
「暗」では、オットー・ディックス『戦争』、パーヴェル・リュバルスキー『娼婦』が非常に印象に残った。
「明」は、フランスの華やかさが目を惹く。
シャルル・マルタン『スポーツと気晴らし』を見て、あれっ!?と思った。
エリック・サティに同名の曲があるからだ。
キャプションを読むと、この絵の横にサティの楽譜を掲載して出版したらしい。
知らなかったー!

18-1 シャルル・マルタン『スポーツと気晴らし』《ヨット》平版印刷、ポショワール
右端の女性は海に落ちてしまったのか、裸に上着を肩にかけて別の女性に付き添われている。
18-3 シャルル・マルタン『スポーツと気晴らし』《テニス》平版印刷、ポショワール
テニスボールがティーカップにヒット!

「あらあら、大変」というシーンではあるが、全体としてはオシャレで軽やかで明るい印象。
捻くれてるサティと、あまり合っていない気がしたが、この絵は1914年に描いたものを流行の変化に合わせて描き直したとのこと。サティが作曲した時に見た絵は最初のものらしい。そう言われると、1914年版が見てみたくなる。
もともとサティではなく、当時人気のストラヴィンスキーに作曲を依頼したが断られて、サティに依頼したらしい。(依頼料値下げして)
もしストラヴィンスキーが作曲していたら、どんな曲をつけたのだろう。

…脱線した。展示に戻ろう。


36-1 竹久夢二《雪の風》(『婦人グラフ』第1巻第8号表紙)木版 平版印刷
表紙のレイアウトは「アール・グー・ボーテ」ほぼまんま
夢二の絵が素敵。
…瞬間、「フラグ婦人」と読んでしまった(そんな雑誌イヤだ)
42-4 マックス・ベックマン《メリーゴーラウンド》ドライポイント
こちらはドイツ
ものすごく楽しくなさそうなメリーゴーランドにバンクシーのディズマランドを連想。
74 ジャン=エミール・ラブルール《アンドロメダ》エングレーヴィング

私の撮ったピンボケ写真では分かりづらいが、描き込まれている海の生き物が楽しい!ポケモンのアメタマみたいのがいるぞ!
美術館公式Xのポストで紹介されている。

その他…個人的にエルンストと長谷川潔の展示多めだったのが、嬉しかった。
長谷川潔は、ボンジュールの木《一樹(ニレの木)》があったし、竹取物語も展示。
エルンストが本状態で展示されている。ページめくりたいっ!

展示の最後はフェルナン・レジェの『サーカス』。
戦争の遠い記憶と自然の再生への願いで締めくくられる。

119-6 フェルナン・レジェ『サーカス』107/110ページ リトグラフ

20秒で破壊できる樫の木が、
再び芽を出すのには1世紀かかる。
鳥たちはいつも素晴らしく着飾っている。
進化という言葉は無意味だ。
そして、世界に食物を供給する牝牛は
これからもずっと時速3キロで進むだろう。

作品キャプションより

繰り返される華やかさと狂騒と不安と戦争の歴史を眺めていくと、今、まさに大戦の狭間「第二の狂騒の時代」の終焉が始まっているのではと警鐘が鳴っている気がした。




特集:『明治時代の歴史物語―月岡芳年を中心に』(常設展示室)

常設展示室で、月岡芳年の展示。
1室だけだし、展示数も35点ほどだが(前期後期合わせて72点。ほとんどが前期後期で展示替え)、こちらは入場無料。
月岡芳年『大日本名将鑑』『新形三十六怪撰』、小林清親『小学日本略史』など。

6 月岡芳年《大日本名将鑑 源義光・豊原時秋》
月と人物が縦一列に並んでいて面白い
16 月岡芳年《大日本史略図会 第廿二代雄略ゆうりゃく天皇》大判錦絵三枚続

(前略)タイトルに「第廿二代」とありますが、正しくは21代天皇。
あるとき、雄略天皇一行が山の中で狩りをしていると、獰猛な猪に出くわします。臣下の者が逃げようとするなか、雄略天皇は自ら猪を蹴飛ばし、退治したと伝わります。(後略)

作品キャプションより

大暴れしてる雄略天皇がハチャメチャアクション映画風で面白い。
右端の臣下はミョーに楽しそうだし、猪はキックでぶっ飛んでる。
巻き物風の描き込みも楽しい。

16 月岡芳年《大日本史略図会 第廿二代雄略ゆうりゃく天皇》大判錦絵三枚続(部分)

歴史画のバイブル、 菊池容斎『考証前賢故実』は初めて見た…と、思う…たぶん。
こういうネタ本みたいのがあるんだな〜と、面白かった。
調べたら国立公文書館デジタルアーカイブでダウンロードできるようだ。
私は読めないが、かなり読みやすい字で書いてあるので、漢文が読めれば読めそう…な気がする。読めたら楽しそう。

71 菊池容斎(著) 山下重民(編)『考証前賢故実』


※ 画像の作品は全て、町田市立国際版画美術館所蔵





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