[report]『大吉原展』東京藝術大学大学美術館
開催情報
『大吉原展』
場所:東京藝術大学美術館(東京都台東区)
開催日:2024.3.26.tue-4.21.sun(前期)
4.23.tue-5.19.sun(後期)
入館料:2000円(一般)
内容:
・今や失われた吉原遊廓における江戸の文化と芸術について、ワズワース・アテネウム美術館や大英博物館からの里帰り作品を含む国内外の名品の数々で、歴史的に検証し、その全貌に迫る(初期チラシより)
・日本美術を代表する絵師たちによって描かれた絵画作品を中心にして(中略)テーマごとにご紹介し、当時の美意識を探ります。同時に、作品に描かれた遊女たちに寄り添いながら、制度の犠牲になった遊女たちなしにはあり得なかった吉原の文化と歴史を再考する機会としてまいります。(図録より)
※再入場不可
※物販はチケットが必要な2階のみ(レジ袋有料)
※多くの作品が前期後期で展示替えになります。お目当てがある場合、公式サイトで展示時期の確認をおすすめします。(高橋由一《花魁》や里帰り作品などは通期展示)
※紙の作品リストはありません。公式サイトか、会場入り口掲示のQRコードから PDF がダウンロードできます。
※コインロッカーあるけど少ない。
※キャプションが多い。
※2〜3分の動画の展示が多い。
↓本展公式サイト
↓東京藝術大学大学美術館 公式サイト
図録
販売は2Fの物販コーナーのみ(チケットが必要)
3500円(税込)
ざっくり測って、縦29.5cm×横22.5cm×厚さ3cm
重さ約1.4kg
体感としては子ども向け図鑑の「図鑑NEO」「図鑑LIVE」などと互角の質量。
会場内のキャプションがとても多く、初見で覚えられる量ではないのです。
会場内の文章は概ね図録に載っているようです。会場の展示にはない解説もあり。
会場とは章構成が異なります。(順番が違う。内容はほぼ同じ。)
前期後期でゴッソリ展示替えになりますが、図録には全て載っているので、後期はこれが出るのか〜と思いながら眺めます。
…後期、4/23〜ってすぐGWだしその後は会期終盤で混みそう…
主な登場人物(生年順)
玉菊(1702-1726)
角町中万字屋の遊女。大酒で25歳で早逝。その死を悼み、6月晦日から約一ヶ月、軒先に「玉菊燈篭」と呼ばれる盆燈篭を吊るすようになった。鈴木春信(1724-1770)
浮世絵師。歌川豊春(1735-1814)
浮世絵師。歌川派の祖。蔦屋重三郎(1750-1797)
版元。喜多川歌麿(1753?-1806)
浮世絵師。「青楼の画家」加保茶元成(1754-1828)
妓楼大文字屋主人。二代目一兵衛( 「かぼちゃ一兵衛」)。狂歌グループ「吉原連」をまとめた。鳥文斎栄之(1756-1829)
浮世絵師。旗本出身。鳥高斎栄昌(?)
鳥文斎栄之の弟子。山東京伝《さんとうきょうでん》(1761-1816)
戯作者。浮世絵師(北尾政演)。大田南畝、蔦屋重三郎と交流。扇屋の番頭新造菊園を娶った。玉屋弥八の玉ノ井を身請け。酒井抱一(1761-1829)
絵師。俳人。大文字屋サロンに深く関係。大文字屋抱えの遊女香川を妻とする。十返舎一九(1765-1831)
戯作者。絵師。代表作「東海道中膝栗毛」歌川国貞(1786-1864)
浮世絵師。3代目歌川豊国。菊川英山(1787-1867)
浮世絵師。渓斎英泉(1791-1848)
浮世絵師。鈴木其一(1796-1858)
絵師。酒井抱一の内弟子。歌川広重(1797-1858)
浮世絵師。高橋由一(1828-1894)
洋画家。小稲(4代目)※花魁名は襲名制
稲本楼の遊女。高橋由一《花魁》のモデル。河鍋暁斎(1831-1889)
浮世絵師。日本画家。樋口一葉(1872-1896)
小説家。鏑木清方(1878-1972)
浮世絵師。日本画家。辻村寿三郎(1933-2023)
人形作家。田中優子(1952-)
法政大学名誉教授。本展学術顧問。福田美蘭(1963-)
現代美術家。古田亮(1964-)
東京藝術大学大学美術館教授。担当学芸員。
単語(思いつくまま。未完)
【遊女】
【芸者】
【男芸者】
【花魁】呼び出しのかかる格の高い遊女。呼び出し昼三が最高位
【振袖新造】花魁の世話または見習いとして修行
【番頭新造】
【禿】花魁の世話または見習いとして修行
【坊主禿】
【妓楼主】
【遣手】マネージャー役
【新造】
【妓楼】遊女屋(娼家)の建物。ランクにより大見世(総籬=全面朱塗りの格子)、中見世(半籬=1/4ほど空いた格子)、小見世(総半籬=下半分だけ格子)がある。大見世の遊女は茶屋を通さないと会えない。
【茶屋】
【張見世】妓楼1階の通り沿いにあり、遊女が格子の内側から姿を見せて客を待つこと。
【揚屋制度】客はまず揚屋に上がり、遊女の名前を記した差紙を遊女に送る。差紙と引き換えに遊女屋(置屋)から遊女が送られてくる。17世紀後半にピークを迎え、18世紀になると揚屋は減り、1751年揚屋消滅。
【太夫】上位の遊女。百人に一人の美貌と芸事、気品を持つ。
【散茶】茶屋から流れてきた遊女。客を振ることがなかったことから散茶と呼ばれた。
【大尽】裕福な客
【俄】
【総仕舞】一軒の妓楼を買い切ること
【吉原連】妓楼主や文化人でつくる狂歌グループ
【仮宅】火災で再建中に幕府の許可を得て浅草、本所、深川、中洲などで仮営業した。これを仮宅と呼ぶ。
章構成覚書
順路:1階入り口→地下1階 第一会場→第二会場→3階 第三会場→2階 物販→出口
第一会場
1-0
福田美蘭《大吉原展》…本展キーヴィジュアル
展示される浮世絵の絵柄をそのまま借用しモノクロで構成。本展チラシのデザイナー制作のピンクのロゴを出来るだけそのまま借用し、再構成。
封建的で束縛された内向的なイメージを突き崩し、軽やかで巧みな異なるものと繋がってゆく。第一会場 吉原入門
【浮世絵作品を用いて吉原の文化、しきたり、生活などを映像を交えて解説】
1-1
五丁町全貌
登場人物…遊女、芸者、男芸者、花魁、振袖新造、番頭新造、禿、坊主禿、妓楼主と女房または遣手と妓楼の若い者
妓楼内部の悲喜交々
妓楼の人々
仲之町俯瞰図から見る様々な人々
吉原の遊女の1日…喜多川歌麿《青楼十二時 続》(前期後期分かれての展示)第二会場
【江戸時代の変遷〜変容していく近代の様相までを通覧】
1603 徳川家康、江戸に幕府を開く。大規模な市街整備のため人口は極端に男が多くなる。
1612 江戸市中の遊女屋が江戸に公認の傾城町の設置を幕府に願い出る。
1617 江戸幕府、傾城町の新設を公許
1618 葦屋町に遊郭開業。葭原と称す。
1626 葭原を「吉原」と改める
1657 1月、明暦の大火、吉原類焼
2-1 江戸前期(本展では揚屋制度が続いた時代を位置づける) 武家と豪商たちの遊興
1657 8月、日本堤に新吉原営業開始
1682 遊客は武士から町人中心となる
1728 遊女玉菊の追悼、玉菊灯籠始まる
1760 揚屋が消滅。太夫がいなくなる。女芸者が現れる。
吉原独自のしきたりや遊興のルールが定まっていく
紀伊國屋文左衛門の豪遊
大名・旗本の出入りが禁止・抑制→上客は武士から裕福な商人へ
吉原大衆化の始まり
吉原細見図
2-2 蔦屋重三郎と吉原の出版界
『吉原細見』吉原のガイドブック
2-3 錦絵美人画
蔦屋重三郎プロデュース:大首絵(上半身をクローズアップして描く)の美人画…鳥文斎栄之、喜多川歌麿
2-4 後期江戸吉原 格式と大衆化
18世紀後半 鈴木春信 錦絵(浮世絵革命)
揚屋と太夫の消滅→引手茶屋の台頭→客層の大衆化
吉原内での職業の分化
年中行事(玉菊灯籠、桜、俄など)→地方からの観光客
文化人のサロンとしての場
出版物によるブランド化
2-5 天明狂歌の世界
狂歌の大流行
「吉原連」吉原の狂歌グループ…妓楼大文字屋 加保茶元成
2-6 吉原の近代
1867 戌辰戦争
1872 マリア・ルス号事件
1873 「芸娼妓解放令」
1881 大門、鉄製となる
1911 吉原大火により焼失。廃娼運動高まる。
1956 売春防止法公布
"自由意志"での営業→娼妓への厳しいまなざし
吉原の洋風化
高橋由一《花魁》
写真の中の吉原
西洋から見た吉原
2-7『たけくらべ』の世界
鏑木清方第三会場
【吉原の五丁町を歩いているように感じられる展示室全体の演出】
清掻が流れ、赤い燈篭風照明の灯る吉原をイメージした会場。スタッフは法被着用。
季節の年中行事、客の作法、遊女のファッション、芸者の芸能活動
3-1 市中から吉原へ
・舟による隅田川コース(柳橋の船宿から猪牙船を雇って)
・馬道コース(駒形から馬または駕籠で)
・下谷コース(上野方面から。徒歩の場合の裏道)
3-2 江戸町一丁目 花見 大見世
喜多川歌麿《吉原の花》ワズワース・アテネウム美術館
歌川豊国《桜時の吉原仲之町》大英博物館
孟城斎五郷《「てう子屋美さ山、松葉屋わかな あふき屋うちとふ知」》大英博物館
3-3 揚屋町 茶屋から妓楼へ
十返舎一九著 / 喜多川歌麿画『吉原青楼年中行事』
3-4 京町一丁目 大文字屋サロン
大文字屋「かぼちゃ一兵衛」の狂言の集まり→文化人のサロン的場所へ
酒井抱一第四会場(写真撮影可)
4-1 江戸風俗人形
辻村寿三郎 ・ 三浦宏・服部一郎《江戸風俗人形》
文化・文政時代(1804-30頃)の妓楼を念頭に創作された模型第三会場
3-5 京町二丁目 玉菊燈篭、八朔
遊女玉菊の供養
8月1日田実の節供。農家が新穀を祝う。遊女が冬衣装の白無垢の小袖を着る。→目に涼やかな秋の気配(冬物なので遊女は暑い)
3-6 俄、吉原芸者、花魁の教養
8月1日から晴天の日30日間 俄 出し物、舞踊など
吉原芸者:幼い頃から稽古を積み芸に長けたもの。遊女を引き立てる。太夫衆を中心にした男芸者集団もいた。
3-7 江戸町二丁目 遊女のよそおい、切り見世、よそ行き、雪の吉原
遊女の髪型…遊女が天正頃から髪を頭上に結い始めた
基本四系統「兵庫髷」「島田髷」「勝山髷」「笄髷」
「兵庫髷」「島田髷」「勝山髷」の三種が遊里が流行の発信源。
歌川広重 《名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣》(通期)窓辺の白猫
3-8 仮宅、後朝の別れ
1855 安政の大地震
幕末に吉原で起きた火災の半数は遊女による放火
「責め殺されるぐらいなら火をつけて憤りを晴らし、法の処罰を受けよう」
「見返り柳」
清掻演奏 東音味見純
関連書籍
『遊廓と日本人』田中 優子 (著) 講談社現代新書
ISBN : 9784065260951
『たけくらべ』樋口一葉
『今戸心中』広津柳浪
『註文帳』泉鏡花
…吉原の滅びゆく最後の面影を描いた小説
関連サイト
↓美術手帖 レビュー(文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部))
↓TOKYO ART BEAT レビュー(浦島茂世)
感想
開催前から批判のあった美術展。絵画中心の展示なので「全貌に迫る(初期チラシより)」のは難しいけれど、「吉原の文化と歴史を再考する機会(図録より)」にはなったのではないかと思います。
歌麿作品多数、大英博物館などからの里帰り作品、千葉市美術館で好評だった(らしい)鳥文斎栄之、修復後の初お披露目となる高橋由一《花魁》、猫が可愛い広重の《名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣》、その他、国貞、北斎、鏑木清方、酒井抱一、河鍋暁斎などなど展示作品は見所多数。
事前に公式サイトやSNSでの広報があまりなかったため当日知ったのですが、これほど前期後期で入れ替えがあるとは思わなかった!
歌麿《青楼十二時 続》が一度に全部揃わないのは残念。(一番好きな「丑の刻」は通期で観れるのでそこは嬉しい)
歌麿の《てっぽう》は参考画像じゃなくて、実物来て欲しかったなあ…
第三会場3-2里帰りした歌麿の《吉原の花》、図録の表紙や外の看板に使われている作品。
思ったよりずっと大きく迫力がありました。
登場人物は全て女性。通常なら酒盃は受けてもご馳走を食べることはできない遊女たち。でも、ここではお客も女性。美女ばかりでなく普通顔の人もいて、踊り子も赤ちゃん連れも禿もみんな楽しそう。
第三会場3-3 栄松斎長喜《遊郭善玉悪玉》は、漫画で見かける天使と悪魔の囁きのようで楽しい。妄想アテレコしてしまいます。
…こういうものは悪の方が楽しそう…
第三会場3-7のベロ藍の版画下記2点は、会場中で藍がとても鮮やかに映え、印象に残りました。
溪斎英泉《鯉の滝登り裲襠の花魁》千葉市美術館
歌川豊国(三代)[国貞]《扇屋内 花扇》足立区立郷土博物館
《花扇》はグッズでダイカットポストカードにもなっています。
こちらは前期のみ。
第一会場で《青楼十二時 続》を観ていた時、隣の二人連れの客が「最近、佐伯泰英読んでて、こういうのが出てくるから観てて楽しい」と話していたのが印象に残りました。
時代小説や落語、文楽、歌舞伎などがお好きな方は、この美術展がより楽しめそう。
「たけくらべ」読もうかな。
おまけ:福田美蘭の『新聞版画』
2Fの物販で福田美蘭の「新聞版画」大吉原展verを見かけて購入。
数量限定 購入は一人1点まで 500円
「新聞版画」は福田美蘭が新聞に掲載された自身の作品部分を切り抜いてサインを入れて販売しているもの。
500円が高いのか安いのかわかりませんが、せっかくなので額に入れてみたい。