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メリノの生まれ故郷は何処

今日のニュースは、AFPBBより、スペインのマヨルカ島で行われた「動物の守護聖人」聖アントニオの日についての記事。

羊の大群がその祝福を受けに訪れています。 一見地理とは関係なさそうですが、ここからも少し、地理的なお話ができたりします。
地理はネタの宝庫なのです。 では、今回のお話を。

この聖アントニオの日、有名なフランシスコ会のカトリック司祭、パドヴァの聖アントニオ

のお話かと思いきや、どう考えても祝祭の日付が合いません(こちらは6月のはず)。
それもそのはず、こちらの聖アントニオは、エジプトに生まれ、両親の死後に全ての財産を貧者に分け与えたのち、砂漠にて苦行に励んだと言われています。

彼は厳格な禁欲主義を貫き、パンと塩、水のみで生活し、度重なる悪魔の誘惑にも祈りの力で打ち勝ったとされています。
その生涯から彼は「修道士の父」とも言われており、パウロと共に「砂漠の教父」の一人に数えられています。

さて、地理的なお話と言うのは大アントニオに関する話ではなく、祝福されている羊たちについてのお話。
世界的に重要な家畜となっている羊ですが、家畜化されたのは古代メソポタミア。
そもそも家畜化できる動物は群れで行動し、気性が穏やか、かつ繁殖力が強い草食動物にほぼ限られ(一部例外あり)、羊はそういった意味でも家畜には好適でした。

その後羊はユーラシア大陸全域に広がり、肉と毛を主に利用していました。乾燥や寒冷な気候にも耐えるため、遊牧民にとっても重要な家畜となっています。
野生種はムフロンであると考えられており、ヤギとは近縁種にあたります(交配は困難)。

ちなみに、豚は乾燥や寒冷な気候に弱く雑食性のため、羊などより繁殖力や肉質などに優れるものの、厳しい環境下では飼育されません。
イスラム教で豚が禁忌とされるのも、イスラム教が砂漠の厳しい環境で生まれた宗教であることが一因とされています(羊は問題ない)。

さて、現在世界中で飼育されている羊のうち、最も数が多いと言われているのが、毛を取ることに特化した「メリノ種」

オーストラリアの羊毛生産を支える品種ですが、実は生まれはスペインです。
中世の終わりに生み出された、白くて長く、柔らかい極上の毛を持つ品種で、スペイン王室により長い間独占されていました。
メリノの羊毛の売上による利益は莫大であったと言われています。
イベリア半島の高原地帯メセタは、地中海性気候(Cs)地域の中でも特に乾燥が強く、ヒツジの飼育には好適。

かつ農業は盛んで羊の肉を喫緊で必要としない事情から、この地域で羊毛専用種の羊の品種改良が行われた一因と考えられます。

ちなみにメリノは毛の成長が止まらないため、定期的に毛刈りをしないとそのストレスで失明など健康を害する可能性がある品種でもあります。
雑学としては、一般的に使われる羊の毛は、上毛(ケンプ)ではなく下の毛(ウール)
品種改良の過程で上毛が退化し、ウールが伸びるようにしたんですね。

いずれにしても、スペインは現代の羊の故郷と呼べる地域で、聖アントニオ祭多くの羊が参加したのはある意味ではスペインらしい光景と言えるでしょう。 また、他にもニュージーランドなどにコリデール

やロムニー

(肉と毛の兼用種)も飼育されており、用途を分けて上手くすみ分けをしています。

というわけで、スペインの聖アントニオ祭で、たくさんの羊が祝福を受けている、というお話でした。
見た感じ、この羊たちはメリノではなくロムニーに見えますが、どうでしょう。
そういえば、スペインは牛追い祭りもそうですが、動物が参加する祭りが多いように思いますね。 今回はこれくらいで。

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瀧波一誠
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