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なぜ企業で研究者は嫌われるのか(3) 調達部門から見た研究者

このお話はとても単純なので1話完結です。結論を言えば「研究者が妙なものを買いたがった時にちゃんと応じてくれるかどうか」に尽きます。

研究者を煙たがる「現場」の人々

僕ら研究者が企業で研究するとき、物を買わなければ研究はできません。僕の場合はハードウエアだったので、実験機器や珍しい部品などが必要になることも多く、調達部門の人にはよく煙たがられていました。

「研究所の奴はよくわからんモノを買いたがるのでウザい」

「研究所のものを買ってやっても何の成果にもならないのでウザい」

「購買の慣習を知らないのでウザい」

これは僕の個人的な経験による「怨恨」みたいな話になってしまうので、他社では当てはまらないかもしれません。研究機関や大学などではこの問題に対してきちんとシステムができており(面倒くさいのは面倒くさいんですが)ちゃんと対応してくれます。これら3つのケースについて、僕の体験を少し書いてみようと思います。

よくわからないものを買いたがる

研究所では実験機器や珍しい部品などが必要になることも多いです。そういうものは当然ですが自社の量産品には使われていないため、調達部門にしてみれば聞いたこともないような謎の業者から物を買いたがったりします。普段やり取りしている出入りの業者なら担当者の顔も知っているし、取引口座の登録もあるので決済もいつも通りで済みます。データベースに登録されている品物ならポチポチやるだけですぐ発注できます。普段そういう仕事をしているのに、未知の品物を、未知の業者にコンタクトを取って取引するのはマジにウザいです。仕様もカスタムだったりしてクッソウザいです。それは僕も分かりますが、当社ではなぜか「見積もりを取るのは必ず調達部門」という決まりがあったため、研究者が業者と連絡を取って見積もりを発行してもらうことはできませんでした。ウザくてもなんでもやってもらわないと買いようがありません。

何の成果にもならない

会社の人事評価のシステムにもよりますが、当社は期初に立てた目標を達成できたかどうかで人事評価を行います(至極まっとうな評価方法だと思いますし、当社は比較的客観的でよくできていると思っています)。調達部門の場合、目標に記載される案件は大口取引のみです。当たり前ですが、日常の事務作業などは人事評価に影響することはありません。研究所の人間が時々依頼してくる謎の物品調達など、人事評価には何の関係もないいわばボランティアなのです。それなのに研究所のクソ博士どもときたら、ただでさえメンドクサイ謎の物品を買いたがる上に、買うとなったら何十もの品目を1個ずつとか頼みやがるので、それだけで半日潰れることも珍しくないそうです。

明文化されていない慣習やルールを知らない

企業で物品を購入する取引を行う場合、決済に関する様々なルールや慣習があります。この辺は僕も教えてもらったことがなく、説明資料やマニュアルもないので知りようがなかったりします。僕を含めた研究者はこのあたりを理解しておらず、年度末に予算に余裕があるからとギリギリのタイミングで「今年度予算で処理してね」みたいなことを言います(僕はなるべくしないように気をつけていましたが、上司がけっこうやっていました)。

また、当社の購買はデータシステムによって管理されているため、発注情報を入力する必要があったのですが、なんと発注情報だけは研究者や開発者自身が入力するというルールがありました。発注情報の入力には当然ルールがありますが、取引実績がないものを買ったり、どの資材分類にも該当しないようなものを買いたがるため、入力のルールを頻繁に誤って怒られていました。結局手作業で調達部門が修正しており、何のために研究者が入力していたのかわからないという有様だったことも珍しくありませんでした。

調達部門のストレスを解消するには

僕が個人的に思っていたことですが、一部を職場の庶務の人に権限移譲してしまうのが解決策ではないかと思っていました。

(1) モノタロウ、アスクル、アズワン、RSコンポーネンツなどの通販業者と契約したり、Amazonやヨドバシ.comでの購入を認め、ウザい見積書発行業務を行わないこと。研究者もできればそういうところから買うこと。

(2) 研究者自身が見積もりを取ることを許可し、取引口座がない場合は請求書払いを認めること。銀行振込としてもらって庶務の社員に処理を依頼し、機械的に振り込む(調達部門を介在させない)こと。

当社は製造業でありながらモノタロウすら使うことができず、パソコンのマウスひとつ、ドライバー一本買うにも「購買調達システム」に入力しなければなりませんでした。書籍などは全社規模からみれば買う人が少なすぎて、どうやって買ったらいいかもわかりませんでした。バカバカしいことこの上ないと思いますが、昭和の会社なのでしょうがないんでしょうね。

(2)は実は不可能ではなく「どうしてもやむを得ない場合は認める」みたいなスタンスになっていました。庶務の人に聞いたら請求書の振り込み作業は数枚程度なら大して手間でもないそうでした。(2)で買うものといったら大抵大型のものや特注品で(1)では手に入らないようなものなので、そう頻繁にお願いすることもないんですよね。


と、少し柔軟な運用にして工夫すれば調達部門のストレスもたまらないと思います。何度かこの辺の問題は指摘したつもりでしたが、10年経っても全く(本当に1ミリも)改善されませんでした。もう辞めちゃうからいいんですけど、永久にモノタロウが使えない製造業って・・・(遠い目)


次回は「開発部門からみた研究職」について書いてみようと思います。これは長くなりそうなので分割して投稿します。

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