理工系の女性を増やすにはどうしたらよいか
前回は、なぜ女性は理工系に進学しないかということに対して、私見を書きました。
まとめると、
女子は(自然には)科学技術に興味を持ちにくい
興味がないので理数科目を学ぶ意欲が低くなりがち
意欲が低いので成績が上がらず、暗記でも対処しにくいので忌避する
しかも、女性として理工系を出て働くキャリアを描けない
というプロセスを経て、理工系は男社会になってしまうのではないかということを書きました。
では、どうしたらいいのかという話を書きます。
これも大した調査もしていない私見ですのであしからず。
興味を持てるような活動を圧倒的に増やす
もともと僕はプログラミングなどを小学生の段階から教科に入れるのは反対でして、興味を持たせるのが先だろうと思っています。
せっかくタブレット端末があるんだったら、映像コンテンツをふんだんに使って科学のおもしろさを体感したり、リモートで科学コミュニケーターに授業を頼んでもいいでしょう。
実験や体験の授業にしたって、火気や危険物を使わなくてもできることはたくさんあります。顕微鏡や望遠鏡、磁石、電子回路、楽器、自然観察、パズル、ブロック etc 遊び感覚でできることもいくらでもあるでしょう。科学の不思議を体験して、科学でいっぱい遊んで、楽しんでもらいたいと思います。
座学は座学として必要ですが、そもそも興味を持てるような機会をたくさん作ってあげたらいいと思います。授業時間の半分ぐらいはこれに充ててもいいぐらいだと思います。実際に手を動かして、目で見て、体験するようなプログラムを圧倒的に増やしてやってはどうかと思います。
また、我々製造業も、社会貢献の一環として真剣に考えるべきです。出前授業や工場見学、製品の提供や実演などもありうると思います。
未来のお客様であり、未来の人材です。多少の投資は理にかなっていると思います。社会全体で子どもたちに科学を楽しんでもらうという取り組みこそ、科学技術立国への最初の一歩ではないでしょうか。
(ただし、科学技術立国になる気があれば・・・の話ですが。)
進学後のイメージをもってもらう
女子学生の少ない工学部・理学部・理工学部にも責任の一端はあります。
そもそも、理工学とひとことに言っても、非常に広い学問分野にまたがっているわけです。理工系の学部に進学したからといって、みんながみんな製造業に就職するわけではありません。(比率は学科によります)
特に情報系の需要が伸びてきている現代においては、伝統的な製造業のほうが少ない学科が出てきても不思議ではありません。就職では製造業はもちろん、非製造業もかなり欲しがっているという事実も伝えるべきでしょうし、企業も情報発信をするべきです。(これについては次節)
また、理工学系の学科に入ったら、自分の専門と一致する企業に就職すると思っている人が多いと思いますが、そうではない学生も数多くいるという事実も知られるべきです。
僕はレーザーが専門でしたが、同じ研究室でレーザーや光関係の仕事に就職した人は3割にも満たない程度でした。僕自身、レーザー物理学を専攻しましたが、直接関係ない仕事を長く続け、いまはまったく使っていません。
よく考えれば、法学部に行ったからといって全員が弁護士や検事になるわけでも、文学部に行ったからといって全員が文筆家や文学研究家になるわけでもないでしょう。
同じように、理工学部に行ったからといって、全員が技術者になる必要はないわけです。将来の夢は決まっていないけど、大学に入ってから探そう。という人には、むしろ理工学系の方をオススメしたいぐらいです。
企業からの引き合いはものすごくありますし、専門外であってもかなりあります。いざとなればいわゆる「文系就職」もできます。選択肢はむしろ文系より広いぐらいでしょう。理工系に進んだからといって「専門分野と一致するメーカーに就職する」というキャリアを歩む必要はまったくない。ということを広く知らしめてもらえればと思います。メーカーに入ってオジサンの群れの中で生活するキャリアが全てではありません。
製造業・IT業もイメージアップに努める
我々製造業も努力不足がすぎると思います。とにかくイメージが悪すぎる。力仕事、キツい、汚い、かっこ悪い、オジサンばっかり、ブラック etc といったイメージが先行しすぎています。
僕は10年以上精密機械の業界で働いてきましたが、別に重いものを毎日持ち上げることもないですし、汚れは大敵でおそらく自宅のほうが数万倍汚いです。
むしろ繊細な精密機械の仕事は女性の方が向いているのではないかと思ったこともあります。実際に工場の組立工程では女性が大活躍ですし、研究や試作でも女性社員が目覚ましい成果を挙げたことも多くあります。
前回のnoteでは、女性が理工系を出て働くキャリアを描けない(というか、ネガティブなイメージが先行している)という話を書きました。
この話は本当に製造業全体で反省すべき点で、女性がどのように働けるかというプランをしっかりと(中学・高校生に至るまで)周知するべきだと強く思います。
別に汚くもないし、ものすごい体力も必要としないし、女性でも十二分に能力を発揮できる職場であることを広く知らしめるべきでしょう。
技術者もそうですが、非技術者であっても知的財産部門などの職場はありますし、理工系出身者の活躍の幅は広いです。(少ないながら)当然女性技術者も女性社員も在籍しているわけですから、女性を増やしたいと口先ばかり言ってないで、大々的にキャリアプランを提示し、当の女性社員の活躍ぶりをガンガン発信するべきです。
それこそ、中・高・大学と出前授業でも現物贈呈でも工場見学大歓迎でも、何でもするべきだと思います。
まず第一にやめてほしいのは、新卒向けの説明映像で、作業着が必須ではない職場の社員を作業着で登場させることです。僕は作業着必須のエリアや安全に関わる場合以外ではほとんど着用したことがありません。ダサいし暑いので。デスクワークならワイシャツやポロシャツで勤務してますし、僕の上司なんか夏場はオシャレシャツで仕事してましたからね。
それと、リアルに汚いおじさんは少なからずいるので、すぐ改めるように。いますぐ風呂・洗濯・床屋だ。早く行ってこい。爪も切れ。歯を磨け。本当にこれは強くお願いしたい。若手や女性の定着を願うなら、汚いオジサンをゼロにする活動が必要です。
もうひとつ、現代的な企業ももちろん多いのですが、残念ながら製造業は昭和の社風を色濃く残しているところも少なくないのが現状です。昭和の香りがプンプンする企業はまず自社を改めるところから始めないと、女性はおろか若手が入ってきませんし、定着もしません。個人的には女性が働きやすい会社は男女問わず若い人が働きやすい会社につながると思いますので、アップデートをお願いしたいところです。
理数系科目を回避できないようにする
これは男女問わず、学科問わずお願いしたいところですが、入試においては全学科で基本的な数学や理科は必須とすべきだと思っています。これらを完全に避けて通れる現在の状況では、早々に学習を放棄してしまう生徒があとをたちません。
STEM (Science, Technology, Engineering, Mathematics) 教育はそもそも、製造業を志す人のためにあるわけではありません。これだけ科学技術が浸透し、科学技術なくして社会が成り立たないほどに高度な文明を築いた人類にとって、STEM教育は全ての人が受けるべきものです。
むしろ基礎的な数学や科学の知識は現代社会において常識ともいうべきもので、誰もが知っているべきことです。
さらに、文理で大学の「学習の強度」が著しく異なることも問題だと思っています。「面倒な理数科目を避けて大学に入って、単位は適当に取りながら文系キラキラキャンパスライフ☆」などという寝ぼけたことを何十年ものあいだ許し続けてきたのも問題で、かつては大学のレジャーランド化とも揶揄されました。
最近は文系でも多少勉強するようになってきたようですが、課題や試験の多さ、単位取得や卒業の難しさにおいては理工系の厳しさが知れ渡っています。
ゆえに「なぜラクに入学・卒業できる大学&学部があるのに、わざわざ厳しいところに行くのか」という発想、厳しく言えば「甘え」を許してしまっており、理工系忌避の要因の1つになっていると思います。
個人的には、同じ学士の称号を与える以上は、入学・単位取得・卒業において、全大学・全学部で(まともな)工学部並みの厳しさを要求すべきだと思っています。「楽だから」という理由で理工系を進学候補から外してしまうということは減ると思いますし、全体のレベルの底上げにもつながるでしょう。
なお、理数科目を回避できないようにすれば女性が進学先として理工系を選ぶかというと、あくまで補助的な効果にとどまると考えられます。
ただ、先に書いた理数科目を学ぶと級友と分断されてしまう事態や、早期の理数回避により理工系が真っ先に進学候補から除外される事態をある程度緩和することができそうかと思います。
また、親や教師としても、「大学に入ってからの勉強が同じくらい厳しいなら、就職に強く、実践的なことが学べる理数系に進むべきだ」という勧め方もできると思います。
なにしろ、「理工学部に行ったからといって、全員が技術者になる必要はない」ので。(大事なことなので2回書きました)
国も、企業も、大学も、まだまだやれることはある
僕は教育やキャリア指導の専門家ではありませんので、このあたりの話は素人がただ「こうだったらいいのになぁ」と思っている程度の話です。
ただ、「多くの子供たちに、科学技術の楽しさを伝え、興味を持ってもらう」という活動の拡大は、強くお願いしたいと思っています。
女子は自然発生的に「科学少女」になることはほとんどない。という話は前回書きましたが、逆に科学を楽しいと思える女子を送り出すことができれば、女性の理工系への進出は加速するのではないかと長年思っています。
理工学分野に女性が少ない。それこそ解消すべき「ジェンダーギャップ」であり、もっと問題視されてもいいと思います。まずは興味を持ってもらうところから。楽しいですよ。
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