地下の最果てにて
入社1年目の夏、事件は起きた
舞台は私の職場である百貨店の地下2階
従業員専用ロッカーである
百貨店のロッカーというとキラキラした空間を想像する方もいると思うが実際は違う
奥にはベテラン従業員専用のロッカーがあるが新人は入り口付近のコインロッカーを使用している
専用ロッカーがない為新人は荷物を置いておくことが出来ず毎回制服や靴を持って帰っていた
そう、そのせいで事件は起きた
「最近更衣室臭くない?」
ある日売り場で店長が話しかけてきた
私はハッキリとものを言うこの人が苦手だ
売り場には私を含め4人の社員がいたが性格はバラバラであまり仲は良く無かった
「そうですか?分からないです」
万年鼻炎の私は下を向いて答えた
「最近ロッカー臭くないですか?」
休憩中バームクーヘン売り場のお姉さんが話しかけてきた
「あー確かに臭いですよね」
ここ最近ではあまり話したことの無い顔見知り程度の従業員との共通の話題として「ロッカーの臭さ」が上がるほど全員が耐えがたい臭いに気がついていた
確かに更衣室の臭さは日に日に増して来た気がする
万年鼻炎の私が気づくほどの臭さだった
「噂なんですけど1回清掃業者入れるって話も出てるらしいですよ」
そんな噂も飛び交うようになっていた
そんなある日私は珍しく同期と同じ時間に勤務時間を終えた
「なあ!ユニバのお土産ロッカーで渡すわな」
同期で唯一仲の良い彼女に笑顔で言われ私はとても浮かれていた
お土産はエルモの靴下だった
「え!可愛い!早速はいてかえろかな?」
「実は!自分の分も買ったからお揃いやねん」
「マジ!?はいて写真撮ろうや」
「そうしよ!やったー!」
社会人と言えども18歳
中身はお子ちゃまである
2人で大はしゃぎしながら靴下を履き替えようとした時友達の顔が歪みそして叫んだ
「いや待って!〇〇(私)の靴臭!!!!」
私は言葉を失った
ワタシノクツガクサイ??????
「待って臭!ロッカーの臭いこれやん!!」
意味は理解出来たが脳が追いつかなかった
ここ数ヶ月の異臭騒ぎの原因が私????
「靴持って帰り!明日までに洗うねんで!捨てた方がええかもしれん!臭すぎる!!」
優しい同期にここまで言われてしまい流石に顔がひきつった
「いやいやまさか私なわけ、、、臭!!!」
自分の靴の臭いを嗅ぎ絶句した
私もなぜ今まで気が付かなかったのだろう
私は靴を毎回持って帰るのが面倒でロッカーの上に置いて帰っていたのだ
だから更衣室全体に臭いが充満していたのか
危うく清掃業者まで呼ばれるところだった
「最近更衣室のにおい無くなりましたよね」
悪臭騒ぎから数日後、顔見知りとの会話はこうして始まるようになった
「あはは、そうですよね」
私は下を向いて時が過ぎるのを待つしか無かったのである