Quadeca - Sisyphus 和訳

ラップ系YouTuberとしてキャリアをスタートしたアメリカのラッパーQuadecaが、それまでの音楽性からかなり違う方向に舵を取り、単なる”YouTubeラッパー”を超えた才能を発揮することとなったアルバム、From Me To Youから、アルバム全体のテーマを示しているとも言える一曲です。

タイトルになっているSisyphus(シーシュポス、シシュポス、シシファスなど)はギリシア神話に登場する人物です。色々あって神々を怒らせた彼は、巨大な岩を山の頂上まで上げることを命じられました。しかし、あと少しで頂上に辿り着こうというところで、岩は必ずそこまで転がり落ちてしまうため、彼は永遠にこの苦行を続けなければならなくなりました。

この曲でQuadecaは、良い方向に向かいながらも結果的に振り出しに戻ってしまう恋人との関係性や、周囲からの期待といった重圧を受けながらアーティストとして活動することの難しさなどを、シーシュポスが置かれた岩を持ち上げながらの登山という状況に例えています。このアルバム全体でも登山がモチーフとなっています。

全体を通して詩的な歌詞となっているため、この和訳は彼のファンの解釈を参考にしながら行いましたが、必ずしもその通りに意味が限定されるわけではなく、また、私自身の英語力、文学的センスの関係から翻訳ミスであったり、拾えていないニュアンスがあったりすると思いますがご了承下さい。

[Intro]
Walked, up the hill
山を登っていった
Don’t look down, you’ll be there soon
下を見ちゃダメだ、もうすぐ着くよ
And I love you still
まだ君のことを愛してるよ
Everything feels better when surrounded by the space I need to fill
自分の周りが完璧に満たされてない時、全てが心地いいんだ
And I know
それに分かってるんだ
Everything feels better when I go
自分が進んでいる時、全てが心地いいんだ
(現状に留まるのではなく、常に進み続けるのが彼の性に合っているということ)

[Verse 1]
I been so melodramatic with you on this climb
この登り道の間、僕は君に対して芝居がかった振る舞いをしてる
Can’t wait to feel shitty and tell you about it another time
クソみたいな気分になって、そのことを君にまた話すのが待ちきれない
All of the blisterin’ mends in a callus
全ての水ぶくれはたこによって修復される
(水ぶくれが出来た後は、その部分の皮膚が硬くなり、たこができます。同じように、彼は自らが負った心の傷を治すために心に壁を作ったことが示唆されます。)

Even our bickerin’ getting nostalgic, all of those little things meld into mountains in my mind, uh
口喧嘩さえも懐かしくなってきて、僕の心の中で全ての小さなことが溶けて固まり山になる
(彼は彼女との時間の中で良かったことも悪かったことも振り返っていきますが、それは痛みを和らげることはなく、ただ辛い思いをし続けています。)

August came by, saw you say "Bye," wanna stay by your side
8月がやってきて、君は「さよなら」と言った、僕は君のそばにいたいのに
What the fuck do you say when you know life cannot be the same but you try and try?
同じ人生を歩むことは無理だと分かっているのに、試行錯誤を繰り返すなんてどう思う?
If those footsteps remained after time went by, something expirin’
もし足跡が残り続けているなら、何かが期限切れ間近だ
(雪山に残った足跡は本来であれば雪が積もりすぐに消えてしまいます。しかし足跡が残り続けているなら、それは何人もの人が同じ道を通ってきたことを示しています。彼は同じことが何度も繰り返されていることを好んでいないようです。)

I guess them butterflies in my stomach have been fuckin’ retirin’, uh (Yeah)
僕の胃の中の蝶々はみんな引退しちまったようだ
(ドキドキしていることを表すイディオムに、I have butterflies in my stomach というものがあります。ここでのドキドキは、恋愛での不安や緊張からくるものを指すことも多いです。しかし、何度も同じ事を繰り返し、彼はもはやそんな感情を抱かなくなってしまっているようです。)

[Chorus]
And I love you when I’m back on the climb
この登山に戻ってくる時は、君のことを愛してるよ
You’re only with me in the back of my mind now
でも君はもう僕の心の奥底にしかいない
It's a cycle, it's a path I can’t find, uh
これはサイクルで、僕が見つけられない道筋なんだ
Sisyphus grimace, it’s the rock and roll, vulnerable
シーシュポスのしかめっつら、ロックンロールでもあり、傷つきやすくもある
Maybe it's my fate and it’s all my fault
きっとこれが僕の運命で、全部僕のせいなんだ
And I know
それに僕は知ってる
You got a mountain of your own (Yeah)
君にもまた登っている山があるってことを

[Verse 2]
Wish it wouldn't feel so broken to me
こんなにボロボロな感覚なんて感じられなければいいのに
Tried to take the edge off, but that only brought it closer to me, uh
痛みを和らげようとしたけど、ただ問題がもっと密接に感じられるようになっただけだった
And I just wanna live in a mo’fuckin’ log cabin
とにかく僕は人里離れた丸太小屋に住みたいんだ
In a place where you never have to call back, never have to log back in
電話をかけ直す必要も、インターネットに繋がる必要もない所に
*丸太小屋のLogとログインのLogをかけています。

I’ve been backlogged in black fog, I fall back in, dreamin' of times it wasn't all madness
黒い霧の中に取り残されながら、全てが狂気に取り込まれる前の時間を夢に見る
I just can't mimic it, though
同じような振る舞いはもうできないけど
I been in Sisyphus mode, lookin' up the path of a tall mountain
高い山道を見上げながら、僕はシーシュポスのような状態にいる
And I keep getting stuck in these potholes, maybe I should just let the rock roll
そしてその道の窪みにはまり続けてる、もう岩を転がり落とさせても良いのかもしれない
I’ve been so close to the peak, I know, but I’m tryna stay away from the drop, though
頂上まであと少しのところまで近づいているのは分かってる、でも急降下は避けたいんだ
So I don’t
だから前に進まない
(この部分はシーシュポスの岩というテーマに沿った和訳にしましたが、そうではなく彼の実際の音楽家としてのキャリアの話をしているとの意見もあります。
その場合はこのような訳になるでしょうか

キャリアのピークが近づいているのは分かってる、でも、新曲は出したくないんだ

キャリアのピークが近づいてるため、新曲を出してもファンの期待を越えられないかもしれない、それに頂点にたどり着けば、待っているのは衰退だけかもしれない、こうした不安から、彼はできる限り新曲を出さないようにしているのかもしれません。)

[Chorus]
They only love me when I’m back on the climb (Yeah)
みんなが僕のことを愛してくれるのはこの登山に戻ってくる時だけだ
(前文のパターンでいくと、自分が音楽を出した時だけ人々は彼のことを気にかけ、称賛する、ということを言っているのかもしれません。)

You’re only with me in the back of my mind now
君はもう僕の心の奥底にしかいない
It's a cycle, it's a path I can’t find, uh
これはサイクルで、僕が見つけられない道筋なんだ
Sisyphus grimace, it’s the rock and roll, vulnerable
シーシュポスのしかめっつら、ロックンロールでもあり、傷つきやすくもある
Maybe it's my fate and it’s all my fault
きっとこれが僕の運命で、全部僕のせいなんだ
And I know
それに僕は知ってる
You got a mountain of your own (Yeah)
君にもまた登っている山があるってことを

[Post-Chorus]
Watch your step
足元に気をつけて
Lifting slow
ゆっくり持ち上げて
Giving no imprint in the snow
雪の中に足跡を残さないように
(最初の方にもありましたが、足跡が残るということは、同じ道を歩む人が多いということです。彼は自分だけでなく、他の人にもそれぞれ自分自身の道を進んでほしいと願っています)

And I love you to pieces
バラバラになるまで君のことを愛してるよ
’Til that’s all we’re left with (Yeah)
僕たちの関係がバラバラになるまで
It’s all we’re left with
僕たちが粉々になるまで
In the end (Yeah, oh, yeah)
この世を去る時に

[Bridge]
And sometimes, I wanna disappear
そして時々、僕は消えてしまいたくなる
Been a shitty-ass time and a shitty-ass year
クソみたいな時間だったし、クソみたいな一年だった
But somehow, I’ma get me past here
だけど、どうにかしてこの先へ進んで行こう

[Outro]
Everything feels better when I go
自分が進んでいる時、全てが心地いいんだ

あとがき

彼はこの曲の中で、辛い道のりを経て良くなっていきながらも振り出しに戻ってしまい、何度も同じことを繰り返す関係性について語っていました。途中で彼はそんな繰り返しに嫌気がさし、諦めてしまいそうになりますが、最終的にそれでも前へ進んでいくことを決意します。

また、この曲で言及される”You”は、必ずしも好意を寄せる人であると限定されるわけではありません。”You”が指しているのは自分であり、自分自身に向き合おうとしているという解釈もできます。(実際に、アルバムFrom Me To Youのメッセージは好きな人へ向けたものだけでなく、自分自身に向けられたものでもある、という彼のファンによるツイートに対して本人がいいねをしています)

彼が自分の山を登り続けるように、彼が好意を寄せる相手や、それ以外の人々にとっても、自らが向き合い、登っていくべき山というものが存在していることも彼は述べています。

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